目次
1.事前通知制度に関して
(1)事前通知制度とは
登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をするときには、登記義務者の登記識別情報を提供する必要がある。
なにかしらの事情によって、登記義務者が登記識別情報の提供ができないときに、登記官は登記義務者に充てて、つぎのような内容の通知を送付する。
- 申請があった旨
- 当該申請の内容が真実であると思料するときは一定の期間内に一定の方法によりその旨の申出をすべき旨
この通知に対して、登記義務者から「当該申請の内容が真実である」との申出がなされた場合に限り、当該申請にかかる登記を登記官はすることができる。
(2)事前通知に関する条文を確認する(法)
不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)
(登記識別情報の提供)
第二十二条
登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合その他登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合には、申請人は、その申請情報と併せて登記義務者(政令で定める登記の申請にあっては、登記名義人。次条第一項、第二項及び第四項各号において同じ。)の登記識別情報を提供しなければならない。ただし、前条ただし書の規定により登記識別情報が通知されなかった場合その他の申請人が登記識別情報を提供することができないことにつき正当な理由がある場合は、この限りでない。
(事前通知等)
第二十三条
登記官は、申請人が前条に規定する申請をする場合において、同条ただし書の規定により登記識別情報を提供することができないときは、法務省令で定める方法により、同条に規定する登記義務者に対し、当該申請があった旨及び当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知しなければならない。この場合において、登記官は、当該期間内にあっては、当該申出がない限り、当該申請に係る登記をすることができない。
2 登記官は、前項の登記の申請が所有権に関するものである場合において、同項の登記義務者の住所について変更の登記がされているときは、法務省令で定める場合を除き、同項の申請に基づいて登記をする前に、法務省令で定める方法により、同項の規定による通知のほか、当該登記義務者の登記記録上の前の住所にあてて、当該申請があった旨を通知しなければならない。
3 前二項の規定は、登記官が第二十五条(第十号を除く。)の規定により申請を却下すべき場合には、適用しない。
4 第一項の規定は、同項に規定する場合において、次の各号のいずれかに掲げるときは、適用しない。
一 当該申請が登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってされた場合であって、登記官が当該代理人から法務省令で定めるところにより当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な情報の提供を受け、かつ、その内容を相当と認めるとき。
二 当該申請に係る申請情報(委任による代理人によって申請する場合にあっては、その権限を証する情報)を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録について、公証人(公証人法(明治四十一年法律第五十三号)第八条の規定により公証人の職務を行う法務事務官を含む。)から当該申請人が第一項の登記義務者であることを確認するために必要な認証がされ、かつ、登記官がその内容を相当と認めるとき。
なお、この記事では法23条2項以下については、触れない。
(3)整理
登記官がする通知の内容。
- 法務省令で定める方法により
- 同条【法22条】に規定する登記義務者に対し
- 当該申請があった旨を通知
- 当該申請の内容が真実であると思料するときは法務省令で定める期間内に法務省令で定めるところによりその旨の申出をすべき旨を通知
法務省令の内容については、以下で確認していく。
2.不動産登記規則
(1)事前通知に関する条文を確認する(規則)
不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)
(事前通知)
第七十条
法第二十三条第一項の通知は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める方法により書面を送付してするものとする。
一 法第二十二条に規定する登記義務者が自然人である場合又は当該登記義務者が法人である場合において当該登記義務者である法人の代表者の住所に宛てて書面を送付するとき 日本郵便株式会社の内国郵便約款の定めるところにより名宛人本人に限り交付し、若しくは配達する本人限定受取郵便又はこれに準ずる方法
二 法第二十二条に規定する登記義務者が法人である場合(前号に掲げる場合を除く。) 書留郵便又は信書便の役務であって信書便事業者において引受け及び配達の記録を行うもの
