目次
1.有限会社は吸収合併における存続会社となれるのか?
(1)吸収合併存続会社にはなれない!
残念ながら、有限会社は吸収合併存続会社にはなれない。
明文で否定されている。
会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 (平成十七年法律第八十七号)
(合併等の制限)
第三十七条
特例有限会社は、会社法第七百四十九条第一項に規定する吸収合併存続会社又は同法第七百五十七条に規定する吸収分割承継会社となることができない。
特例有限会社は、廃止となった旧有限会社法に基づく有限会社について、法的安定性を確保するために例外的に認めらた組織体に過ぎない。
極端にいえば、いつかは無くなることが想定されている種類の会社である。
にもかかわらず、合併「存続」会社となることを認めることは、例外的な位置づけから逸脱する取扱いといえる。
よって存続会社となることを制限されていると説明されている。
(2)存続会社になりたいのなら商号変更による株式会社化
吸収合併において、有限会社を存続会社として存続させたい場合には、商号変更により通常の株式会社へ移行すれば良い。
当然ながら、通常の株式会社であれば存続会社になることができる。
2.吸収合併の手続きを進めつつ商号変更を行うことの可否
(1)並行して手続きを進める
吸収合併の手続きでは、必要とされるステップ(要件)を順番にクリアしていくことは求められていない。
吸収合併の効力発生日までに、全てのステップ(要件)を完了させていれば良いとされている。
そうした考えによれば、「存続会社が有限会社ではなく株式会社であること」という点についても効力発生日までに移行の手続きが終わっていればOKと考えられ、実務上もそのように扱われている。
【参考文献:渡部吉俊『会社法施行後における商業登記実務の諸問題(4)』登記情報546号30頁】
(2)並行して進める場合の「合併契約書」における注意点
合併契約書には、つぎの事項を記載しなければならない。
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(株式会社が存続する吸収合併契約)
第七百四十九条
会社が吸収合併をする場合において、吸収合併後存続する会社(以下この編において「吸収合併存続会社」という。)が株式会社であるときは、吸収合併契約において、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株式会社である吸収合併存続会社(・・・)及び吸収合併により消滅する会社(・・・)の商号及び住所
(・・・)
六 吸収合併がその効力を生ずる日(以下この節において「効力発生日」という。)
749条において契約書に定めることが求められている「吸収合併存続会社の商号及び住所」としては、合併契約締結時における「現在の有限会社としての商号及び住所」だけでなく「合併の効力発生日における商号及び住所」も記載すべきとされている。
(上述の参考文献を参照。)
(3)官報公告・各別催告における注意点
吸収合併の効力発生の条件として「商号変更により通常の株式会社へ移行がなされていること」を記載すべきとされている。
また、有限会社については決算公告が義務付けられていないものの、効力発生日には株式会社になっていることを考えると「最終事業年度の貸借対照表」を示す必要があると考えられる。
公開されている官報公告をみても、こうした条件を反映した官報が掲載されていることを確認できる。
(直近で確認できたものだと令和5年11月24日号外第246号217頁)
左記会社は甲【有限会社】が株式会社となる商号変更を条件に合併して、甲は乙の権利義務全部を承継して存続し乙は解散することにいたしました。
上記官報より引用(商号変更後の商号は記載されていない。)
以上、2つの論点についても上述の参考文献を参照。
また合併公告の記載例としては、下記文献も参照のこと。
(商号変更後の商号を明記している。)
【参考文献:神﨑満治郎 (編集), 金子登志雄 (編集), 鈴木龍介 (編集)『商業・法人登記500問』テイハン (2023/7/7)P.538】
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(債権者の異議)
第七百九十九条
(・・・)
2 前項の規定により存続株式会社等の債権者が異議を述べることができる場合には、存続株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。
一 吸収合併等をする旨
二 消滅会社等の商号及び住所
三 存続株式会社等及び消滅会社等(株式会社に限る。)の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
3 前項の規定にかかわらず、存続株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告は、することを要し
会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)
(計算書類に関する事項)
第百九十九条
法第七百九十九条第二項第三号に規定する法務省令で定めるものは、同項の規定による公告の日又は同項の規定による催告の日のいずれか早い日における次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものとする。
一 最終事業年度に係る貸借対照表又はその要旨につき公告対象会社(法第七百九十九条第二項第三号の株式会社をいう。以下この条において同じ。)が法第四百四十条第一項又は第二項の規定による公告をしている場合 次に掲げるもの
イ 官報で公告をしているときは、当該官報の日付及び当該公告が掲載されている頁
ロ 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙で公告をしているときは、当該日刊新聞紙の名称、日付及び当該公告が掲載されている頁
ハ 電子公告により公告をしているときは、法第九百十一条第三項第二十八号イに掲げる事項
二 最終事業年度に係る貸借対照表につき公告対象会社が法第四百四十条第三項に規定する措置をとっている場合 法第九百十一条第三項第二十六号に掲げる事項
三 公告対象会社が法第四百四十条第四項に規定する株式会社である場合において、当該株式会社が金融商品取引法第二十四条第一項の規定により最終事業年度に係る有価証券報告書を提出しているとき その旨
四 公告対象会社が会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第二十八条の規定により法第四百四十条の規定が適用されないものである場合 その旨
五 公告対象会社につき最終事業年度がない場合 その旨
六 公告対象会社が清算株式会社である場合 その旨
七 前各号に掲げる場合以外の場合 会社計算規則第六編第二章の規定による最終事業年度に係る貸借対照表の要旨の内容
会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 (平成十七年法律第八十七号)
(計算書類の公告等に関する規定の適用除外)
第二十八条
特例有限会社については、会社法第四百四十条【計算書類の公告】及び第四百四十二条【計算書類等の備置き及び閲覧等】第二項の規定は、適用しない。