株式会社の発起設立における払込証明書について

2023年8月14日

1.株式会社の設立(発起設立)における出資の履行

(1)条文

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(出資の履行)
第三十四条 
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げない。
2 前項の規定による払込みは、発起人が定めた銀行等(銀行(銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行をいう。第七百三条第一号において同じ。)、信託会社(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第二項に規定する信託会社をいう。以下同じ。)その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の払込みの取扱いの場所においてしなければならない。

(2)整理

発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込みをしなければいけない。

株式会社設立の登記申請に際しては、出資の履行に関連して、つぎの書面を添付する必要がある。

  • 発起人が割当てを受けるべき株式数及び払い込むべき金額
  • 払込みを証する書面

本記事では、2点目の、いわゆる「払込証明書」について整理していく。

2.払込の時期

(1)条文

参照条文

(設立時発行株式に関する事項の決定)
第三十二条 
発起人は、株式会社の設立に際して次に掲げる事項(定款に定めがある事項を除く。)を定めようとするときは、その全員の同意を得なければならない。
一 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
二 前号の設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額
三 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項

(出資の履行)
第三十四条 
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。(・・・)

払込みに関する内容は、定款又は「発起人全員の同意」により定まる。

というわけで、払込みの時期は「定款認証」又は「発起人全員の同意」のあとということになる。

(2)重要(!?)先例

発起人より「払い込み」としてなされることが重要であるから、「定款認証(ここで定款作成日との違いに留意)」又は「発起人全員の同意」より後になされることが肝要であるとの認識であったが、令和4年6月13日民商第286号通達が発出された!

【要旨】

払込取扱機関が作成した書面に記載された払込みの時期については、設立時発行株式に関する事項が定められている定款の作成日又は発起人全員の同意があったことを証する書面に記載されているその同意があった日後に払込みがあった場合はもとより、その前に払込みがあった場合であっても、発起人等の口座に払い込まれているなど当該設立に際して出資されたものと認められるものであれば、差し支えない。

令和4年6月13日民商第286号通達

フワフワ通達である。悲しい。

「当該設立に際して出資されたものと認められるもの」であれば、定款作成日・発起人同意日より前であってもOKというもの。

なお、どれくらい前までで良いかという点については、登記研究902号92頁以下を参照。
(形式的にのみ判断できるものではないとしたうえで「4週間」「1年」「5年」という数字が出ている。前2つについては肯定的、後1つについては否定的見解が表明されている。)

3.払込金融機関

(1)条文

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(出資の履行)
第三十四条 
(・・・)
2 前項の規定による払込みは、発起人が定めた銀行等(銀行(銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行をいう。第七百三条第一号において同じ。)、信託会社(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第二項に規定する信託会社をいう。以下同じ。)その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の払込みの取扱いの場所においてしなければならない。

  • 銀行(銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行)
  • 信託会社(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第二項に規定する信託会社)
  • その他これに準ずるものとして法務省令で定めるもの

会社法施行規則で定められている主なものを抜粋すると、つぎのとおり。

  • 農業協同組合
  • 信用金庫
  • 労働金庫
参照条文

銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)

(定義等)
第二条 この法律において「銀行」とは、第四条【営業の免許】第一項の内閣総理大臣の免許を受けて銀行業を営む者をいう。
(・・・)

(商号)
第六条 
銀行は、その商号中に銀行という文字を使用しなければならない。
2 銀行でない者は、その名称又は商号中に銀行であることを示す文字を使用してはならない。
3 (・・・)

参照条文

信託業法(平成十六年法律第百五十四号)

(定義)
第二条 
(・・・)
2 この法律において「信託会社」とは、第三条【免許】の内閣総理大臣の免許又は第七条【登録】第一項の内閣総理大臣の登録を受けた者をいう。
(・・・)

参照条文

会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)

(銀行等)
第七条 
法第三十四条第二項に規定する法務省令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 株式会社商工組合中央金庫
二 農業協同組合法(昭和二十二年法律第百三十二号)第十条第一項第三号の事業を行う農業協同組合又は農業協同組合連合会
三 水産業協同組合法(昭和二十三年法律第二百四十二号)第十一条第一項第四号、第八十七条第一項第四号、第九十三条第一項第二号又は第九十七条第一項第二号の事業を行う漁業協同組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合又は水産加工業協同組合連合会
四 信用協同組合又は中小企業等協同組合法(昭和二十四年法律第百八十一号)第九条の九第一項第一号の事業を行う協同組合連合会
五 信用金庫又は信用金庫連合会
六 労働金庫又は労働金庫連合会
七 農林中央金庫

(2)先例

平成28年12月20日民商第179号通達

【要旨】
払込取扱機関には、銀行法2条1項に規定する銀行が、同法8条2項の規定に基づき内閣総理大臣の認可を受けて設置した外国における当該銀行の支店も、同法2条1項に規定する銀行としてこれに含まれる。

というわけで、邦銀の海外支店でもOKということに。

逆に、外国銀行については、日本国内支店であればOK(後記の銀行法47条を参照。)。

参照条文

銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)

