司法書士による本人確認情報の作成(複数の代表者がいる法人について)

1.司法書士による本人確認情報の作成

(1)司法書士による本人確認情報について条文を確認

参照条文

不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)

(事前通知等)
第二十三条 
登記官は、申請人が前条に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、法務省令で定める方法により、同条に規定する登記義務者に対し、当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知しなければならない。この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。
(・・・)
4 第一項の規定は、同項に規定する場合において、次の各号のいずれかに掲げるときは、適用しない。
一 当該申請が登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってされた場合であって、登記官が当該代理人から法務省令で定めるところにより当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な情報の提供を受け、かつ、その内容を相当と認めるとき。
二 当該申請に係る申請情報(委任による代理人によって申請する場合にあっては、その権限を証する情報)を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録について、公証人(公証人法(明治四十一年法律第五十三号)第八条の規定により公証人の職務を行う法務事務官を含む。)から当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な認証がされ、かつ、登記官がその内容を相当と認めるとき。

法令上の文言にならっていうならば「資格者代理人による本人確認情報」となる。
(「資格者代理人」については不動産登記規則63条5号柱書に定義が置かれている。以下では、「登記の申請の代理を業とすることができる代理人」の部分は便宜「司法書士」とさせていただく。)

その役割は、登記識別情報を提供することができない場合に必須となる「登記官による事前通知の手続き」を、省略させることができる点にある。

事前通知については、下記の関連記事。

関連記事
事前通知(不動産登記法)に関する規定を再確認する
1.事前通知制度に関して (1)事前通知制度とは 登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をするときには、登記義務者の登記識別情報を提供する必要…

(2)司法書士による本人確認情報の作成

不動産登記法23条1項は、登記官に対して「登記識別情報を提供することができないときは・・・登記義務者に対し・・・通知しなければならない」としている。

一方で、同条4項は、つぎのいずれにも当てはまる場合には「1項の規定を適用しない」としている。
(なお、公証人による認証(同項2項)については言及しない。)

  • 申請が司法書士によってされた場合であること
  • 登記官が当該司法書士から法務省令で定める情報の提供を受けること
    (前提として、司法書士が申請人の一方が申請の権限を有する登記義務者であることを確認したこと。)
  • 当該情報提供により、登記官もまた、申請人の一方が申請の権限を有する登記義務者であることを確認することができたこと。
参照条文

不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)

(資格者代理人による本人確認情報の提供)
第七十二条 
法第二十三条第四項第一号の規定により登記官が資格者代理人から提供を受ける申請人が申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために必要な情報(以下「本人確認情報」という。)は、次に掲げる事項を明らかにするものでなければならない。
一 資格者代理人(・・・)が申請人(申請人が法人である場合にあっては、代表者又はこれに代わるべき者。以下この条において同じ。)と面談した日時、場所及びその状況
二 資格者代理人が申請人の氏名を知り、かつ、当該申請人と面識があるときは、当該申請人の氏名を知り、かつ、当該申請人と面識がある旨及びその面識が生じた経緯
三 資格者代理人が申請人の氏名を知らず、又は当該申請人と面識がないときは、申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために当該申請人から提示を受けた次項各号に掲げる書類の内容及び当該申請人が申請の権限を有する登記名義人であると認めた理由
2 前項第三号に規定する場合において、資格者代理人が申請人について確認をするときは、次に掲げる方法のいずれかにより行うものとする。ただし、第一号及び第二号に掲げる書類及び有効期間又は有効期限のある第三号に掲げる書類にあっては、資格者代理人が提示を受ける日において有効なものに限る。
一 運転免許証(・・・)、個人番号カード(・・・)又は運転経歴証明書(・・・)のうちいずれか一以上の提示を求める方法
二 国民健康保険、健康保険、船員保険、後期高齢者医療若しくは介護保険の被保険者証(・・・)であって、当該申請人の氏名、住所及び生年月日の記載があるもののうちいずれか二以上の提示を求める方法
三 前号に掲げる書類のうちいずれか一以上及び官公庁から発行され、又は発給された書類その他これに準ずるものであって、当該申請人の氏名、住所及び生年月日の記載があるもののうちいずれか一以上の提示を求める方法
3 資格者代理人が本人確認情報を提供するときは、当該資格者代理人が登記の申請の代理を業とすることができる者であることを証する情報を併せて提供しなければならない。

上記については、いろいろな論点があるが、今回は省略。

2.登記義務者が法人の場合

(1)代表者または「これに代わるべき者」

さきほど確認した不動産登記規則72条を部分的に抜粋すると「資格者代理人(・・・)が申請人(申請人が法人である場合にあっては、代表者又はこれに代わるべき者。(・・・))と面談」と規定されていた。

そんなわけで、法人にあっては、つぎの者との面談を行い確認をすることになる。

  • 代表者
  • 代表者に代わるべき者

「代表者に代わるべき者」とは、当該法人において定められた業務分掌において、不動産の取引をする権限にある者ということになる。

(2)業務権限の確認方法

実務上では、社内規定等を利用することは少なく、個別に「業務権限証明書」を作成し、そこに会社代表印を押印する(及び会社代表印にかかる印鑑証明書により確認する)ことによって権限確認をすることが多いのではないだろうか。

なお、印鑑証明書の添付については後述の参考文献P.128を参照。

3.法人の代表者が2人いる場合

(1)登記委任は代表取締役A、本人確認情報は代表取締役B?

いよいよ、今回確認したかった事項である。

とある司法書士は、株式会社Aが登記義務者となる所有権移転登記申請について、申請代理人となることを予定している。

申請に際して提供が必要な登記識別情報を株式会社Aは失念していたため、司法書士のよる本人確認情報を作成することとなった。

株式会社Aには、代表取締役甲と代表取締役乙がいる。
登記関係書類(委任状を含む)については、代表取締役甲が押印していた。

ところが、決済日当日に本人確認をしようとしたところ、代表取締役甲は海外出張に出かけており、面談できるのは代表取締役乙のみであった。

登記申請に関する委任はAから受けるのに、本人確認情報はBとの面談により作成しても良いのだろうか?

(2)参考となる文献と参考とならない私見

参考文献は、つぎのとおり。
登記研究761号『実務の視点(31)』P.113以下。

P.127において、この点に関する見解が記載されている。
理由付けも含めて参考とされたい。

私見としては、当該申請と紐づく形で司法書士による本人確認情報が認められているのであるから、委任状も含めた申請情報とのつながりが必要な気もする。
(委任を受けて本人確認しているのではないか?)

一方で、確認をすべき代表者が同一でなければならないとする規定が存在しないのも確かにそのとおりであるし、これをもってOKとしてもらったこともある。
ただし、先例ではないので、事前確認は必要かなとは思うが、ご紹介まで。

関連記事
事前通知(不動産登記法)に関する規定を再確認する
1.事前通知制度に関して (1)事前通知制度とは 登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をするときには、登記義務者の登記識別情報を提供する必要…
不動産登記の委任状と公証人の認証
1.不動産登記法における押印規定 (1)不動産登記令 参照条文 不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号) 第十八条 委任による代理人によって登記を申請する場…