目次
1.経営承継円滑化法とは
(1)正式名称「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成二十年法律第三十三号)
(目的)
第一条
この法律は、多様な事業の分野において特色ある事業活動を行い、多様な就業の機会を提供すること等により我が国の経済の基盤を形成している中小企業について、代表者の死亡等に起因する経営の承継がその事業活動の継続に影響を及ぼすことにかんがみ、遺留分に関し民法(明治二十九年法律第八十九号)の特例を定めるとともに、中小企業者が必要とする資金の供給の円滑化等の支援措置を講ずることにより、中小企業における経営の承継の円滑化を図り、もって中小企業の事業活動の継続に資することを目的とする。
ポイントとなるのは「中小企業者」の定義である。
同法2条に定義規定が置かれている。
(定義)
第二条
この法律において「中小企業者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう。
一 資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百人以下の会社及び個人であって、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第四号までに掲げる業種及び第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
二 資本金の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であって、卸売業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
三 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人以下の会社及び個人であって、サービス業(第五号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
四 資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五十人以下の会社及び個人であって、小売業(次号の政令で定める業種を除く。)に属する事業を主たる事業として営むもの
五 資本金の額又は出資の総額がその業種ごとに政令で定める金額以下の会社並びに常時使用する従業員の数がその業種ごとに政令で定める数以下の会社及び個人であって、その政令で定める業種に属する事業を主たる事業として営むもの
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行令(平成二十年政令第二百四十五号)
(中小企業者の範囲)
第一条
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(次条において「法」という。)第二条第五号に規定する政令で定める業種並びにその業種ごとの資本金の額又は出資の総額及び従業員の数は、次の表のとおりとする。
業種 | 資本金の額又は出資の総額 | 従業員の数 |
ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く。) | 三億円 | 九百人 |
ソフトウェア業又は情報処理サービス業 | 三億円 | 三百人 |
旅館業 | 五千万円 | 二百人 |
じゅうぶん大きい会社じゃないか・・・。
(2)経営承継円滑化法の概要について
中小企業庁は、経営承継円滑化法について、下記HPにて制度概要を示している。
一般の方向けのパンフレット等も掲載されており、概要を理解しやすい
経営承継円滑化法による支援(中小企業庁HP)
2.経営承継円滑化法のメニュー
(1)4つのメニューが規定されいてる
- 事業承継税制
- 金融支援
- 遺留分に関する民法の特例
- 所在不明株主に関する会社法の特例
「所在不明株主に関する会社法の特例」については項をあらためて確認する。
次号以下では、上記3つを簡単に確認する。
(2)事業承継税制
後継者が非上場会社の株式(法人の場合)や事業用資産(個人事業者の場合)を先代経営者等から贈与・相続により取得した場合において、経営承継円滑化法における都道府県知事認定を受けたときは、贈与税・相続税の納税が猶予又は免除される仕組み。
とあるニュースでも話題になった。
認定後も、一定の条件を満たし続けなければ猶予が取り消される点がポイント。
(3)金融支援
こちらも都道府県知事の認定を受けることを前提に、融資と信用保証の特例により事業承継時の資金需要にこたえるもの。
認定とは別に、金融機関や信用保証協会による審査がある(当然と言えば当然か)点に留意。
(4)遺留分に関する民法の特例
後継者が、遺留分権利者全員との合意及び所要の手続を経ることを前提に、留分に関する民法の特例の適用を受けることができる。
つぎの2つの仕組みがある。
- 除外合意:遺留分を算定するための財産の価額から除外
- 固定合意:遺留分を算定するための財産の価額に算入する価額を合意時の時価に固定
条文タイトルだけ抜粋すると、つぎのとおり。
法4条 | 会社事業後継者が取得した株式等又は個人事業後継者が取得した事業用資産に関する遺留分の算定に係る合意等 |
法5条 | 会社事業後継者が取得した株式等以外の財産又は個人事業後継者が取得した事業用資産以外の財産に関する遺留分の算定に係る合意 |
法6条 | 推定相続人と会社事業後継者又は個人事業後継者との間の衡平及び推定相続人間の衡平を図るための措置に係る合意 |
なお、「経済産業大臣の確認」及び「家庭裁判所の許可」が必要である。
(家庭裁判所の許可)
第八条
第四条第一項又は第三項の規定による合意(第五条又は第六条第二項の規定による合意をした場合にあっては、第四条第一項又は第三項及び第五条又は第六条第二項の規定による合意)は、前条【経済産業大臣の確認】第一項又は第二項の確認を受けた者が当該確認を受けた日から一月以内にした申立てにより、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 家庭裁判所は、前項に規定する合意が当事者の全員の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを許可することができない。
3 前条第一項又は第二項の確認を受けた者が死亡したときは、その相続人は、第一項の許可を受けることができない。
3.所在不明株主に関する会社法の特例
(1)会社法の規定
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(株式の競売)
第百九十七条
株式会社は、次のいずれにも該当する株式を競売し、かつ、その代金をその株式の株主に交付することができる。
一 その株式の株主に対して前条【株主に対してする通知又は催告が五年以上継続して到達しない場合】第一項又は第二百九十四条第二項の規定により通知及び催告をすることを要しないもの
二 その株式の株主が継続して五年間剰余金の配当を受領しなかったもの
