目次
1.不動産登記法・規則の確認
(1)旧不動産登記法
旧不動産登記法(明治32年法律第24号)
第四章 登記手続
第一節 通則(第二十五条―第七十七条)
第五十九条
行政区画又ハ其名称ノ変更アリタルトキハ登記簿ニ記載シタル行政区画又ハ其名称ハ当然之ヲ変更シタルモノト看做ス字又ハ其名称ノ変更アリタルトキ亦同シ
旧不動産登記法においては、登記手続きの通則として、「行政区画又ハ其名称ノ変更」又は「字又ハ其名称ノ変更」があったときには、登記簿に記載された行政区画やその名称は当然に変更したものと「みなされる」とされていた。
みなし規定なので、わざわざ変更登記の申請をしなくてもOKということになる。
また後述の現行不動産登記法と異なり、登記手続きの通則に置かれていた規定なので、現行法でいうところの「表示に関する登記」「権利に関する登記」のどちらにも適用されるということに。
(2)現行の不動産登記法等
不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)
第三章 登記手続
第二節 表示に関する登記
第一款 通則
(行政区画の変更等)
第九十二条
行政区画又はその名称の変更があった場合には、登記記録に記録した行政区画又はその名称について変更の登記があったものとみなす。字又はその名称に変更があったときも、同様とする。
2 登記官は、前項の場合には、速やかに、表題部に記録した行政区画若しくは字又はこれらの名称を変更しなければならない。
現行法においては、「行政区画又はその名称の変更」「字又はその名称に変更」があった際の取扱いについて、法律では規定されていない。
かつ、規則の「表示に関する登記」について規定されているにとどまる。
定められている内容は、ほぼ同義であるが、同条2項で「登記官が、速やかに、職権変更」しなければならないとされている点が異なる。
(3)権利に関する登記はどうなってしまうのか?
新法が施行されたのち、権利に関する登記において、どういった取扱いがなされるのかは不明確となっていたところ、下記通達が発出され、その取扱いが明確化された。
2.平成22年11月1日第2758号民二課長回答
(区制施行などの地番変更を伴わない行政区画の変更に係る登記名義人の住所等の変更に係る登記事務の取扱いについて)
(1)住所変更⇒区制施行
登記名義人が、登記記録に記録された住所から他の住所に移転した後、移転後の住所について区制変更などの地番変更を伴わない行政区画の変更が行われた場合の登記申請の方法について。
【回答】
「年月日住所移転、年月日区制施行」とすべき。
(「年月日住所移転」のみでは不可。)
(2)根抵当権の債務者住所
根抵当権の同一性(民法398条の16)を判断するにあたり、前登記における債務者の住所について、区制施行などの地番変更を伴わない行政区画の変更が行われていた場合の取扱いについて。
【回答】
前登記の債務者の変更登記をすることなく、追加設定の登記をすることができる。
3.考え方を考える(変更は不要な理由)
(1)「権利に関する登記」における考え方
区制施行などの地番変更を伴わない行政区画の変更に係る登記名義人の住所等の変更があった場合、「みなし規定」が存在しないから、変更登記を申請することも可能。
一方で、「行政区画の変更」については、つぎのような事情を考慮すべき。
- 行政区画の変更は、地方自治体において実施されるもの。
- 行政区画の変更の前後で、登記名義人の居住場所に変更があるわけではない。
- 行政区画の変更は、必要に応じて官報等で公示されるものであり、「公知の事実」である。
以上のことから、その変更登記がなされていない場合にあっても、登記名義人と申請人との不一致がある場合には該当しない(参照:不動産登記法25条7号)。
不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)
(申請の却下)
第二十五条
登記官は、次に掲げる場合には、理由を付した決定で、登記の申請を却下しなければならない。ただし、当該申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申請人がこれを補正したときは、この限りでない。
(・・・)
七 申請情報の内容である登記義務者(・・・)の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。
(2)「住所変更⇒区制施行」について
旧不動産登記法においては、「みなし規定」が存在していた。
そのため、わざわざ「変更登記」を申請する必要はないということになる。
(とはいえ、申請があった場合には、便宜的に変更登記を受け付けていたようである。)
一方で、現行法においては、そうした「みなし規定」は存在しないので、変更過程を明示するべく変更登記を申請することも可能。
そして、最終の登記原因が「区制変更」ということになるのならば、登録免許税は非課税ということになる(参照:登録免許税法5条4号及び5号)。
登録免許税法(昭和四十二年法律第三十五号)
(非課税登記等)
第五条
次に掲げる登記等(第四号又は第五号に掲げる登記又は登録にあつては、当該登記等がこれらの号に掲げる登記又は登録に該当するものであることを証する財務省令で定める書類を添付して受けるものに限る。)については、登録免許税を課さない。
(・・・)
四 住居表示に関する法律(昭和三十七年法律第百十九号)第三条第一項及び第二項又は第四条(住居表示の実施手続等)の規定による住居表示の実施又は変更に伴う登記事項又は登録事項の変更の登記又は登録
五 行政区画、郡、区、市町村内の町若しくは字又はこれらの名称の変更(その変更に伴う地番の変更及び次号に規定する事業の施行に伴う地番の変更を含む。)に伴う登記事項又は登録事項の変更の登記又は登録
(3)「根抵当権の債務者住所」について
民法398条の16の規定は、つぎのとおり。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(共同根抵当)
第三百九十八条の十六
第三百九十二条及び第三百九十三条の規定は、根抵当権については、その設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産につき根抵当権が設定された旨の登記をした場合に限り、適用する。
(共同根抵当の変更等)
第三百九十八条の十七
前条の登記がされている根抵当権の担保すべき債権の範囲、債務者若しくは極度額の変更又はその譲渡若しくは一部譲渡は、その根抵当権が設定されているすべての不動産について登記をしなければ、その効力を生じない。
2 前条の登記がされている根抵当権の担保すべき元本は、一個の不動産についてのみ確定すべき事由が生じた場合においても、確定する。
結論として、変更登記は不要。
その理由は、上記(1)に記載のとおり。
また、根抵当権者にも同様のことがいえるかについては、下記参考文献のP157を参照!!
(4)参考文献
登記研究755号149頁以下