1.持分の放棄とは
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
共有者の一人が、その持分を放棄すると、当該持分は他の共有者に帰属する。
「他の共有者」が複数いる場合には、「他の共有者」の持分割合に応じて、放棄した共有者の持分が帰属する。
「他の共有者」が複数いる場合において、特定の「他の共有者」に対してのみ、放棄した共有持分を帰属させることはできない(参照:登記研究470P97質疑応答)。逆に、こうした性質から、特定承継とはいえないので農地法の許可は不要。
ちなみに、「死亡して相続人がいないとき」については、次のような判例がある。
最判平成元年11月24日
裁判要旨
共有者の一人が死亡し、相続人の不存在が確定し、相続債権者や受遺者に対する清算手続が終了したときは、その持分は、民法九五八条の三に基づく特別縁故者に対する財産分与の対象となり、右財産分与がされないときに、同法二五五条により他の共有者に帰属する。
特別縁故者の有無が優先され、特別縁故者が不在の場合に、255条が適用される。そのため、相続財産清算手続きが必ず優先して進められることになる。
2.登記手続き
(1)注意点
「他の共有者に帰属」となるため、共有者の氏名住所変更がなされていない場合には、登記名義人住所氏名と相違するため、却下となる。
前提として、「他の共有者」の住所氏名変更登記が必要となる(参照:登記研究473P151質疑応答)。
(2)登記名義人
権利者は「他の共有者」、義務者は「放棄する共有者」による共同申請となる。
そのため、放棄自体は一方的な意思表示で可能になるものの、これを登記に反映させるためには「他の共有者」の協力が必要となる。
そのため、「他の共有者」の協力が得られない場合には、登記引取請求訴訟を提起するほかない。
3.課税関係について
以下は業務メモとして残すものです。具体的な事案においては、必ず税務署なり税理士さんに相談すべし。
(1)「他の共有者」について
相続税基本通達
9-12 共有に属する財産の共有者の1人が、その持分を放棄(相続の放棄を除く。)したとき、又は死亡した場合においてその者の相続人がないときは、その者に係る持分は、他の共有者がその持分に応じ贈与又は遺贈により取得したものとして取り扱うものとする。
贈与により取得したこととなり、贈与税について検討する必要がある。
ただし、放棄により取得した持分を売却する際には贈与課税時の時価を取得費とするのが実務とされるが、個別事案においては、税理士等への確認が必須。
不動産取得税については、確たる情報を得ることができなかったが、条文上は課税されると考えてよいだろうか。
(2)「放棄する共有者」について
対価として何も得ていないので譲渡所得税は発生しない。