相続登記の簡素化・義務化について

2019年2月14日

0.相続登記の義務化に対して

「義務にする以上は、簡単に手続きできるようにせよ」との意見を見聞きします。

一理あります。

では、現状、相続登記の手続きは、どのようになっているのでしょうか。

(簡略化のため、一部正確ではない箇所がありますが、ご承知おきください。)

以下は、お客様からの話のついでに、個人的な意見をまとめたものです。

1.法定相続による場合

法律上の相続分にしたがって、不動産を相続し、その内容で登記(名義変更)する場合。

父Aが死亡し、相続人が子供B・C・Dの3人(相続分は各3分の1)であった場合に、

父A名義の不動産を、持分3分の1ずつでB・C・Dの3人の名前に名義変更するものです。

最低限必要な書類はつぎのとおり。

  • (1)父Aの出生から死亡までの戸籍
  • (2)子B・C・Dの戸籍・住民票

2.遺産分割による場合

相続人間で話合いをして、名義人を決定する場合。

上記の例でいえば、B・C・Dの3人で話合いをして、Bだけを名義人とするものです。

最低限必要な書類はつぎのとおり。

  • (1)父Aの出生から死亡までの戸籍
  • (2)子B・C・Dの戸籍
  • (3)B・C・Dにより作成された遺産分割協議書(Bを名義人とするもの。)
  • (4)B・C・Dの印鑑証明書(上記協議書に実印で捺印。)

3.現状の整理

(1)なんでも法定相続登記は問題がある

上記1の場合、その後の不動産利用のことを考えると、司法書士の立場としては「問題を生じうる」とは思うのですが、現在の所有者を確認するという趣旨ではOKなのでしょう。

また、このようなケースであれば、比較的簡単に手続きが可能ですし、そうしている方が相当数いらっしゃるように思います。

ただ、繰り返しになりますが、司法書士の立場としては「安易な法定相続登記は問題を生じうる」と考えます。理由は以下に述べます。

上記2の場合についても、法務局HPで、遺産分割協議書を含めたひな形が公開されていますし、書類を整えるという点では、それほど苦労はないかなと思いますが、上記1に比較すれば、分割内容の決定も含めて、確かに手間ではあるかもしれません。

(2)重要な財産を取得する手続きをどこまで「簡素化」?

こうして整理してみると、要求される「簡素化」って、どのレベルなのだろうかと考えてしまいます。

案1:ある方がなくなって、たとえば相続人3名で、ふらっと近くの法務局を訪れ(しかも休日のお仕事が休みの日に!)、個人番号カードなんかを提示して本人確認できれば、さらっと一枚の紙に「誰を名義人にするか」を記入して名義変更完了というもの?

案2:あるいは、もっと進めて、自宅のパソコンから、法務局のHPにアクセスし、相続人3名の個人番号なんかを入力して、「誰を名義人にするか」を打ち込めば名義変更が完了するもの?

(3)オンライン化?

案2がいいなと個人的には思ったのですが、いまの手続きを考えると、非常に大胆な改正が必要になりますし、省庁間の情報連携や個人番号との紐付けなど、一朝一夕には解決しがたい課題があるように思います。

せっかくなので、今の手続きにおいて、何が手続きの困難さをもたらしているかを、次の項で確認したいと思います。

【参考】法務局の相続による登記の案内(書式充実!)

不動産の所有者が亡くなった:法務局

4.そもそも手続きのどこに困難性があったのか?

名義変更のプロセスを整理すると次のとおり。

  • (1)戸籍の収集
  • (2)手続きを要する対象不動産の確認
  • (3)遺産分割協議の内容決定
  • (4)遺産分割協議書の作成
  • (5)法務局に提出する申請書の作成
  • (6)法務局への提出
  • (7)名義変更のための税金(登録免許税)

順番に確認していきます。

(1)戸籍の収集

これは、非常に大きな障害になっていると思います。

問題①:市町村をまたいで除籍や転籍した場合に、それぞれの市町村に請求する必要がある。

問題②:郵送請求の場合、「定額小為替」なるものを現金の代わりに封入して、手数料をおさめなければならない。また本人確認資料の添付や取得戸籍の指示などが複雑。

問題③:戸籍から相続人を確定することが難しいことがある(複数回の婚姻、養子縁組、離婚・離縁など。)

そうすると、解決策としては、

提案①:戸籍を不要にして、申述ベースで相続人を確定させる。

戸籍制度の必要性すら検討事項となる?!

