相続土地国庫帰属制度(その3)

1.取扱通達の公開

(1)取扱通達が法務省HPにて公開

「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律の施行に伴う相続土地国庫帰属手続に関する事務の取扱いについて(令和5年2月8日付け民二第70号民事局長通達)」が法務省HPにて公開されている。

この記事では、本通達を「取扱通達」という。

(2)気になる箇所をピックアップ

  • 法第5条第2号「土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地」の調査事項
  • 法第5条第5号「前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの」の調査事項

2.法第5条第2号
「土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地」の調査事項

(1)取扱通達より引用【書面調査編】

第10節 承認申請の審査
第3 調査事項

⑪ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
(法第5条第1項第2号)

添付書面の写真により、申請土地における工作物、車両又は樹木その他
の有体物の有無を確認するものとする。

取扱通達P31以下

(2)ポイントまとめ【書面調査編】

法第5条は、全体として「土地の通常の管理又は処分をすることができない」ものではないことを確認することを求めている。

そして、法第5条第1項第2号では、そうした阻害要素となる「有体物」が地上には存在しないことの確認を求めている。

書面調査としては、提出された写真等で確認することになるのだろう。

(3)取扱通達より引用【実地調査編】

第10節 承認申請の審査
第3 調査事項
⑪ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
(法第5条第1項第2号)

(1) 申請土地に存在する有体物の有無を確認し、通常の管理又は処分を阻害する有体物に該当するかを判断するものとする。
(2) 通常の管理又は処分を阻害する有体物に該当する主な事例は、以下のとおりである。
ア 果樹園の樹木
イ 民家、公道、線路等の付近に存在し、放置すると倒木のおそれがある枯れた樹木や枝の落下等による災害を防止するために定期的な伐採を行う必要がある樹木
ウ 放置すると周辺の土地に侵入するおそれや森林の公益的機能の発揮に支障を生じるおそれがあるために定期的な伐採を行う必要がある竹
エ 過去に治山事業等で施工した工作物のうち、補修等が必要なもの
オ 建物には該当しない廃屋
カ 放置車両

取扱通達P32以下

(4)ポイントまとめ【実地調査編】

上記(2)の「主な事例」が重要であろう。
抜粋すると以下のとおり。

  • 果樹園の樹木
    (果実がボタボタ落ちるから?)
  • 民家、公道、線路等の付近に存在し、放置すると倒木のおそれがある枯れた樹木
  • 枝の落下等による災害を防止するために定期的な伐採を行う必要がある樹木
    (分節する箇所が正しいか自信がないが、いずれにせよ、そうした樹木がある場合には、先に伐採をしておくべきなのだろう。)
  • 過去に治山事業等で施工した工作物
  • 建物には該当しない廃屋
  • 放置車両

単純に木が生えているということだけでは、不承認にはならないのだろうが、「枝の落下等による災害を防止するために定期的な伐採を行う必要がある樹木」というのは、該当するケースが多いようにも思う。

とはいえ「通常の管理又は処分を阻害する」という要件との関係で、認定が難しいようにも思う。

3.法第5条第5号
「前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの」の調査事項

(1)政令の確認

参照条文

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令(令和四年政令第三百十六号)

(承認をすることができない土地)
第三条
(・・・)
3 法第五条第一項第五号の政令で定める土地は、次に掲げる土地とする。
一 土砂の崩壊、地割れ、陥没、水又は汚液の漏出その他の土地の状況に起因する災害が発生し、又は発生するおそれがある土地であって、その災害により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体又は財産に被害が生じ、又は生ずるおそれがあり、その被害の拡大又は発生を防止するために当該土地の現状に変更を加える措置(軽微なものを除く。)を講ずる必要があるもの
二 鳥獣、病害虫その他の動物が生息する土地であって、当該動物により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがあるもの(その程度が軽微で土地の通常の管理又は処分を阻害しないと認められるものを除く。)
三 主に森林(森林法(昭和二十六年法律第二百四十九号)第二条第一項に規定する森林をいう。次条第一項第三号及び第六条第二項において同じ。)として利用されている土地のうち、その土地が存する市町村の区域に係る市町村森林整備計画(同法第十条の五第一項に規定する市町村森林整備計画をいう。)に定められた同条第二項第三号及び第四号に掲げる事項に適合していないことにより、当該事項に適合させるために追加的に造林、間伐又は保育を実施する必要があると認められるもの
四 法第十一条第一項の規定により所有権が国庫に帰属した後に法令の規定に基づく処分により国が通常の管理に要する費用以外の費用に係る金銭債務を負担することが確実と認められる土地
五 法令の規定に基づく処分により承認申請者が所有者として金銭債務を負担する土地であって、法第十一条第一項の規定により所有権が国庫に帰属したことに伴い国が法令の規定により当該金銭債務を承継することとなるもの

とりわけ、つぎのような危険性がある土地を「承認できない土地」としている。

  • 土砂の崩壊、地割れ、陥没、水又は汚液の漏出その他の土地の状況に起因する災害が発生するおそれあり
  • 鳥獣、病害虫その他の動物により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害を生ずるおそれあり
  • 市町村森林整備計画に定められた事項に適合するために追加的に造林、間伐又は保育を実施する必要がある
  • 法令の規定に基づく処分により通常の管理に要する費用以外の費用に係る金銭債務を負担することが確実
  • 法令の規定に基づく処分により承認申請者が所有者として金銭債務を負担し、かつ所有権を承継した国が当該金銭債務も承継することとなる土地

(2)取扱通達より引用【書面調査編】

省略

(3)取扱通達より引用【実地調査編】

第10節 承認申請の審査
第3 調査事項
⑮ 鳥獣、病害虫その他の動物が生息する土地であって、当該動物により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがあるもの(その程度が軽微で土地の通常の管理又は処分を阻害しないと認められるものを除く。)(令第3条第3項第2号)

(1) 本要件に該当する可能性がある申請土地については、原則として、法第7条の規定に基づく事実の調査のため、管理予定庁に同行を求めることとし、管理予定庁とともに申請土地の状況を確認するものとする。
(2) 本要件は、当該動物により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがあることについて、具体的な被害情報や具体的に被害が発生する客観的な情報がある場合に限って該当するものとする。

取扱通達P35以下

(4)ポイントまとめ【実地調査編】

鳥獣、病害虫その他の動物に関する規定につき確認をする。

「具体的な被害情報や具体的に被害が発生する客観的な情報がある場合に限って該当する」とされている。

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