不動産登記における原本還付

1.不動産登記法令を確認

(1)不動産登記規則

参照条文

不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)

(添付書面の原本の還付請求)
第五十五条 
書面申請をした申請人は、申請書の添付書面(磁気ディスクを除く。)の原本の還付を請求することができる。ただし、令第十六条第二項、第十八条第二項若しくは第十九条第二項又はこの省令第四十八条第三号(第五十条第二項において準用する場合を含む。)若しくは第四十九条第二項第三号の印鑑に関する証明書及び当該申請のためにのみ作成された委任状その他の書面については、この限りでない。
2 前項本文の規定により原本の還付を請求する申請人は、原本と相違ない旨を記載した謄本を提出しなければならない。
3 登記官は、第一項本文の規定による請求があった場合には、調査完了後、当該請求に係る書面の原本を還付しなければならない。この場合には、前項の謄本と当該請求に係る書面の原本を照合し、これらの内容が同一であることを確認した上、同項の謄本に原本還付の旨を記載し、これに登記官印を押印しなければならない。
4 前項後段の規定により登記官印を押印した第二項の謄本は、登記完了後、申請書類つづり込み帳につづり込むものとする。
5 第三項前段の規定にかかわらず、登記官は、偽造された書面その他の不正な登記の申請のために用いられた疑いがある書面については、これを還付することができない。
6 第三項の規定による原本の還付は、申請人の申出により、原本を送付する方法によることができる。この場合においては、申請人は、送付先の住所をも申し出なければならない。
7 前項の場合における書面の送付は、同項の住所に宛てて、書留郵便又は信書便の役務であって信書便事業者において引受け及び配達の記録を行うものによってするものとする。
8 前項の送付に要する費用は、郵便切手又は信書便の役務に関する料金の支払のために使用することができる証票であって法務大臣が指定するものを提出する方法により納付しなければならない。
9 前項の指定は、告示してしなければならない。

「書面申請」をした申請人は、添付書面につき、原本還付を請求することができる。
原本還付可能というのが原則である。

原本還付の請求にあたり、申請人は「原本と相違ない旨を記載した謄本」を提出しなければならない。

請求を受けた登記官は、調査完了後、原本を還付する(偽造等の疑いがある場合には還付してはいけない。)。
原本還付を行った際には、提出を受けた謄本に「原本還付の旨」と「登記官印の押印」をおこなったうえで保管する。

(2)不動産登記令

規則55条1項において、原本還付の原則の例外が規定されている。

  • 印鑑証明書について
    • 令16条2項【申請情報を記載した書面への記名押印等】
    • 令18条2項【代理人の権限を証する情報を記載した書面への記名押印等】
    • 令19条2項【承諾を証する情報を記載した書面への記名押印等】
    • 規則48条3号(第50条2項において準用する場合を含む。)【裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の申請書に押印した印鑑に関する証明書】
    • 規則49条2項3号の印鑑に関する証明書【裁判所によって選任された者がその職務上行う申請の委任状に押印した印鑑に関する証明書】
  • 当該申請のためにのみ作成された委任状その他の書面

長くなるので条文参照は省略。
印鑑証明書についても、特定の場合においてのみ「原本還付不可」となる。

(3)当該登記申請のためにのみ作成された委任状その他の書面

「もともと他の目的への使用が予定されていないものだから原本還付は認められない」と説明される。

たとえば「報告形式の登記原因証明情報」が代表例とされる。

ちなみに、他管轄の不動産が記載されており、別申請が予定されているとしても、再作成可能であることから還付は不可とされている。
【参考:日本法令不動産登記研究会『事項別 不動産登記のQ&A210選』日本法令; 8訂版P.36】

(こうした説明を見ていると、原則的には原本を提出すべきものであり、他の使用目的があったり、再調達が難しい場合には原本還付と認めるという考え方が根底にあるように思える。条文のつくりを逆にしても良いと思うが、そうなると「他の使用目的」を示さなければならなくなるか?)

