1.条文
(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
第百七十四条
株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
2.設定
とある会社。
代表取締役A、取締役B。BはAの子供。株主はA80%、B20%。
Aの相続人は、子Bおよび子C。
Aの死亡により、定款規定に基づき、Bは代表取締役となった。
また、Aの株式は、BとCで準共有されている状態。
3.疑問
当該会社は、
共同相続人Cに対して、準共有状態のC持分の売渡請求をできるのか?
4.裁判例(東京高裁H24.11.28)
Xは、Y会社の株式を夫Aから遺言によって取得。
子Bは、Xに対して遺留分減殺請求(改正前民法)を請求した。
(結果として、XとBは、遺言により承継された株式を準共有)
Y会社は、臨時株主総会を開催し、Xのみに対して、
遺言によって取得した株式をY会社に売り渡すよう決議した。
Xは「株式を準共有している者の一部に対してのみ売渡請求をすることは認められない」と主張した。
この点につき、裁判所は、
「相続人のうちの一部の者のみが他の株主にとって好ましくないという事態が生じた場合、当該一部の者のみを排除することができれば制度の目的は十分に達成することが可能であって、常に相続人全員に対して売渡しの請求をしなければならないとする必然性はないこと。」
「遺産分割協議等によって株式の準共有状態が解消された場合には、相続人の一部の者に対してのみ売渡請求をすることが可能であることとの均衡。」
「売渡請求について、『相続その他の一般承継があったことを知った日から一年を経過したとき』(176Ⅰ)とされていること。」
から、持分割合が確定していない準共有状態の株式について、準共有者の一部の者のみに対して売渡請求をすることが、会社法上禁止されているとは解されないと判断している。