合同会社が代表社員から不動産を買い取る場合を念頭に置いて。
1.条文
(1)会社法
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(利益相反取引の制限)
第五百九十五条
業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 業務を執行する社員が自己又は第三者のために持分会社と取引をしようとするとき。
二 持分会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において持分会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項各号の取引については、適用しない。
(法人が業務を執行する社員である場合の特則)
第五百九十八条
法人が業務を執行する社員である場合には、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を他の社員に通知しなければならない。
2 第五百九十三条から前条までの規定は、前項の規定により選任された社員の職務を行うべき者について準用する。
【参考】
(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。
(2)条文のまとめ
- 「業務を執行する社員」が制限の対象である。
(法人が業務を執行する社員である場合には、当該法人の職務執行者が制限の対象となる。) - 取引を行うにあたって、当該社員以外の社員(業務執行社員に限定されない)の過半数の承認が必要となる。
- 定款で別段の定めをおくことができる。
なお、業務を執行する社員に対する「競業避止義務」については会社法594条に規定されている。
また、「別段の定め」については、制限強化も制限緩和も可とされている。
(「他の社員の承認を要しない」とすることも可能?!)
2.不動産登記申請の場面で
(1)不動産登記法の規定
不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)
(添付情報)
第七条
登記の申請をする場合には、次に掲げる情報をその申請情報と併せて登記所に提供しなければならない。
(・・・)
五 権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる情報
(・・・)
ハ 登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するときは、当該第三者が許可し、同意し、又は承諾したことを証する情報
(・・・)
不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)
(承諾を証する情報を記載した書面への記名押印等)
第十九条
第七条第一項第五号ハ若しくは第六号の規定又はその他の法令の規定により申請情報と併せて提供しなければならない同意又は承諾を証する情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、その作成者が記名押印しなければならない。
2 前項の書面には、官庁又は公署の作成に係る場合その他法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者の印鑑に関する証明書を添付しなければならない。
不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)
(承諾書への記名押印等の特例)
第五十条 令第十九条第一項の法務省令で定める場合は、同意又は承諾を証する情報を記載した書面の作成者が署名した当該書面について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合とする。
2 第四十八条第一号から第三号までの規定は、令第十九条第二項の法務省令で定める場合について準用する。この場合において、第四十八条第二号中「申請書」とあるのは「同意又は承諾を証する情報を記載した書面」と、同条第三号中「申請の申請書」とあるのは「同意又は承諾の同意又は承諾を証する情報を記載した書面」と読み替えるものとする。
(2)添付すべき書面
以上より、たとえば「合同会社が代表社員から不動産を買い取った」ことを原因として所有権移転登記申請をなすにあたっては、「当該社員以外の社員の過半数の承認」を受けたことを証する情報を提供しなければならない。
さまざまなパターンがあるかと思うが、つぎのような添付書面になるのだろうか?
- 定款(別段の定めの有無の確認。社員の確認。)
- 当該社員以外の社員の過半数の承認を証する書面(押印は社員全員?)
- 上記書面に押印された各社員の印鑑証明書(多くの社員がいたら大変?)
この場合の「定款」について、記名のみで押印を要しないという理解で良いのだろうか?
そもそも定款の添付必要か?
(3)社員が1名のときには?
株式会社においては、株主1名で、当該株主と取引を行う場合においては「実質的に利益相反関係はなく承認は不要」とされる。
最判昭和45年8月20日
本件売買契約締結当時には、被上告会社は株式会社の形態をとつているとはいえ、その営業は実質上、上告人Aの個人経営のものにすぎないから、被上告会社の利害得失は実質的には上告人Aの利害得失となるものであり、その間に利害相反する関係はない。したがつて、上告人Aがその所有の本件土地を被上告会社に売り渡すことについて、両者の間に実質的に利害相反の関係を生じるものではない(・・・)
会社と取締役間に商法二六五条所定の取引がなされた場合でも、前段説示のように、実質的に会社と当該取締役との間に利害相反する関係がないときには、同条所定の取締役会の承認は必要ないものと解するのが相当(・・・)
合同会社についても同じことが言えると思うが、どうなのだろうか?
肯定されるのであれば、添付すべき書類は「定款(社員が1名であることの確認のため)」ということになる。
(仮に「否定」されると、承認する人がいなくなる。その場合には定款に別段の定め(承認不要)をおいて良しとするのだろうか?迂遠だ。)