目次
1.合同会社の社員に相続が発生すると
(1)「死亡」は社員の退社事由
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(法定退社)
第六百七条
社員は、(・・・)、次に掲げる事由によって退社する。
(・・・)
三 死亡
四 合併(合併により当該法人である社員が消滅する場合に限る。)
五 破産手続開始の決定
六 解散(前二号に掲げる事由によるものを除く。)
七 後見開始の審判を受けたこと。
八 除名
2 持分会社は、その社員が前項第五号から第七号までに掲げる事由の全部又は一部によっては退社しない旨を定めることができる。
原則的に、社員の「死亡=退社」である。
さらに、社員が欠けてしまうと解散事由にもなる。
第六百四十一条
持分会社は、次に掲げる事由によって解散する。
一 定款で定めた存続期間の満了
二 定款で定めた解散の事由の発生
三 総社員の同意
四 社員が欠けたこと。
五 合併(合併により当該持分会社が消滅する場合に限る。)
六 破産手続開始の決定
七 第八百二十四条第一項又は第八百三十三条第二項の規定による解散を命ずる裁判
第六百四十七条
3 前二項の規定にかかわらず、第六百四十一条第四号又は第七号に掲げる事由によって解散した清算持分会社については、裁判所は、利害関係人若しくは法務大臣の申立てにより又は職権で、清算人を選任する。
(2)「一般承継人が当該社員の持分を承継する」旨を定款で規定可能
(相続及び合併の場合の特則)
第六百八条
持分会社は、その社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めることができる。
2 第六百四条第二項の規定にかかわらず、前項の規定による定款の定めがある場合には、同項の一般承継人(社員以外のものに限る。)は、同項の持分を承継した時に、当該持分を有する社員となる。
3 第一項の定款の定めがある場合には、持分会社は、同項の一般承継人が持分を承継した時に、当該一般承継人に係る定款の変更をしたものとみなす。
4 第一項の一般承継人(相続により持分を承継したものであって、出資に係る払込み又は給付の全部又は一部を履行していないものに限る。)が二人以上ある場合には、各一般承継人は、連帯して当該出資に係る払込み又は給付の履行をする責任を負う。
5 第一項の一般承継人(相続により持分を承継したものに限る。)が二人以上ある場合には、各一般承継人は、承継した持分についての権利を行使する者一人を定めなければ、当該持分についての権利を行使することができない。ただし、持分会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
(退社に伴う定款のみなし変更)
第六百十条
第六百六条、第六百七条第一項、前条第一項又は第六百四十二条第二項の規定により社員が退社した場合(第八百四十五条の規定により社員が退社したものとみなされる場合を含む。)には、持分会社は、当該社員が退社した時に、当該社員に係る定款の定めを廃止する定款の変更をしたものとみなす。
原則的には「死亡=退社」であるが、「その社員が死亡した場合における当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定款で定めること」は可能。
- 一般承継人は、持分承継時に、持分を有する社員となる。
- この場合、持分承継時に、加入する社員にかかる定款変更をしたものとみなされる。
- この場合、退社(死亡)時に、退社する社員にかかる定款変更をしたものとみなされる。
(3)定款記載例
法務省が公開する合同会社設立登記申請書に記載例として掲載されている条項。
(社員の相続及び合併)
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252889.pdf
第7条
社員が死亡し又は合併により消滅した場合には、その相続人その他の一般承継人は、他の社員の承諾を得て、持分を承継して社員となることができる。
社員が1名のときにはどうなるのだろうか。
2.合同会社の持分は相続されるのか?
(1)原則として持分は相続されない
原則として、社員が死亡した際、その持分は相続されない。
仮に社員が1名で、当該社員に相続が発生した場合には、「社員が欠けた」状況となるため、会社は解散する(清算人は647条3項により選任される。)。
(清算人の就任)
第六百四十七条
次に掲げる者は、清算持分会社の清算人となる。
一 業務を執行する社員(次号又は第三号に掲げる者がある場合を除く。)
二 定款で定める者
三 社員(業務を執行する社員を定款で定めた場合にあっては、その社員)の過半数の同意によって定める者
2 前項の規定により清算人となる者がないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、清算人を選任する。
3 前二項の規定にかかわらず、第六百四十一条第四号【社員が欠けたこと】又は第七号【解散命】】
(2)定款の定めにより「承継」可能
ただし、定款において、相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継する旨を定めることができる。
その場合の処理は、608条による。
相続の場合には、相続開始の際に社員となり(同2項)、かつ同時に定款変更されたものとみなされる(同3項)。
(3)相続人が複数いるときには?
ただし、相続人が2名以上ある場合には、権利行使者1名を選定する必要がある(同5項)。
株式会社における株式の準共有の状況と同じ。
(社員の資格についても、準共有となるので、社員数が相続人の人数分増加するのではない。)
一方で、業務執行権及び代表権については、単独行使が可能とされる(!!)。
3.遺産分割協議と持分承継について
(1)相続開始後に遺産分割協議をして単独承継としたら?
たとえば社員AとBの合同会社において、Bが死亡した。
当該会社の定款には、相続により持分が承継される旨の記載があり、Bの相続人甲と乙が、当該記載に基づき、持分を承継した。
このケースにおいて、甲・乙の遺産分割協議により、合同会社の持分承継者を甲単独とすることができるのか。
(2)両説あり?!
両説があるようだが、ハンドブックは肯定。
先例は否定(参考:S34.1.14民事甲2723号回答。)。
否定説の場合は、いったん承継後、持分譲渡をせよとの主張であるが、税務上どうか?
会社が、被相続人合意のもと「相続人」に対する承継を認めることができるのは良いとして、相続人間の承継の仕方について、どこまで相続人に指示できるのだろうか?
遺言があった場合には?
(3)否定説の場合の処理
否定説の場合には、まず法定相続分に基づいて社員変更を行ったうえで、遺産分割協議の結果に基づいて「持分譲渡」として再度社員変更を行う。
持分譲渡に際しては、特定承継としてほかの社員の同意が必要?
(また、否定説においても、定款において「遺産分割による承継」を認める旨を規定すればOKとされる。)
4.一般承継について「他の社員の同意を必要とすること」の可否
可能とされる(参照:ハンドブック2版P.599)。
「他の社員の同意」というような条件のほかにも、広範な条件設定が可能とされる。
そのため、上記3についても、たとえば「遺産分割協議がなされた場合には、当該協議の内容に従い承継される」などの定款の定めがあれば、それも許される。
また、「承継される」ではなく「承継できる」との規定も可能で、その場合には、各相続人が持分承継の意思表示をすることによって承継の効力が生じるという。
4.まとめ
とても複雑に思えるし、大本で説が分かれるので、どうすれば良いのやら。