2 株式会社は、前項の規定による競売に代えて、市場価格のある同項の株式については市場価格として法務省令で定める方法により算定される額をもって、市場価格のない同項の株式については裁判所の許可を得て競売以外の方法により、これを売却することができる。この場合において、当該許可の申立ては、取締役が二人以上あるときは、その全員の同意によってしなければならない。
3 株式会社は、前項の規定により売却する株式の全部又は一部を買い取ることができる。この場合においては、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 買い取る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
二 前号の株式の買取りをするのと引換えに交付する金銭の総額
(・・・)
(利害関係人の異議)
第百九十八条
前条第一項の規定による競売又は同条第二項の規定による売却をする場合には、株式会社は、同条第一項の株式の株主その他の利害関係人が一定の期間内に異議を述べることができる旨その他法務省令で定める事項を公告し、かつ、当該株式の株主及びその登録株式質権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、当該期間は、三箇月を下ることができない。
2 第百二十六条【株主に対する通知等】第一項及び第百五十条第一項の規定にかかわらず、前項の規定による催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主及び登録株式質権者の住所(当該株主又は登録株式質権者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先を含む。)にあてて発しなければならない。
3 第百二十六条第三項及び第四項の規定にかかわらず、株式が二以上の者の共有に属するときは、第一項の規定による催告は、共有者に対し、株主名簿に記載し、又は記録した住所(当該共有者が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先を含む。)にあてて発しなければならない。
4 第百九十六条【株主に対する通知の省略】第一項(同条第三項において準用する場合を含む。)の規定は、第一項の規定による催告については、適用しない。
5 第一項の規定による公告をした場合(前条第一項の株式に係る株券が発行されている場合に限る。)において、第一項の期間内に利害関係人が異議を述べなかったときは、当該株式に係る株券は、当該期間の末日に無効となる。
株式会社は、つぎの株主の有する株式を競売または売却することができる(競売または売却する株式を、会社が買い取ることも可能。)。
- 通知又は催告が五年以上継続して到達しない
- かつ、継続して五年間剰余金の配当を受領しない。
競売または売却にあたっては、公告及び各別催告(当該株主等への)が必要となる。
さらに、市場価格のない株式を競売以外の方法で売却する場合には、裁判所の許可が必要となる。
なかなかに大変な手続きである。
(2)経営承継円滑化法による特例
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(平成二十年法律第三十三号)
(所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例)
第十五条
第十二条【経済産業大臣の認定】第一項第一号ホに該当する者として同項の認定を受けた者(次項及び次条第五項において「特例株式会社」という。)についての会社法(平成十七年法律第八十六号)第百九十七条の規定の適用については、同条第一項第一号中「前条第一項又は第二百九十四条第二項の規定により通知及び催告をすることを要しない」とあるのは「する通知又は催告が一年以上継続して到達しない」と、同項第二号中「五年間」とあるのは「一年間」と、同条第五項第一号中「前条第三項において準用する同条第一項の規定により」とあるのは「当該登録株式質権者に対してする」と、「をすることを要しない」とあるのは「が一年以上継続して到達しない」と、同項第二号中「五年間」とあるのは「一年間」とする。
2 前項の規定により読み替えて適用する会社法第百九十七条第一項の規定による競売又は同条第二項の規定による売却をする場合には、特例株式会社は、同法第百九十八条第一項に定める手続に先立ち、前項の規定により読み替えて適用する同法第百九十七条第一項の株式の株主その他の利害関係人が一定の期間内に異議を述べることができる旨その他経済産業省令で定める事項を公告し、かつ、当該株式の株主及びその登録株式質権者(同法第百四十九条第一項に規定する登録株式質権者をいう。次項第三号において同じ。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、当該期間は、三月を下ることができない。
3 次の各号のいずれかに該当する場合には、第一項の規定は適用しない。
一 前項の期間が満了していない場合
二 前項の期間内に利害関係人が異議を述べた場合
三 前項の規定による催告が同項に規定する株式の株主又はその登録株式質権者に到達した場合
4 会社法第百九十八条第二項から第四項までの規定は、第二項の規定による催告について準用する。
(経済産業大臣の認定)
第十二条
次の各号に掲げる者は、当該各号に該当することについて、経済産業大臣の認定を受けることができる。
一 会社である中小企業者(金融商品取引法第二条第十六項に規定する金融商品取引所に上場されている株式又は同法第六十七条の十一第一項の店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式を発行している株式会社を除く。以下この項において同じ。) 次のいずれかに該当すること。
(・・・)
ホ 当該中小企業者(株式会社に限る。)の代表者が年齢、健康状態その他の事情により、継続的かつ安定的に経営を行うことが困難であるため、当該中小企業者の事業活動の継続に支障が生じている場合であって、当該中小企業者の一部の株主の所在が不明であることにより、その経営を当該代表者以外の者(第十六条第二項において「株式会社事業後継者」という。)に円滑に承継させることが困難であると認められること。
(・・・)
経済産業大臣の認定を受けることにより、会社法に定める「5年」という期間が「1年」に短縮される。
ただし、1年に期間短縮がなされるかわりに「特例による公告・個別催告」と「会社法による公告・個別催告」が必要となる(なぜ同じようなことを?)。
全体としては、つぎのように手続きが進んでいく。
- 1年以上の通知不到達・配当不受領
- 認定(不到達・不受領との先後は問わないとされる。下記マニュアルP.29参照)
- 特例による公告・個別催告
- 会社法による公告・個別催告
- 裁判所による売却許可
- 売却
上記中小企業庁HP「4.所在不明株主に関する会社法の特例」の「手続きについて」において『申請マニュアル』が掲載されている。