1.相続開始後における土地の分筆
(1)モデルケース(1筆の土地を分筆して各相続人の単独相続としたい!)
Aさんが亡くなった。
相続人は、B・C・Dの3名である。
唯一の遺産である土地1筆を、3人で分割して承継したい。
(2)いちど共有で相続して分筆後に交換?!
たとえば次のような方法も考えられる。
- 持分3分の1ずつで共有するかたちで相続する。
- 土地1筆を3つに分筆する。
- それぞれで持分の交換をして、単有とする。
(3)被相続人の名義のままで分筆登記ができないのか?
結論、できる。
不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)
(一般承継人による申請)
第三十条
表題部所有者又は所有権の登記名義人が表示に関する登記の申請人となることができる場合において、当該表題部所有者又は登記名義人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人は、当該表示に関する登記を申請することができる。
ただし、分筆の登記は「形成的登記」「創設的登記」であるため、相続人の1名から申請することはできず、相続人全員が申請人となる必要がある。
【参照:青山 修 (著)『不動産登記申請MEMO-土地表示登記編-』 新日本法規出版 (2010/10/20)P.9】
また本記事では、分筆の登記に言及することとなるが、筆者は表示登記に関する専門性を有しない点に、ご留意ください。
(土地家屋調査士さんの力を借りるべし!)
2.遺産分割で「分筆の仕方」について合意する
(1)被相続人名義のままでの分筆には相続人全員の合意
上記1(3)のとおり。
(2)遺産分割協議において分筆後の土地の取得者まで決定
分筆のための地積測量図を作成し、この測量図を別紙として、各相続人が取得する土地を特定する。
遺産分割協議書での記載例としては、調停に関するものだが、つぎの文献を参照。
【参考文献:片岡 武 (著), 管野 眞一 (著)『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版; 第4版 (2021/12/21)P.407】
(共有私道の処理など非常に悩ましい点が多い・・。)
(地役権設定のケースもあったような・・・。)
(分筆して売買するようなケースの売買契約書のイメージ。)
【ほかにも:登記研究458号93頁】
(3)分筆登記の申請者はだれ?
原則としては、こちらも上記1(3)のとおり(相続人全員からの申請)。
なお、遺産分割協議書を添付しての「一部の相続人」からの申請について、登記研究229号71頁を参照。
【ほかにも:中込 敏久 (監修), 荒堀 稔穂 (編集), 中村 隆『Q&A 表示に関する登記の実務第1巻』日本加除出版; 新版 (2007/1/1)P.229以下】
一部の相続人からの申請の可否については、土地家屋調査士さんに相談をすべし。
3.遺言による土地の分筆
(1)分筆方法を遺言により指定する
上記2(2)と同様の発想で対応することになると考えるが、公正証書遺言について別紙添付(分筆のための地積測量図)ってできるのだろうか?
(2)自筆証書により可能か?
さらに自筆証書遺言の場合、分筆に関する地積測量図は自筆しなくてよい「相続財産の目録」に含まれるのか?
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(自筆証書遺言)
第九百六十八条
自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
(・・・)
(3)遺言書の記載では「分筆登記申請」ができない場合には?
たとえば図面なく「3つに分筆して~」などと書かれている場合にどうするのか。
分け方については協議を行わざるを得ないのか?
協議がまとまらない場合には、どうすればよいのか?
「分筆して~」という遺言内容を無視することはできるのか?
さらにいえば、境界確定ができず分筆ができなかったら、どうすれば良いのだろうか?
【参考文献:中込 敏久 (監修), 荒堀 稔穂 (編集), 中村 隆『Q&A 表示に関する登記の実務第1巻』日本加除出版; 新版 (2007/1/1)P.305以下】
(4)遺言執行者からの申請
上記の不動産登記法31条と関連するところになるが、分筆を指示する遺言の遺言執行者が申請人となりうるか?
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
【参照:鎌田 薫 (編集), 寺田 逸郎 (編集), 村松 秀樹 (編集)『新基本法コンメンタール 不動産登記法〔第2版〕』日本評論社 (2023/4/3)P.114】(参照条文が1015条になっているが・・・)
4.まとめ
(1)相続開始前に分筆しておくのが一番ではないか?
こうして整理してみると、相続開始後に分筆を指示するくらいなら、相続開始前に分筆してしまったほうが良いように感じる。
(分筆をしたところで、実利用に影響は出ないのだから、なおさら事前にと思ってしまう。)
(2)相続開始前の分筆が難しい場合には
相続開始前の分筆が難しいケースにおいても、少なくとも分筆後の地積測量図を作成し、それを参照図面とした遺言書の作成が推奨されるのではないか。