目次
1.株式会社における利益相反に関する規定
(1)会社法
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条
取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。
(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第三百六十五条
取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
2 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(自己契約及び双方代理等)
第百八条
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
(2)不動産登記法
不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)
(添付情報)
第七条
登記の申請をする場合には、次に掲げる情報をその申請情報と併せて登記所に提供しなければならない。
(・・・)
五 権利に関する登記を申請するときは、次に掲げる情報
(・・・)
ハ 登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するときは、当該第三者が許可し、同意し、又は承諾したことを証する情報
(・・・)
2.利益相反取引の際に添付すべき書類
(1)不動産登記にかかる先例
平成18年3月29日民二第755号民事局長通達【抜粋】
6 利益相反行為についての承認を証する情報
取締役が自己若しくは第三者のために株式会社と取引をしようとするとき又は株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするときは、当該取締役は、取締役会設置会社(法第2条第7号)においては取締役会、取締役会設置会社以外の株式会社においては株主総会の承認を、それぞれ得なければならないとされた(法第365条第1項、第356条第1項第2号及び第3号)。(・・・)
したがって、これらの場合に提供すべき第三者の承諾を証する情報は、それぞれ、取締役会議事録、株主総会議事録(・・・)となる(・・・)。
なお、法第319条第1項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた場合又は法第370条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた場合に提供すべき第三者の承諾を証する情報は、それぞれ、株主全員の同意の意思表示があったことを証する情報又は取締役全員の同意の意思表示があったことを証する情報(監査役設置会社においては、これに加えて監査役が異議を述べなかったことを証する情報)となる。
(2)先例まとめ
取締役会設置会社 | 取締役会議事録 |
非取締役会設置会社 | 株主総会議事録 |
みなし決議のとき | 株主全員の同意の意思表示があったことを証する情報 又は 取締役全員の同意の意思表示があったことを証する情報(監査役設置会社は、プラス監査役が異議を述べなかったことを証する情報) |
みなし決議については「意思表示があったことを証する情報」って何?ということになる(詳細は後述)。
3.株主総会議事録を添付するとき
(1)押印規程
規定なし。
なお以下参照。
会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)
(議事録)
第七十二条
法第三百十八条第一項の規定による株主総会の議事録の作成については、この条の定めるところによる。
(・・・)
3 株主総会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。
(・・・)
六 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
4 次の各号に掲げる場合には、株主総会の議事録は、当該各号に定める事項を内容とするものとする。
一 法第三百十九条第一項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた場合 次に掲げる事項
(・・・)
ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
(・・・)
以下は、日本公証人連合会ホームページに掲載されている「定款の記載例2 中小規模の会社(Small and Medium-Sized Company)』」より。
(議事録)
https://www.koshonin.gr.jp/pdf/kaisya-teikan02_sm_2021.pdf 230414確認
第20条
株主総会の議事については、開催の日時及び場所、出席した役員並びに議事の経過の要領及びその結果その他法務省令で定める事項を記載又は記録した議事録を作成し、議長及び出席した取締役がこれに署名若しくは記名押印又は電子署名をし、株主総会の日から10年間本店に備え置く。
(2)不動産登記法に基づく押印
不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)
(承諾を証する情報を記載した書面への記名押印等)
第十九条
第七条第一項第五号ハ若しくは第六号の規定又はその他の法令の規定により申請情報と併せて提供しなければならない同意又は承諾を証する情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、その作成者が記名押印しなければならない。
2 前項の書面には、官庁又は公署の作成に係る場合その他法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者の印鑑に関する証明書を添付しなければならない。
不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)
(承諾書への記名押印等の特例)
第五十条 令第十九条第一項の法務省令で定める場合は、同意又は承諾を証する情報を記載した書面の作成者が署名した当該書面について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合とする。
2 第四十八条第一号から第三号までの規定は、令第十九条第二項の法務省令で定める場合について準用する。この場合において、第四十八条第二号中「申請書」とあるのは「同意又は承諾を証する情報を記載した書面」と、同条第三号中「申請の申請書」とあるのは「同意又は承諾の同意又は承諾を証する情報を記載した書面」と読み替えるものとする。
(3)まとめ
以上より、株主総会議事録の「作成者」が記名押印し、かつ「記名押印した者」の印鑑証明書の添付が必要となる。
昭和45年8月27日民三第454号民事局第三課長回答
【要約】
取締役会議事録に記名押印する代表取締役等は、代表取締役については登記所に、代表取締役以外の取締役については市町村に登録している印鑑を捺印すべし!
そして、それぞれの印鑑の印鑑証明書を添付すべし!
さきほどの定款例の場合だと「議長及び出席した取締役」が署名押印しているが、あくまで作成者はそのうちの誰かになるのか?はたまた全員が作成者になるのだろうか?
(ここでいう「作成者」は一般的な意味で言う「作成者(議事録を作った人)」とはされていないので、取締役会議事録の取り扱いを考えると、後者?)
4.取締役会議事録を添付するとき
(1)押印規程
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(取締役会の決議)
第三百六十九条
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
(・・・)
3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
(・・・)
(2)不動産登記法に基づく押印
上記3(2)を確認。
(3)まとめ
取締役会議事録の「作成者」が記名押印し、かつ「記名押印した者」の印鑑証明書の添付が必要となる。
では「作成者」って誰ということになるが、登記研究701号211頁以下「【登記簿】 会社法の施行に伴う不動産登記の取扱いについて」が参考となる。
5.みなし決議の場合
(1)条文の確認
【株主総会】
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(株主総会の決議の省略)
第三百十九条
取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
(・・・)
5 第一項の規定により定時株主総会の目的である事項のすべてについての提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた場合には、その時に当該定時株主総会が終結したものとみなす。
(議事録)
第七十二条
(・・・)
4 次の各号に掲げる場合には、株主総会の議事録は、当該各号に定める事項を内容とするものとする。
一 法第三百十九条第一項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた場合 次に掲げる事項
(・・・)
ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
(・・・)
【取締役会】
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(取締役会の決議の省略)
第三百七十条
取締役会設置会社は、取締役が取締役会の決議の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき取締役(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたとき(監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べたときを除く。)は、当該提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなす旨を定款で定めることができる。
株主総会との相違点として、つぎの2点を確認。
- 監査役設置会社にあっては、監査役が当該提案について異議を述べると、決議が成立しない。
- みなし決議をするためには、定款にその旨を定めないといけない。
(取締役会の議事録)
第百一条
(・・・)
4 次の各号に掲げる場合には、取締役会の議事録は、当該各号に定める事項を内容とするものとする。
一 法第三百七十条の規定により取締役会の決議があったものとみなされた場合 次に掲げる事項
(・・・)
ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
(・・・)
(2)議事録または同意書が該当
みなし決議の場合には、その決議があったことの証明になるものが、つぎの2つ。
- みなし決議について作成される議事録
(定款添付の要否については争いあり?いずれにせよ確認は必要か。) - 株主又は取締役の同意書
(監査役設置会社の場合には、監査役による「異議のない」旨の申述書。) - 以上の「作成者」が記名押印し、押印した印鑑にかかる印鑑証明書。
どちらかでよい(条文上当然と思われるが、議事録について明示した資料はない?)。
(3)不動産登記法に基づく押印
上記3(2)を確認。
(4)まとめ
みなし決議の場合には、「誰が記名押印すべきか」で迷うことは少ないように思う。
一方で、業務として取り扱う際に、どこまで確認すべきかは悩ましいようにも思う。
(よくよく考えれば、株主総会についても同じことがいえるのかもしれないが・・・)