在外日本人を含む相続登記と印鑑証明書

1.海外に居住する日本人を含む相続手続き

(1)遺産分割により取得者を決めた場合

遺産分割協議に基づき取得者を決定し、これに基づいて相続登記をする場合には、遺産分割協議書の添付が必要となる。
詳細は、下記記事を参照。

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(2)遺産分割協議書には印鑑証明書を添付

そして、遺産分割協議書については、真正に成立したことを証するため印鑑証明書の添付を要する。
詳細は、下記記事を参照。

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2.在外日本人と印鑑証明書

(1)印鑑証明書(印鑑登録証明制度)について

印鑑証明書(印鑑登録証明制度)は、市区町村がおこなう事務であり、国が行う事務ではない(証明者は市区町村長になっている。)。
印鑑登録証明事務については、総務省(通知発出当時は自治省)が事務処理要領を発出している。

というわけで、印鑑証明書の発行は、市区町村が当該市区町村に住所を置く住民に対して提供するサービスであり、日本国外に居住する日本人は利用することができない。

印鑑証明書の発行を受けることができる場合

とはいえ、上述の遺産分割協議書のように、海外居住者であっても日本国内の手続きにおいて印鑑証明書が必要となるケースは多々ある。

そんなわけで、日本大使館においては「印鑑登録」と「登録証明書」の発行をしてくれるところもある。

参考記事(外部リンク)
https://www.kr.emb-japan.go.jp/itpr_ja/consulate_ichiran.html#t1

上記は、在大韓民国日本大使館のホームページ。
「IV 証明に関する手続き」において「印鑑登録」「印鑑証明」の案内がある。

大使館における印鑑証明書が、どのような根拠に基づくものかは確認できなかった。

なお、当該印鑑証明書は、相続登記の場面における「印鑑証明書」として活用可能。

(2)印鑑証明書の発行を受けることができない場合

この場合については「日本の領事が作成した署名証明」が代替書類となる。

上記法務省HPでも照会がされているが、2つの登記先例がある。

昭和29年9月14日民甲第1868号回答

【要旨】

登記申請に際して印鑑証明書の添付が必要なのですが、在サンパウロ日本領事から「印鑑証明を取り扱わない」との回答がありました。
そのかわりに「本人の自署であること並びに本人の拇印に相違ない」との領事の証明を付した書面の提出がありましたが、これをもって受理して良いでしょうか?
⇒良いよ。

こちらの先例では、奥書型になっているのだろうか?なお「拇印」の必要性が前面に出ているように感じる。

昭和54年6月29日民三第3549号通知

【要旨】

ブラジルの公証人による本人の署名証明をもって、在外公館の署名証明に代替しても良いか?
⇒良いよ。
(注:ほかにも参考となる論点についての記載があるが省略)

こちらも、奥書型を念頭に置いているように思える。なお回答の前提として「署名」証明のみで良いとする。

3.署名証明書について

(1)署名証明のみで良いのか、拇印証明を要するか

上記先例においては「拇印」証明を要するようにも読める。
また、上記在大韓民国日本大使館のHPにおいても「署名(および拇印)証明」とされている。
(外務省の様式が「署名(及び拇印を押捺)したことを証明」となっている。)

とはいえ署名するなら拇印などいらないと思われ、上記法務省HPでも「署名証明」とだけ記載されている。

参考記事(外部リンク)
https://www.sg.emb-japan.go.jp/itpr_ja/ryoji_shoumei_shoumei.html

上記は、在シンガポール日本大使館のホームページ。
「注意事項」欄に見本が掲載されており、拇印については「必要な場合に」押してとの案内が。

(2)独立型で良いのか、合体型でないとダメなのか

署名証明については、2種類の形式がある。

  • 在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印を行うもの
    (貼付けて割印をおす。本稿では「合体型」という。)
  • 申請者の署名を単独で証明するもの
    (本稿では「単独型」という。)

相続登記(のみならず不動産登記全般)においては、合体型が基本と思われる。
署名の同一性を確認するのは、登記官であっても困難であると思われる。
「領事の面前で署名した」ことまでを証明してくれる合体型が、証明力の点では優れていると考える。

参照:昭和33年8月27日民甲第1738号通達(これを紹介する登記研究558号55頁『登記簿:外国在住日本人の署名証明書について』)

参考記事(外部リンク)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/page22_000554.html

外務省HP「在外公館における証明」

なお、上記外務省HPでも注意書きが付されているが、合体型の署名証明を取得する場合には、領事の面前で署名(又は拇印)を行わなければならない点に注意が必要。
そのため、つぎの2点は留意する必要がある。

  • 署名は領事の面前で行う必要があるため、文書に署名せずに領事館に向かうこと。
  • 領事の面前で署名する必要があるため、代理申請や郵便申請は不可であり、本人が直接出向く必要があること。

4.その他(本稿では触れられなかったこと)

(1)近くに領事館がない場合、領事館への往訪が困難な場合

参照:昭和48年4月10日民三第2999号回答

ただし国によって「公証人」の法的位置づけが異なる点に留意。

(2)一時帰国した際に日本の公証役場で認証を受ける場合

参照:昭和58年5月18日民三第3039号回答

(3)在外日本人が不動産を取得する場合(登記名義人となる場合)

相続登記の申請にあたっては、住所を証する情報(住民票に代替する書面)が必要になる。

なお、署名証明書の記載事項は、氏名・生年月日・日本旅券番号である。

(4)現在は日本国籍を有していない場合

相続を証する書面(被相続人の相続人であることを証する書面)が必要となる。

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