1.株式の相続
(1)条文
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(共有者による権利の行使)
第百六条
株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
(2)整理
株主に相続が発生した場合、その株式は相続財産として相続人に承継される(遺言等がない場合)。
相続人が複数の場合、株式は当該相続人間において準共有される。
最判平成26年2月25日 民集第68巻2号173頁
上記判例より抜粋
株式は、株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味し、株主は、株主たる地位に基づいて、剰余金の配当を受ける権利(会社法105条1項1号)、残余財産の分配を受ける権利(同項2号)などのいわゆる自益権と、株主総会における議決権(同項3号)などのいわゆる共益権とを有するのであって(・・・)、このような株式に含まれる権利の内容及び性質に照らせば、共同相続された株式は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべき
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(準共有)
第二百六十四条
この節の規定は、数人で所有権以外の財産権を有する場合について準用する。ただし、法令に特別の定めがあるときは、この限りでない。
というわけで、相続により株式を準共有するに至った相続人らは、「当該株式についての権利を行使する者1人」を定めて株式会社に通知しないと、権利行使をすることができない!
2.準共有状態における議決権行使
(1)判例
最判平成9年1月28日
上記判例より抜粋。
この場合に、持分の準共有者間において権利行使者を定めるに当たっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができるものと解するのが相当である。
けだし、準共有者の全員が一致しなければ権利行使者を指定することができないとすると、準共有者のうちの一人でも反対すれば全員の社員権の行使が不可能となるのみならず、会社の運営にも支障を来すおそれがあり、会社の事務処理の便宜を考慮して設けられた右規定の趣旨にも反する結果となるから・・・
(2)整理
権利行使者の指定方法について、これが「共有物の処分」に該当するとの見解もある。
そのように整理されると「全員一致」でなければ権利行使者を指定することができなくなる。
しかしながら、これによる不都合があることは、上記判例抜粋のとおりである。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(共有物の変更)
第二百五十一条
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
ちなみに、上記判例の事案は、100%株主が死亡し、その相続人がA1・A2・A3・Eの4名であったところ、Eが権利行使者を指定するための協議に応じないことから、権利行使者の指定及び通知をすることなく、準共有株主(注:事案は旧商法時代の有限会社に関するもの)としての地位に基づき権利行使をしようとしたもの。
これに対して判例は「Eが協議に応じないとしても、相続人間で権利行使者を指定することは不可能ではないし、権利行使者を指定して届け出た場合に会社がその受理を拒絶したとしても、このことにより会社に対する権利行使は妨げられない」という趣旨のことを述べている。
3.会社法106条但書の理解の仕方
(1)会社法106条但書
条文再掲。
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(共有者による権利の行使)
第百六条
株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
会社が認めれば、権利行使者指定のプロセスを省略することができるようにも読める!?
(2)判例による整理
最判平成27年2月19日 民集第69巻1号25頁
上記判例より抜粋
共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条ただし書の同意をしても、当該権利の行使は、適法となるものではない
(・・・)
共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられるものと解するのが相当である。
まずは、「権利行使者の指定」と「株式会社の同意」について、共有に関する規定に従った権利行使がなされたのであれば、「指定・通知」という106条本文のプロセスを踏まなくとも、会社が同意する限りにおいて当該権利行使は有効となる。
たとえば、準共有者同士で話し合い、権利行使者を指定するのではなく「取締役選任議案に賛成します」といった権利行使がなされた場合など。
これはあくまでも「準共有者同士での過半数の同意(管理行為の場合)」があることが前提であり、そのプロセスさえ無視することはできない。
また、民法の共有の規定に従うことから、権利行使の内容が「処分・変更」に該当する場合には、準共有者全員の同意が必要となる。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(共有物の変更)
第二百五十一条
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
(共有物の管理)
第二百五十二条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
ちなみに、上記判例の事案は、発行済株式3000株のうち2000株を有するA(のこり1000株はCが保有)の相続に伴うもの。
Aの相続人はBとXであった。
株主総会の議案となったのは「取締役の追加選任」「代表取締役の選任」「本店移転(定款変更をともなう)」であったが、権利行使者の指定・通知のないままBが株主総会に出席し議決権行使をしている。
(なおCも出席し議決権行使をしていた。)
判例は、議案自体は管理に関する行為として「準共有者の過半数で決しうるもの」としつつも、本件においては、民法の共有の規定に従った権利行使がなされていないとして、会社が同意したとしても適法な権利行使になるものではないと判示した。