自筆証書遺言の紛失

2016年10月5日

1.自筆証書遺言の紛失

自筆証書遺言は、公正証書遺言とことなり、第三者によって保管されるものではない。

そのため、遺言者の死後、相続人等が遺言を紛失してしまうと、遺言に基づく手続きはできなくなってしまう(遺言者の生存中であっても、再度遺言書を作成できる状態でなければ同様の状況となってしまう。そのため、遺言を作成する際には、公正証書遺言にすべき。)。

公正証書遺言を作成する際には、原本と正本・謄本が各1部作成される。

原本は公証役場に保管。

正本・謄本は遺言者に交付される。

仮に、遺言者が正本・謄本をなくしても、公証役場に請求すれば、謄本を再交付してくれる。

2.検認手続き

自筆証書遺言と公正証書遺言の相違点として、「検認手続き」の要否が挙げられる。

参照条文

民法(明治二十九年四月二十七日法律第八十九号)

第千四条
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする
2  前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
3  封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

(1)検認手続き

参照条文

家事事件手続法(平成二十三年五月二十五日法律第五十二号)

別表第一の103項
遺言書の検認

(2)検認手続きにおける検認調書の作成

根拠条文は下記のとおり。

これにくわえて、遺言書のコピー(写真の場合も)が合綴される。

後日、遺言が改ざんされた場合でも、開封時の遺言の状態を確認出来る。 

参照条文

家事事件手続法(平成二十三年五月二十五日法律第五十二号)

第二百十一条
裁判所書記官は、遺言書の検認について、調書を作成しなければならない。

家事事件手続規則(平成二十四年最高裁判所規則第八号)

第百十四条
法第二百十一条の調書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 事件の表示
二 裁判官及び裁判所書記官の氏名
三 申立人の氏名又は名称及び住所
四 立ち会った相続人その他の利害関係人の氏名及び住所
五 検認の年月日
六 証人、当事者本人及び鑑定人の陳述の要旨
七 証人、当事者本人及び鑑定人の宣誓の有無並びに証人及び鑑定人に宣誓をさせなかった理由
八 事実の調査の結果

3.検認調書の利用

それでは、この遺言調書をもって登記原因証明情報とできるか(たとえば、検認後、遺言書原本を紛失してしまった場合や、他の相続人等が遺言書を隠匿している場合など。)?

(1)検認に関連する先例

平成10年11月26日民三2275

添付された自筆証書による遺言書の家庭裁判所の検認期日の審問調書に、相続人中の1人から「遺言者の自筆ではなく押印は遺言者の使用印ではないと思う」旨の陳述がなされた旨の記載があるときは、遺言内容による登記の申請に異議がない旨の当該陳述者の証明書(印鑑証明書添付)の添付を要する

平成7年12月4日民三4344

相続を原因とする所有権移転登記の申請について、検認手続きをへていない自筆証書遺言を、相続を証する書面として添付している場合には却下する。

平成7年6月1日民三3102

申請書に添付すべき遺言執行者の資格を証する書面としては、家庭裁判所の遺言検認調書の謄本で差し支えない。  

一番最初の先例については、詳細な内容がわからないが、具体的な案件の状況が気になる。。

(2)関連資料

登記研究585P133

不動産登記の実務相談事例集P115

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