登記委任状への記名と署名と押印に関する規定の確認

2017年11月29日

1.申請情報への記名押印

(1)申請情報を記載した書面

権利に関する登記を代理人による申請の場合に、署名・押印・記名はそれぞれどの書類について必要とされるか。

参照条文

不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)

第十六条 
申請人又はその代表者若しくは代理人は、法務省令で定める場合を除き、申請情報を記載した書面に記名押印しなければならない。
2 前項の場合において、申請情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者(委任による代理人を除く。)の印鑑に関する証明書(住所地の市町村長(・・・)又は登記官が作成するものに限る。・・・。)を添付しなければならない。

申請情報への「記名押印」が求められている。
そして、押印した印鑑に係る証明書(市町村長又は登記官が作成したもの)の添付が求められている。

「記名押印」プラス「印鑑証明書」が原則なのである。

ただし、「記名押印」についても「印鑑証明書添付」についても、法務省令による例外が定められている。

この「法務省令による例外」については、後記「委任状」の項目で確認していく。

 (おまけ)オンライン申請の場合

参照条文

不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)

第十二条 
電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請するときは、申請人又はその代表者若しくは代理人は、申請情報に電子署名(・・・)を行わなければならない。
2 電子情報処理組織を使用する方法により登記を申請する場合における添付情報は、作成者による電子署名が行われているものでなければならない。

申請情報に電子署名が必要となるのは良いのだが、添付情報についても「作成者」による電子署名が求められている。

2.委任状への記名押印

参照条文

不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)

第十八条 
委任による代理人によって登記を申請する場合には、申請人又はその代表者は、法務省令で定める場合を除き、当該代理人の権限を証する情報を記載した書面に記名押印しなければならない。復代理人によって申請する場合における代理人についても、同様とする。
2 前項の場合において、代理人(復代理人を含む。)の権限を証する情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者(委任による代理人を除く。)の印鑑に関する証明書を添付しなければならない。

委任状についても、申請書と同じような規定ぶりになっている。

「記名押印」プラス「印鑑証明書」が原則なのである。

原則として、委任状に記名押印が必要。
そして、押印した印鑑に係る証明書(市町村長又は登記官が作成したもの)の添付が求められている。

ただし、「記名押印」についても「印鑑証明書添付」についても、法務省令による例外が定められている。

3.上記2における、「記名押印」を要しない場合

「記名押印」ではなく「署名」すればOKとされる場合が規則に列挙されている。

参照条文

不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)

(委任状への記名押印等の特例)
第四十九条 
令第十八条第一項の法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 申請人又はその代表者若しくは代理人が署名した(・・・)委任状(・・・)について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合
二 申請人が第四十七条第三号イからホまでに掲げる者のいずれにも該当せず、かつ、当該申請人又はその代表者若しくは代理人が委任状に署名した場合
三 復代理人によって申請する場合における代理人(委任による代理人に限る。)が復代理人の権限を証する書面に署名した場合
(・・・)

(申請書に記名押印を要しない場合)
第四十七条 
令第十六条第一項の法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 委任による代理人が申請書に署名した場合
二 申請人又はその代表者若しくは代理人が署名した申請書について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合
三 申請人が次に掲げる者のいずれにも該当せず、かつ、当該申請人又はその代表者若しくは代理人が申請書に署名した場合(前号に掲げる場合を除く。)
イ 所有権の登記名義人(所有権に関する仮登記の登記名義人を含む。)であって、次に掲げる登記を申請するもの
(1) 当該登記名義人が登記義務者となる権利に関する登記(担保権(根抵当権及び根質権を除く。)の債務者に関する変更の登記及び更正の登記を除く。)
(2) 共有物分割禁止の定めに係る権利の変更の登記
(3) 所有権の移転の登記がない場合における所有権の登記の抹消
(4) 信託法(平成十八年法律第百八号)第三条第三号に掲げる方法によってされた信託による権利の変更の登記
(5) 仮登記の抹消(法第百十条【仮登記の抹消】前段の規定により所有権に関する仮登記の登記名義人が単独で申請するものに限る。)
(6) 合筆の登記、合体による登記等又は建物の合併の登記
ロ 所有権の登記名義人であって、法第二十二条ただし書の規定により登記識別情報を提供することなく担保権(根抵当権及び根質権を除く。)の債務者に関する変更の登記又は更正の登記を申請するもの
ハ 所有権以外の権利の登記名義人であって、法第二十二条ただし書の規定により登記識別情報を提供することなく当該登記名義人が登記義務者となる権利に関する登記を申請するもの
ニ 所有権以外の権利の登記名義人であって、法第二十二条ただし書の規定により登記識別情報を提供することなく当該登記名義人が信託法第三条第三号に掲げる方法によってされた信託による権利の変更の登記を申請するもの
ホ 法第二十一条本文の規定により登記識別情報の通知を受けることとなる申請人

