概括的にまとめるが、やや正確性に不安。
目次
1.条文と基本的な性質
民法(明治二十九年法律第八十九号)
第千三十一条
遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。
第千四十条
減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。
最判昭和41年7月14日
遺留分権利者が民法一〇三一条に基づいて行う減殺請求権は形成権であつて、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によつてなせば足り、必ずしも裁判上の請求による要はなく、また一たん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずるものと解するのを相当とする。
最判昭和35年7月19日
未登記の【遺留分減殺請求者】は【減殺請求を受けた者】から本件不動産を買受け所有権移転登記を経た者に対し、所有権取得をもつて対抗し得ない
最判昭和57年3月4日
民法一〇三一条所定の遺留分減殺請求権は形成権であつて、その行使により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に遺留分権利者に帰属する
最判平成8年1月26日
遺言者の財産全部についての包括遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない
遺留分減殺請求権行使の効果が減殺請求をした遺留分権利者と受贈者、受遺者等との関係で個別的に生ずるものとしていることがうかがえるから、特定遺贈に対して遺留分権利者が減殺請求権を行使した場合に遺留分権利者に帰属する権利は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しないと解される。そして、遺言者の財産全部についての包括遺贈は、遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので、その限りで特定遺贈とその性質を異にするものではないから
2.注意点
(その1)
遺留分を侵害する限度において当然に失効する。
失効された限度において、減殺請求権を行使した相続人が、権利を承継する。
ただし、登記先例においては、①事後的に登記原因「遺留分減殺」として登記すべしというものと、②被相続人名義のままである場合に直接に減殺請求後の状態で登記することを認めるものがある。後者については、特に争いあり。
①②昭和30年5月23日民事甲第973号回答
Aが包括遺贈を受け、その登記前に相続人Bより遺留分減殺請求ありたる場合は、直接Bのために相続による所有権移転登記をなすべき。
なお、既に遺贈の登記がなされている場合には、その登記を抹消することなく、遺留分につき減殺請求による移転の登記をすべきであり、この場合の登記原因は、遺留分減殺とする。
※登記原因「遺留分減殺」のときの登記原因日付は「減殺請求の意思表示が相手方に到達した日」。相続登記後の遺産分割による登記と同じか。
(その2)
減殺請求権の行使により共有関係が生じた場合に、それが物権共有となるか、遺産共有となるか留意が必要。遺産共有であれば、遺産分割による共有状態の解消が可能。
(その3)
減殺請求後の状況を登記上反映するには、「共同申請」が原則になる。紛争状態では、共同申請は困難と考えられるが、他方で最判昭和35年7月19日のとおり、対抗問題として処理されることに注意。処分の恐れがある場合には、処分禁止の仮処分により対応する必要がある。
3.減殺請求の対象となる贈与・遺言ごとの整理
考え方としては、相続による承継が完了してしまえば「物権共有」に、そうでなければ「遺産共有」になるという整理だろうか?
また、減殺請求による遡及効についても考慮事由になるようだが、その点についてはまとめきれなかたった。
(1)特定遺贈・全部包括遺贈
(登記未了)※以下「登記未了」とは贈与や遺言による登記が未了ということ。
直接に相続登記可能とされる。なお、持分移転となる場合には、先に「遺贈」、続けて「相続」。
ただし、これには批判があり、遺留分減殺請求により生じた物権変動であるから、これを公示するため、「遺贈→遺留分減殺」の順に登記すべきとされる。また、この見解からは、持分移転に際しても、まず「遺贈(遺留分減殺前の割合)→相続(遺留分減殺請求前の割合)→遺留分減殺」の順に登記することになるのだろうか。
(登記済)※以下「登記済」とは贈与や遺言による登記が完了しているということ。
「遺留分減殺」を登記原因とする、所有権一部移転登記等を申請する。なお、共同申請である。
また、減殺請求後の共有は「物権共有」とされる。
(2)包括遺贈
割合的包括遺贈については、遺産共有の持分割合が変更されるとされる。他方で、全部包括遺贈については、物権共有になるとされる。
(登記未了)
登記申請については、先述の2つの考え方で争いがあり、減殺後の割合で登記できるという考え方と、順次登記すべきという考え方がある。
遺産共有になるのなら、最終的な遺産分割の結果を踏まえ、「相続」による登記をすることも可能か?(遺贈と混じったらダメ?)
(登記済)
「遺留分減殺」を登記原因とする移転登記申請。割合的包括遺贈であるならば、その後、遺産分割による共有解消が可能?
(3)相続分の指定
遺産共有の持分割合が変更されるとされる。
(登記未了)
この場合に、遺産分割前における修正された持分割合をもって共同相続登記ができ、また、遺産分割協議の結果を踏まえ「相続」による登記をすることも可とされる。このケースを考えると、上記(2)も遺産共有になるのであれば同様の結論としてよいのではないかな。
(登記済)
ここで更正登記は不可なのだろうか?
(4)相続させる旨の遺言
遺産共有の状態から除外されるとするのが判例の趣旨であるので、減殺請求の結果として物権共有になるという。。。
(登記未了)(登記済)
となると、特定遺贈と似たような登記申請になるのだろうか。
最判平成3年4月19日
当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の
の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう
遺産の分割の方法を定めた遺言であり、(・・・)当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される
【参考書籍】
1.民法Ⅳ親族・相続第4版(LEGALQUEST)
2.改訂 設問解説 相続法と登記