三 法第二十二条に規定する登記義務者が外国に住所を有する場合 書留郵便若しくは信書便の役務であって信書便事業者において引受け及び配達の記録を行うもの又はこれらに準ずる方法
2 前項の書面には、当該通知を識別するための番号、記号その他の符号(第五項第一号において「通知番号等」という。)を記載しなければならない。
3 第一項の規定による送付は、申請人が当該郵便物をこれと同一の種類に属する他の郵便物に優先して送達する取扱いの料金に相当する郵便切手を提出したときは、当該取扱いによらなければならない。同項第二号又は第三号の場合において、信書便の役務であって当該取扱いに相当するものの料金に相当する当該信書便事業者の証票で法務大臣が指定するものを提出したときも、同様とする。
4 前項の指定は、告示してしなければならない。
5 法第二十三条第一項に規定する申出は、次の各号に掲げる申請の区分に応じ、当該各号に定める方法によりしなければならない。
一 電子申請 法務大臣の定めるところにより、法第二十二条に規定する登記義務者が、第一項の書面の内容を通知番号等を用いて特定し、申請の内容が真実である旨の情報に電子署名を行った上、登記所に送信する方法
二 書面申請 法第二十二条に規定する登記義務者が、第一項の書面に通知に係る申請の内容が真実である旨を記載し、これに記名し、申請書又は委任状に押印したものと同一の印を用いて当該書面に押印した上、登記所に提出する方法(申請情報の全部を記録した磁気ディスクを提出した場合にあっては、法第二十二条に規定する登記義務者が、申請の内容が真実である旨の情報に電子署名を行い、これを記録した磁気ディスクを第一項の書面と併せて登記所に提出する方法)
6 令第十四条の規定は、前項の申出をする場合について準用する。
7 第四十三条の規定は、前項において準用する令第十四条の法務省令で定める電子証明書について準用する。
8 法第二十三条第一項の法務省令で定める期間は、通知を発送した日から二週間とする。ただし、法第二十二条に規定する登記義務者が外国に住所を有する場合には、四週間とする。
(2)送付先について整理
- 登記義務者が自然人:
登記名義人の登記記録上の住所宛に送付する。
(住所に「〇〇方」などと付記する取扱いについては、後述の「準則」の項を参照。) - 登記義務者が法人:
登記名義人の法人の登記記録上の本店等宛に送付する。
(自然人における「○○方」同様に、本店内の特定部署を付記する取扱いは認められるものと思われる。)
(登記された支店宛の発送は不可?) - 登記義務者が法人である場合において当該登記義務者である法人の代表者宛に通知するとき:
登記名義人の法人の登記記録上の代表者の登記記録上の住所宛に送付する。
(なお、登記された支配人宛も可能と考えられる。) - 登記義務者が外国に住所を有する場合:
登記名義人の登記記録上の住所宛に送付する。
ただし、登記研究692号211ページ「質疑応答7815」参照(不動産の管理処分等一切の権限を授与された代理人)。
(3)送付方法について整理
「書面」を、送付先ごとに、つぎの方法で送付する。
- 自然人宛の通知:
日本郵便株式会社の内国郵便約款の定めるところにより名宛人本人に限り交付し、若しくは配達する本人限定受取郵便又はこれに準ずる方法 - 法人宛の通知:
書留郵便又は信書便の役務であって信書便事業者において引受け及び配達の記録を行うもの - 外国に住所を有する場合の通知:
書留郵便若しくは信書便の役務であって信書便事業者において引受け及び配達の記録を行うもの又はこれらに準ずる方法
法人の代表者宛を含む自然人に対する通知は「本人限定受取郵便」となる。
(本人限定受取郵便には3方式があるが、このうち「特例型」による。)
一方で、法人や外国に住所を有する者の場合は、「書留郵便」でもOK。
また本人限定受取郵便は必ずしも「速達」扱いにはならない。
そのため規則70条3項の規定が設けられているものと考えられる。
なお、旧法の事前通知制度においては、「はがき」かつ「普通郵便」で送付されていたそうな。
(4)申出の方法について整理
申出の期間は、つぎのとおり。
- 【原則】通知を発送した日から2週間
- 【例外】外国に住所を有する者の場合は、4週間。
「発送した日」からカウントされるので、昨今の日本郵便の普通郵便事情を考えると、なかなかに厳しい(ましてや返送も郵便でやるときには)。
申出の方法は、つぎのとおり(なお、電子申請も可であるが、現状一般的でないと思われるのでスルー。)
- 法第二十二条に規定する登記義務者が、
- 第一項の書面に通知に係る申請の内容が真実である旨を記載する。
- これに記名する。
- さらに、申請書又は委任状に押印したものと同一の印を用いて当該書面に押印。
- そして、当該書面を登記所に提出。
「記名」で良い。
また書式(後掲のとおり)に「この登記申請の内容は真実です。」と記載されているので、「内容が真実である旨を記載」する必要はない。