現実的に考えると、たとえば遺言を原則化して、遺言に基づいて全て登記するというのは良いかもしれない。遺言があれば、「出生から死亡までの戸籍をあつめて、相続人を確定する」という作業は必要なくなる。ただしこれは、カルチャーを変える必要がある(遺言の義務化は困難だろう)。

提案②:ひとつの市町村から、全国の戸籍を取り寄せられるようにする。

やればできるようにも思うが。。人口の集中する市町村は大変かもしれない(ただし、そうした市町村は、すでに戸籍等証明書発行サービスを民間委託していることが多いのではなかろうか。)。

提案③:戸籍発行をする際に、教えてもらう。あるいはAIが自動判定!

市町窓口が大変なことになるか、AIが全てを解決してくれる!?

現実問題としては、コンピュータ化されていない戸籍もあるわけで、戸籍を手続上必要とする以上は、なかなかに省略化できないところか。また、「一度のみの婚姻で、配偶者と子供が相続します。」というようなシンプルなケースが多いのかもしれないが、家族の多様化や子がなく兄弟姉妹が相続人になるケースが増加してきており、「戸籍調査の省略化」はハードルが高い。

(2)手続きを要する対象不動産の確認

所有不明土地問題においては、固定資産税等が非課税の物件など、名義変更手続きの際に「忘れられてしまった不動産」も相当するあるように思います。

また、通常の一戸建てにおいても、敷地が複数筆に分かれていたり、道路部分を失念していたりするケースが見受けられます。自分で手続きをした方に多く、法務局で共担目録くらいは確認しているようですが、共担内の物件すら漏れてしまっていたケースも。

問題①:被相続人の名義になっている全ての不動産がわからない。

市町村に行けば、非課税物件も含めて、ある人が課税上の名義人となっている不動産を一覧とした「名寄帳」を発行してくれます。ただし、市町村ごとに編成されているという点が、戸籍収集同様に課題となります。

提案①:ひとつの市町村から、全国の戸籍を取り寄せられるようにする。

やればできるようにも思うが。。個人番号との紐付けが課題か。

(3)遺産分割協議の内容決定

課題①:相続人間で、どのように名義変更をすれば、ベスト(不動産利用の関係、税金上の関係などいろいろな面からみて)なのか、わからない。

手続きの省略化の範疇からは外れるかもしれないが、これも一つの障害といえるか。

提案①:お役所での相談窓口の1本化?お役所への出張専門家相談?

実体的な、かつ複合的な問題となるので、お役所(法務局等)で対応するのは困難であろう。ここは、いわゆる専門家の出番であり、そこへのアクセスを容易にするというのが、手続面での省略化という観点からは限界なはずだ。「AIが~」といわれるかもしれないが、そのAIを提供するのも、お役所ではなく、事業者となるだろう。

(4)遺産分割協議書の作成

課題①:実印及び印鑑証明書による捺印

遺産分割協議書には、相続人全員の実印による押印と、印鑑証明書の添付が必要となる。真正に協議が成立したことを確認するための資料として、これらが要求されている。相続人が認知症だとか行方不明だかいうのは、実体上の問題なので検討対象外。

提案②:他の本人確認および意思確認手段の検討

電子署名や個人番号の提供等で、相続人本人であること、相続人本人の意思によることを確認出来たことにするかどうか。
相続人をBとするとの名義変更の申請に際して、他の相続人C・Dが電子署名をしたり個人番号を提供するといった手段で代替可能かどうか。
できそうな気もするが、不動産の名義変更の場面に限られない、制度・設備の充実や文化の変化が必要になるのか?
そもそもオンラインでの意思確認の仕方って、どうすればよいのか?個人的には、理解できていないところです。

(5)法務局に提出する申請書の作成

昨今は、法務局HPが非常に充実しており、あれをみれば困ることは少ないと思いますが。。

課題①:申請書の作成が面倒である。

提案①:現状の書式例ではなく、入力により申請書や必要書類が完成されるようにする。

申請書はできそうな気がする。必要書類は、遺産分割の内容とリンクしないこともないので、難しいように思う。

(6)法務局への提出

現状でも、窓口・郵送・オンラインの3つの申請方法が用意されています。オンライン申請においては、個人の電子署名を取得する必要があり、またオンライン申請用ソフトの利用が必須です。一般の方で、相続登記をオンライン申請しましたという方には、出会ったことがないです。

課題①:窓口が平日の日中しか空いていない。

課題②:オンライン申請の利用が困難。

提案①:土日も法務局を開けるようにする。

提案②:電子署名の普及(マイナンバーカードの普及!)。申請用ソフトの改善(一度きりの方でも使いやすく。)。

【参照】

登記・供託オンライン申請システムは、不動産登記、商業・法人登記、動産譲渡登記、債権譲渡登記、供託、成年後見登記及び電子公証に関する手続をオンラインにより申請する…
www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp

(7)名義変更のための税金(登録免許税)

課題①:登録免許税が高い。

課題②:司法書士報酬が高い。

提案①:課税対象とするべきかどうかの検討。

相続による名義変更においても、対象不動産の固定資産税評価額の0.4%を、申請に際して「登録免許税」として納める必要があります。

現在、いくつかの特例が用意されており、登録免許税が非課税になるケースもありますが、住宅等の名義変更では必ず課税されるものと思ったほうが良いでしょう。

固定資産税評価額1000万円の不動産を相続して、名義変更に4万円かかるというのが、高いか安いかは、いろいろな考えがあるかと思いますが、これが手続き上のハードルになるというのは果たして。。 

提案②:市場が解決してくれる?!

一方で、名義変更するための司法書士報酬が、登録免許税と同じくらいあるいはもっとかかるという点については、現状の説明としては、以上で説明した諸々の手続き負担の軽減と(どこまでやるかは司法書士により差がありますが)実体面でのアドバイスの提供に対して、個々人が納得できるかどうかだと思います。手続きの軽減が図られた際には、当然に司法書士報酬も下がってくるでしょう。
ただし、人生に数度あるかないかの手続きで、「どれほど楽になったか」というのは比較しようがないですし、「○○のケースで共有登記をすると、今後○○の面で、こういった手続きが必要となってしまいます。」というようなアドバイスに如何ばかりの価値を見出してもらうのか。。
これは司法書士側の問題となりますが、考えていかなければならないことかなとも思います。

(おまけ)

あくまで個人の意見ですが、現状において、登録免許税(資産価値のある不動産を無償で取得できる!)も司法書士報酬(依頼者の方の手続き負担を軽減しているとの自負!)も、あってよいものなのかなと思います。

今後は、登録免許税については課税対象とするかどうかが検討課題となり、司法書士報酬については直接に議論されることとではなく、名義変更手続きの簡素化に従って市場が「見えざる手」を働かせてくれる(司法書士としては市場に自身の有用性を理解してもらわなければならない!)のでしょう。

5.商業登記との比較

以下では、株式会社に絞って話をします。

(1)現状の整理

株式会社においては、登記が設立要件であるため、必ず登記されます。

そして、役員や本店所在地などの登記事項に変更があった際には、

変更から2週間以内に登記をしなければなりません。

最も期間が開くケースでも、役員任期は10年に一度訪れるので、10年に一度は役員変更の登記をしなければなりません(同じ人が引き続き役員になる場合でも必要です。)。

これらの変更登記を忘れると、過料(罰金)の対象となります。

現に、役員の選任登記を忘れていたなどの理由から、過料を科される会社は少なくありません(数万円から数十万円の過料がかされることもあります。見聞きした範囲では25万円というのが最高金額です。)。役員任期が最大10年にできるようになってから、格段に増えているように思います(役員の選任のみならず、その間に生じた住所や氏名の変更も忘れられがち。)。

(2)相続登記との比較

相続登記の義務化においても、この商業登記(株式会社の登記)と同じような仕組みになるのかなと勝手に思ってはいるのですが。

疑問①:相続登記がされていないことを、どうやって確認するのか。仮に当事者からの申請による場合、過料の負担を嫌がり、余計に相続登記されなくなってしまうのではないか。これは、不動産自体の価値が低いものについて、とくにいえることで、結果として、所有者不明土地の増加を促進する?!

疑問②:仮に過料を科すとして、登記名義人に科すのか、相続人全員に科すのか。

提案①:戸籍情報(死亡したこと)と登記情報をリンクさせれば、当事者からの申請がなくとも「相続の有無」は確認できますが、これを今からやるのは相当な負担だと思われます。登記情報には「住所+氏名」のみしか記載されていませんし、外字やら記号やらでうまく照合できないケースも多数出てくるでしょう。

提案①-2:となると、原則としては申請ベースで対応をとりつつ、長期間登記がなされていない不動産に対して、休眠会社と同じように、定期的に「相続人調査を法務局がしたうえで」相続人に対して過料を通知をしていくというのが考えらます。現に、長期相続登記未了土地に対しては、過料を科す目的ではありませんが、法務局による調査が実施されており、また調査結果は登記情報にも反映される予定です。同じことを、過料を科す目的で実施することになるというのは、あり得ると思います。

提案②:税金の原則に従えば、相続人全員の連帯債務になるのでしょう。そうなれば、相続人調査の結果判明した相続人に対して過料通知がいくことに。どれだけ、任意に支払われるのかはナゾですが。