配偶者居住権を得るには?

2019年4月10日

1.配偶者居住権について

(1)条文の確認

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(配偶者居住権)
第千二十八条 
被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第九百三条第四項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。

(特別受益者の相続分)
第九百三条
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。 
(・・・)
4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第一項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

(2)整理

【前提】被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していたこと。

【前提】被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していないこと。

そのうえで、つぎの何れかにより、配偶者居住権を取得すること。

  • 遺産分割協議
  • 遺贈

そして配偶者居住権とは「居住建物の全部について、無償で使用及び収益をする権利。」である。

2.「被相続人の財産に属した建物」とは

(1)借家ではダメ

被相続人の所有する建物(被相続人の財産に属した建物)に対して配偶者居住権は成立しうる。

そのため、借家に対して配偶者居住権は成立しない。

(2)共有状態の場合には注意!

さらに、被相続人が建物の共有持分を有していたにすぎない場合についても、成立しない。

ただし、「被相続人と配偶者が共有」していた場合には、成立しうる。

1028条は、「配偶者以外の者と共有」していた場合には配偶者居住権を取得できないとしている。

共有建物について成立不可とされたのは、排他的利用権を配偶者に付与する点に配偶者居住権の目的があるところ、被相続人の利用権は共有関係により生前から制限されていたことを理由とする。

3.「居住」とは

(1)施設入所していたケースではどうか?

配偶者が、当該建物を生活の本拠としていたことを要件とする。

相続開始時点では、一時的に入院していたケースでは、居住性は失われていないと考えられる。

一方で、老人ホームに入所していて、当該建物に戻る予定がない状態となっていた場合には、「居住」要件を満たすか検討する必要がある。

(2)建物全部を居住の要に供していたことは要件でない

建物の全部を居住に要していたことは要件ではない。

そのため、店舗兼住宅として使用していた場合にも、当該建物に居住していたのであれば配偶者居住権(建物全部を利用する権利)が成立し得る。

4.「遺産分割」または「遺贈・死因贈与」

(1)遺産分割による取得

協議・調停・審判による遺産分割により、配偶者居住権は成立し得る。

なお審判による場合には、1029条。

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(審判による配偶者居住権の取得)
第千二十九条 
遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができる。
一 共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
二 配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(前号に掲げる場合を除く。)。

(2)遺贈・死因贈与

「遺贈」であることを要し、「特定財産承継遺言」では不可である点に注意。

特定財産承継遺言の場合、仮に配偶者が配偶者居住権の取得を拒否した場合、相続放棄のほかに拒否する手段がないため。

相続放棄となると、相続権全般を放棄となるから、配偶者にとっては著しい不利益となる。

(4)かりに「特定財産承継遺言」の目的に配偶者居住権が含まれていた場合

配偶者居住権の部分については「無効」となる。

ところが・・・

【参照:堂薗 幹一郎 (著, 編集), 神吉 康二 (著, 編集)『概説 改正相続法―平成30年民法等改正、遺言書保管法制定―』P14(注2)】

5.登記について

(1)設定の登記

配偶者居住権を主とした者と不動産所有者とが、共同して申請する。

一般的には、遺産分割による相続登記と連件でやることになるのだろうか?(連件でやれば、必要書類が被るから手続きも楽であろう。)

(2)存続期間を登記

設定の登記にあたっては、存続期間が登記事項となる。

原則は「終身」であるが、合意により年限を定めることができる(なお、存続期間の更新は認められていない。)。

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(配偶者居住権の存続期間)
第千三十条 
配偶者居住権の存続期間は、配偶者の終身の間とする。ただし、遺産の分割の協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき、又は家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、その定めるところによる。

(3)抹消の登記

【配偶者の死亡によって権利が消滅したとき】

不動産登記法69条により、不動産所有者が単独で申請することができる。

【死亡以外の原因によって消滅したとき】

原則に立ち返り、共同申請となる。 

参照条文

不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)

(死亡又は解散による登記の抹消)
第六十九条 
権利が人の死亡又は法人の解散によって消滅する旨が登記されている場合において、当該権利がその死亡又は解散によって消滅したときは、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該権利に係る権利に関する登記の抹消を申請することができる。

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