2.印鑑証明書について

(1)原則的な取扱い

上記1(2)に記載の通り、特定の目的で添付された場合には原本還付が不可となる。

  • 申請書に記名押印した申請人にかかる印鑑証明書
  • 委任状に記名押印した申請人にかかる印鑑証明書
  • 承諾または同意を証する情報を記載した書面に記名押印した作成者にかかる印鑑証明書
  • 裁判所書記官が最高裁規則に基づいて作成した印鑑証明書

これに該当しない要件の基づき印鑑証明書を提出した場合には、原本還付が可能となる(はず)。

(2)同意証明情報・承諾証明情報について

参照条文

不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)

(承諾を証する情報を記載した書面への記名押印等)
第十九条 
第七条第一項第五号ハ若しくは第六号の規定又はその他の法令の規定により申請情報と併せて提供しなければならない同意又は承諾を証する情報を記載した書面には、法務省令で定める場合を除き、その作成者が記名押印しなければならない。
2 前項の書面には、官庁又は公署の作成に係る場合その他法務省令で定める場合を除き、同項の規定により記名押印した者の印鑑に関する証明書を添付しなければならない。

令7条1項5号ハは「登記原因について第三者の許可、同意又は承諾を要するとき」。
たとえば農地法による許可。

具体的に何が該当するかについては細かい点が多いので省略(青2P.222参照)。

3.相続登記申請に添付する印鑑証明書と原本還付

(1)平成17年2月25日民二457号通達

ようやく今回の本題である。
掲題通達の「七」に、要旨次のように記載されている

七 原本還付の取扱い

相続関係説明図が提出されたときは、登記原因証明情報のうち、戸籍謄本又は抄本及び除籍謄本に限り、当該相続関係説明図をこれらの書面の謄本として取り扱って差し支えない。

というわけで、登記原因証明情報うち戸籍謄本等については、相続関係説明図が「原本還付のための謄本」ということになる。

そのほか遺産分割協議書等の登記原因証明情報を構成する書類については、それぞれ原本還付の手続きを経る必要があるということになる。

(2)遺産分割協議書に添付した印鑑証明書

当然に原本還付を受けているが、先例はもちろん質疑応答でも言及したものがない?
【参考:青山 修 (著)『相続登記申請MEMO』新日本法規出版 (2015/3/9)P.150】

(3)上申書等に添付した印鑑証明書

従前は「登記簿上の住所と被相続人をつなげられない」「取得できない戸籍等がある」ケースでは上申書が求められており、かつ上申書については相続人全員の実印押印と印鑑証明書添付が必要とされていた。

この場合の印鑑証明書については、分割協議書に添付した印鑑証明書の援用や原本還付が認められていた(参考:登記研究449号89頁)。

4.サイン証明書・署名証明書の場合

(1)印鑑証明書に替えて

日本に住民登録していない方については印鑑証明書が発行されない。
その場合には、サイン証明書(署名証明書)が印鑑証明書の代替書類となる。

(2)原本還付について

登記研究692号211頁に質疑応答が掲載されている。
何に代替するものかということを考えると自ずと・・・。

関連記事
相続登記(遺産分割協議に基づく)と添付書類
1.相続登記の添付情報に関連する法令 (1)不動産登記法 参照条文 不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号) (政令への委任)第二十六条 この章に定めるものの…
在外日本人を含む相続登記と印鑑証明書
1.海外に居住する日本人を含む相続手続き (1)遺産分割により取得者を決めた場合 遺産分割協議に基づき取得者を決定し、これに基づいて相続登記をする場合には、遺産…
相続登記(遺産分割協議に基づく)と印鑑証明書
1.相続登記と添付書類 添付書類全般については、次の記事を参照。 【参照記事:相続登記(遺産分割協議に基づく)と添付書類】 2.印鑑証明書の添付根拠 (1)昭和…