返送用封筒などは同封されていないので、返送は、登記義務者にて対応しなければならない。
昨今の日本郵便の普通郵便事情を考えると、郵送で返送する場合には、速達扱いとなる郵便方法を選択する必要があるだろう。
3.不動産登記事務取扱手続準則
(1)事前通知に関する条文を確認する(準則)
平成17年2月25日民二第456号局長通達
「不動産登記事務取扱手続準則の改正について(通達)」
(事前通知)
第43条
事前通知は、別記第55号様式の通知書(以下「事前通知書」という。)によるものとする。
2 登記官は、法第22条に規定する登記義務者が法人である場合において、事前通知をするときは、事前通知書を当該法人の主たる事務所にあてて送付するものとする。ただし、申請人から事前通知書を法人の代表者の住所にあてて送付を希望する旨の申出があったときは、その申出に応じて差し支えない。
(事前通知書のあて先の記載)
第44条
事前通知書を送付する場合において、申請人から、申請情報の内容とした申請人の住所に、例えば、「何アパート内」又は「何某方」と付記して事前通知書を送付されたい旨の申出があったときは、その申出に応じて差し支えない。
2 前項の規定は、前条第2項ただし書の場合について準用する。
(事前通知書の再発送)
第45条
事前通知書が受取人不明を理由に返送された場合において、規則第70条第8項に規定する期間の満了前に申請人から事前通知書の再発送の申出があったときは、その申出に応じて差し支えない。この場合には、同項に規定する期間は、最初に事前通知書を発送した日から起算するものとする。
(相続人等からの申出)
第46条
事前通知をした場合において、通知を受けるべき者が死亡したものとしてその相続人全員から相続があったことを証する情報を提供するとともに、電子申請にあっては当該申請人の相続人が規則第70条第2項の通知番号等を特定する情報及び当該登記申請の内容が真実である旨の情報に電子署名を行った上、登記所に送信したとき、書面申請にあっては当該申請人の相続人が規則第70条第1項の書面に登記申請の内容が真実である旨を記載し、記名押印した上、印鑑証明書を添付して登記所に提出したときは、その申出を適法なものとして取り扱って差し支えない。
2 法人の代表者に事前通知をした場合において、その法人の他の代表者が、規則第70条第1項の書面に登記申請の内容が真実である旨を記載し、記名押印した上、その印鑑証明書及び資格を証する書面を添付して、当該他の代表者から同項の申出があったときも、前項と同様とする。ただし、規則第70条第1項の書面に当該法人の会社法人等番号をも記載したときは、当該印鑑証明書及び資格を証する書面の添付を省略することができる。
(事前通知書の保管)
第47条
登記申請の内容が真実である旨の記載がある事前通知書は、当該登記の申請書(電子申請にあっては、電子申請管理用紙)と共に保管するものとする。
(2)整理
ポイントと思われるところのみ確認すると、つぎのとおり。
- 法人宛の通知は、原則として、法人の主たる事務所宛に送付する。
- 例外として、申請人から「法人の代表者の住所にあてて送付を希望する旨の申出」があったときには、代表者の住所宛に送付する。
- 送付にあたって、「「何アパート内」又は「何某方」と付記して事前通知書を送付されたい旨の申出」があったときには、住所にこれらの情報を付記して送付する。
- この規定は、法人の代表者住所宛に送付する場合にも準用される。
- 私見:この規定があることから、法人の主たる事務所宛に送付するに際して、「〇〇課」などと付記してもらうことも可能と思われる。
- 申出は申請書に記載してするのがマナーか?
- 法人の代表者宛に通知をした場合に、当該法人の他の代表者から、つぎの書面とともに申出があったときには、これも正当な申出とされる。
- 資格証明書
- 代表者としての印鑑証明書
- なお、これら2点は、会社法人等番号が提供されている場合には省略可能。
4.事前通知に関する書式
別記第55号様式はつぎのとおり(なお書面申請の場合)
5.まとめ(事前通知の流れ)
ざっくりまとめるとつぎのとおり(国内に住所を有する自然人宛のケースを念頭に。)。
- 登記識別情報を提供すべき申請において、これを提供せず申請。
- 法務局から、登記義務者宛に、書面にて通知を発送。
(補正事項があるときには、どういう順番になるのだろうか?) - 郵便局から、登記義務者宛に、本人限定受取郵便の到着のお知らせが到着。
- 登記義務者において、郵便局又は配達により、通知を受け取る。
(なお、受取りにあたっては「住所・氏名・生年月日」の記載された公的身分証明書を提示しなければならない。) - 受け取った通知書を確認し、登記申請の内容と、それが真実であることをチェックしたうえで「回答欄」に記名押印する。
(押印は、いわゆる実印による。) - 記名押印した通知書を、法務局に持参又は郵送する。
(法務局への到達は、発送の日から2週間以内でなければいけない。)
こうしてみると、なかなかにタイトなスケジュールである。
ましてや、昨今の郵便事情においては。