(営業所の設置等)
第八条 
(・・・)
2 銀行は、外国において支店その他の営業所の設置、種類の変更又は廃止をしようとするときは、内閣府令で定める場合を除き、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣の認可を受けなければならない。
(・・・)

(外国銀行の免許等)
第四十七条 
外国銀行が日本において銀行業を営もうとするときは、当該外国銀行は、内閣府令で定めるところにより、当該外国銀行の日本における銀行業の本拠となる一の支店(以下この章において「主たる外国銀行支店」という。)を定めて、第四条第一項の内閣総理大臣の免許を受けなければならない。
2 前項の規定により外国銀行が第四条第一項の内閣総理大臣の免許を受けたときは、その主たる外国銀行支店及び当該外国銀行の日本における他の支店その他の営業所(・・・)を一の銀行とみなし、当該外国銀行の日本における代表者を当該一の銀行とみなされた外国銀行支店の取締役とみなして、この法律の規定を適用する。

4.誰の口座に振込めば良いのか。証明方法は?

(1)払込みの証明をする人

払込みがあったことを証明するのは「代表取締役」とされる。
(当該証明は、登記申請に際してなされるものであり、申請人が証明者となるべきだから。)

一方で、払込金の保管権限を有するのは「発起人」とされる。
(発起人が複数いる場合には、発起人各自が権限を有するとされる。)

(2)払込みの証明方法

つぎの事実が、預金通帳などのコピーから確認できればOK。

  • 払込先金融機関
  • 口座名義人
  • 入金日
  • 入金金額

つぎの点はよく言われるところ。

  • 上記4点が確認できれば、必ずしも預金通帳の写しでなくても良いとされる。
    (ネットバンキングの場合には、取引画面をプリントアウトしたものでOKとされている。後掲のH18通達における「その他の払込取扱機関が作成した書面」に該当するということか??)
  • 払込みの事実を確認する必要があるので「残高証明書」では不可。
  • 払込人の確認は不要
    (参照:松井 信憲 (著)『商業登記ハンドブック〔第5版〕』商事法務; 第5版P.117以下。なお同書には通帳がない場合に関する言及がない。たぶん。)
    (通帳がない場合の対応については、月報司法書士2018.11No.561の67ページに記事が掲載されている。こちらの記事はネット上で確認ができるが、根拠に関する記載が・・。)

(2)誰の口座に払い込めばよいのか?

払込み先となる口座については、発起人名義の預金口座とするのが原則とされる。
以下の2つの先例を参照。

平成18年3月31日民商第782号通達

【抜粋】
(3)添付書面
オ 会社法第34条第1項の規定による払込みがあったことを証する書面(募集設立の場合には、払込取扱機関の払込金の保管に関する証明書)
 発起設立の場合には、次に掲げる書面をもって、払込みがあったことを証する書面として取り扱って差し支えない。

(ア)払込金受入証明書
(イ)設立時代表取締役又は設立時代表執行役の作成に係る払込取扱機関に払い込まれた金額を証明する書面に次の書面のいずれかを合てつしたもの
a 払込取扱機関における口座の預金通帳の写し
b 取引明細表その他の払込取扱機関が作成した書面

平成18年3月31日民商第782号通達

さらに、平成29年3月17日民商第41号通達

平成29年3月17日民商第41号通達

【要旨】

預金通帳の口座名義人の範囲について、下記のとおり取り扱う。
なお発起人が「払込金の受領権限の委任」をなすにあたっては、発起人のうち一人からの委任があれば足り、発起人全員の同意や過半数の決定は不要である。

1 預金通帳の口座名義人として認められる者の範囲

  • 発起人
  • 設立時取締役(※1)
  • 設立時代表取締役(※1)

※1 この場合、発起人から当該設立時取締役等への委任書面を添付すること。

2 (特例)発起人及び設立時取締役の全員が日本国内に住所を有していない場合

  • 発起人及び設立時取締役以外の者でもOK(※2)

※2 この場合、発起人から同人への委任書面を添付すること

平成29年3月17日民商第41号通達

5.払込みの方法

(1)考え方

「入金」により払込みの事実を確認できれば良い。
(過去には、定期預金の解約により普通預金に振込された記録でもOKとされた。入金であることにはかわりないということだろうか?)

したがって「残高」があるというだけでは、払込みの事実を確認できないので不可。

(2)こんなケースでもOK

  • 複数回に分けて入金。
  • 払い込むべき金額よりも多い金額を払い込んだ。
    (参照:松井 信憲 (著)『商業登記ハンドブック〔第4版〕』商事法務; 第4版P.112)
  • 払い込むべき金額の「入金」さえ確認できれば良く、入金後の引き出しにより「残高」が満たされなくても良い。
  • 外貨預金の場合には、振込日毎に振込日の為替相場により換算した日本円の金額をもって計算する(為替相場の確認できる資料の添付も必要)。
    (参照:筧 康生 (編集), 神﨑 満治郎 (編集), 土手 敏行 (編集)『詳解商業登記【全訂第3版】』きんざい; 全訂第3版上巻P.639)

いずれにせよ「払込みに該当する記録にマーカーをつける」「欄外に鉛筆書きで金額等を補足」などの対応は必要であろう。

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