記名押印は不要であり、署名でOKとされるのは、つぎの3パターン(細かな点は省略して記載している。)

  • 署名した委任状について、公証人の認証を受けた場合。
  • 第四十七条第三号イからホまでに掲げる者のいずれにも該当せず、かつ当該申請者が委任状に署名した場合。
  • 復代理人による申請をする場合で、代理人が復代理人への委任状に署名した場合。

「第四十七条第三号イからホまでに掲げる者」が非常にわかりにくいのだが、たとえば次のようなケースは署名では不可ということになる。

  • 所有権の登記名義人が、登記義務者となる「売買を原因とする所有権移転登記」を申請する場合。
  • 抵当権の登記名義人が、登記識別情報を提供することなく、登記義務者となる「弁済を原因とする抵当権抹消登記」を申請する場合。

4.上記2における、「印鑑証明書の添付」を要しない場合

参照条文

不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)

(委任状への記名押印等の特例)
第四十九条
(・・・)
2 令第十八条第二項の法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 法人の代表者又は代理人が記名押印した者である場合において、その会社法人等番号を申請情報の内容としたとき。ただし、登記官が記名押印した者の印鑑に関する証明書を作成することが可能である場合に限る。
二 申請人又はその代表者若しくは代理人が記名押印した委任状について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合
三 裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の委任状に押印した印鑑に関する証明書であって、裁判所書記官が最高裁判所規則で定めるところにより作成したものが添付されている場合
四 前条第一項第四号及び第五号に掲げる場合
五 復代理人によって申請する場合における代理人(委任による代理人に限る。)が復代理人の権限を証する書面に記名押印した場合

(申請書に印鑑証明書の添付を要しない場合)
第四十八条 
令第十六条第二項の法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 法人の代表者又は代理人が記名押印した者である場合において、その会社法人等番号を申請情報の内容としたとき。ただし、登記官が記名押印した者の印鑑に関する証明書を作成することが可能である場合に限る。
二 申請人又はその代表者若しくは代理人が記名押印した申請書について公証人又はこれに準ずる者の認証を受けた場合
三 裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の申請書に押印した印鑑に関する証明書であって、裁判所書記官が最高裁判所規則で定めるところにより作成したものが添付されている場合
四 申請人が前条第三号ホに掲げる者に該当する場合(同号イ(6)に掲げる者に該当する場合を除く。)
五 申請人が前条第三号イからニまでに掲げる者のいずれにも該当しない場合(前号に掲げる場合を除く。)

記名押印した者は、その押印した印鑑について証明書添付をもとめられるところ、これが不要とされるケース。

印鑑証明書の添付が不要とされるのは、つぎの5パターン(細かな点は省略)

  • 法人代表印については、当該法人の会社法人等番号を提供した場合。
  • 記名押印した委任状について、公証人の認証を受けた場合。
  • 裁判所書記官が最高裁判所規則に基づいて作成した印鑑証明書を添付した場合。
  • 申請人が登記識別情報の通知を受ける場合。
  • 令47条3号イからニのいずれにも該当しない場合。

所有権の登記名義人が登記義務者として申請をするケースや、所有権以外の権利の登記名義人(例:抵当権者)が事前通知前提で登記申請をするケースなどは、印鑑証明書を添付しなければならない。

5.日本国籍でない方について

(1)そもそも押印の必要があるのか

署名のみで足りるとされる。
もちろん押印しても良い。
下記、法律により署名のみでOKとされるが、とはいえ署名の真正については別途先例でフォローされている。 

参照条文

外国人ノ署名捺印及無資力証明ニ関スル法律(明治三十二年法律第五十号)

第一条 
法令ノ規定ニ依リ署名、捺印スヘキ場合ニ於テハ外国人ハ署名スルヲ以テ足ル
2 捺印ノミヲ為スヘキ場合ニ於テハ外国人ハ署名ヲ以テ捺印ニ代フルコトヲ得

(2)印鑑証明書の発行を受けられる場合

先述の規定に従い記名押印し、印鑑証明書を添付すればOK(昭和35年4月2日民事甲787回答)。

(3)印鑑証明書の発行を受けられない場合

委任状に自署し、本人の自署であることについて本人所属国の官権等の証明を受ける(昭和34年12月14日民事甲2838回答)。

6.印鑑証明書の発行を受けられない在外日本人について

日本人である以上、記名押印が必要となれば、記名押印しなければならず、かつ当該印鑑について印鑑証明書が必要になる。

(1)署名した委任状に公証人の認証を受ける

署名した委任状について(日本の)公証人の認証を受ける(昭和58年5月18日民三3039号回答。規則49条1項1号ではないのか?)。

(2)署名押印した委任状に公証人の認証を受ける

印鑑証明書にかえ、委任状に署名拇印し、当該署名拇印が本人によるものであることについて在外領事の証明を受ける(昭和36年1月16日民事甲109回答。これは規則49条2項2号の延長線上にある?)。

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