目次
1.一括申請の基本
(1)1つの不動産ごとにわけて申請が大原則
不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)
(申請情報の作成及び提供)
第四条
申請情報は、登記の目的及び登記原因に応じ、一の不動産ごとに作成して提供しなければならない。ただし、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるときその他法務省令で定めるときは、この限りでない。
申請情報は、次の要素ごとに作成されなければいけない。
- 不動産
- 登記の目的
- 登記原因
上記3つのうち、1つでも異なれば、申請情報をわけるのが原則である。
とはいえ、原則に従い申請情報をわけることで、申請者にとっても登記所にとっても不経済となることが想定されるので、例外的に一括申請が許される場合を不動産登記規則で定めている。
(2)一括申請が許される場合
不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)
(一の申請情報によって申請することができる場合)
第三十五条
令第四条ただし書の法務省令で定めるときは、次に掲げるときとする。
(・・・)
八 同一の登記所の管轄区域内にある一又は二以上の不動産について申請する二以上の登記が、いずれも同一の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記であるとき。
九 同一の不動産について申請する二以上の権利に関する登記(前号の登記を除く。)の登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるとき。
十 同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記が、同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権(以下「担保権」と総称する。)に関する登記であって、登記の目的が同一であるとき。
権利に関する登記に関係しそうなものを抜粋すると以上のとおり。
8号は、つぎの条件を満たす場合。
- 同一の登記所の管轄区域内にある一又は二以上の不動産に関する申請であること。
- かつ、いずれも同一の登記名義人の表示変更(又は更正)の登記であること。
9号は、つぎの条件を満たす場合。
- 権利に関する登記申請であること。
- かつ、同一の不動産について申請する二以上の権利に関する登記であること。
- かつ、登記の目的が同一であること。
- かつ、登記原因及びその日付が同一であること。
10号は、つぎの条件を満たす場合。
- 同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権に関する登記であること。
- かつ、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産に関する申請であること。
- かつ、登記の目的が同一であること。
以下検討するのは、共有不動産において、複数の共有者の住所変更(更正)についてである。
8号に該当するかどうかを検討することになるのだろうと思ったが、以下の文献を参照。
【不動産登記実務研究会 (著), 藤谷 定勝 (監修), 小池 信行(監修)『Q&A 権利に関する登記の実務XⅢ』日本加除出版 (2014/11/1)P.41】
(要するに、規則35条8号により、氏名住所の変更更正登記については「登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一」が要件とされていないように読めるが、登記実務上は平成16年の不動産登記法改正前の取扱いが踏襲されており、「登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一」である場合に限り一括申請が認められているとのこと。)
結果として、先例と質疑応答を追いかけることに。
2.複数の共有者の住所変更(更正)について
(1)共有不動産と一括申請について
昭和35年5月18日民甲第1186号回答
【要旨】
(照会)
数人の共有に係る不動産を第三者に移転する場合、または数人の共有者のうちの一人が共有者数人の持分を取得した場合の登記申請も、旧不動産登記法46条の規定により同一申請で登記をすることができるか?(回答)
登記原因が同一である限りOK
(旧)不動産登記法(明治32年法律第24号)
第四十六条
同一ノ登記所ノ管轄内ニ在ル数個ノ不動産ニ関スル登記ヲ申請スル場合ニ於テハ登記原因及ヒ登記ノ目的カ同一ナルトキニ限リ同一ノ申請書ヲ以テ登記ヲ申請スルコトヲ得
旧不動産登記法46条にあっては「登記原因の日付」。
共有不動産にあっては、一括申請の可否を検討するにあたり、登記原因の同一性を緩和(当事者の同一については要求しない)していると言えるのだろうか?
(2)複数の共有者が同じ日に同じ住所に移転
甲不動産の共有者A・Bが、令和5年8月1日に、沼津市若葉町〇番〇号に住所を移転した。
共有者Aの申請 | 共有者Bの申請 | |
権利者 | A | B |
義務者 | - | - |
登記の目的 | 所有権登記名義人住所変更 | 所有権登記名義人住所変更 |
登記の原因 | 住所移転 | 住所移転 |
登記原因日付 | 令和5年8月1日 | 令和5年8月1日 |
不動産 | 甲 | 甲 |
昭和38年9月25日民甲第2654号回答
【要旨】
(照会)
甲・乙が共有する不動産について、「甲については乙の住所」「乙については甲の住所」を表示して登記がされてしまった。
これを更正するにあたり、両名の表示更正登記を1件で申請しても良いか?(回答)
登記原因及び登記原因日付並びに抽象的登記の目的(所有権登記名義人表示更正)が同一であり、一括申請を認めても、その処理には支障がなく、申請人の経済及び事務簡素化の見地からも合理的。
OK!
理由付けがわかりやすく、ぜひ原典を確認いただきたい。
住所の入替えの更正に限るという趣旨のものではなく、変更(ただし登記原因の同一性に注意)においても妥当するものと思われる。
昭和42年7月26日民三第794号通知
【要旨】
4 登記の区分
イ 変更の登記と更正の登記とは別個の区分に属するので、たとえば、住所の移転及び氏名の錯誤による登記名義人の表示変更及び更正の登記を同一の申請書で申請する場合の登録免許税は、不動産1個につき1000円【現行2000円】となる。ただし、住所の錯誤及び住所の移転による登記名義人の表示更正及び変更の登記を同一の申請書で申請する場合の登録免許税は、不動産1個につき500円【現行1000円】として取り扱つてさしつかえない。
ロ 共有持分を数回にわたって取得した者が登記名義人の表示変更の登記を申請する場合及び共有者数人が同一の申請書で登記名義人の表示変更の登記を申請する場合の登録免許税は不動産1個につき500円【現行1000円】で足りる。
【「イ」は本稿には直接関係ないが、重要先例なので参照した。】
ちなみに、変更の場合において「現住所が同じ」である必要はあるか?
(「現住所⇒新住所」の同一を求めるのか、「⇒新住所」の同一で足りるのか?)
規則の書きっぷりをみると、現住所は問題とされていないように思うが・・・。
(質疑応答あり。登記研究575・122)
【参照:登記研究857号77頁『【実務の視点】(104)』P.90~】
(3)複数の共有者の住所を一括申請で「更正」
上記「昭和38年9月25日民甲第2654号回答」のとおり。
(4)単有と共有がミックスする場合
登記研究360号92頁。(単有不動産と共有不動産について、登記名義人であるAが自身のみの表示変更登記を一括申請することの可否。)
登記研究519号178頁。(Aの単有不動産と、A・Bの共有不動産について、登記名義人A・Bが同一住所への表示変更登記を一括申請することの可否。)
結論は原典を参照のこと。
登記原因が云々というよりも、申請情報を考えてみると、非常に登記処理しにくいことが想像できる。
(個人的には、一人の共有者についての申請であっても、円滑処理を阻害するような気が・・・。)
(5)複数回で持分取得をしたケース
登記研究383号94頁。(原因が違うケース)
登記研究193号72頁。(目的が違うケース)
結論は原典を参照のこと。
理解はできるが、分類して記憶できない・・。
3.まとめ
(1)「登記の原因が同一」とは
同一住所への移転した日は全て同じ日とする。
- 「共有者甲・乙が住所Aから住所Bに移転」
- 「共有者甲(住所A)・共有者乙(住所B)が住所Cに移転」
- 「共有者甲・乙(住所A)がそれぞれ住所Bと住所Cに移転」
- 「共有者甲・乙(住所A)が、共有者甲は住所B・住所Cと移転し、共有者乙は住所AからCに移転。」
- 「共有者甲・乙が住所Aで登記されているが錯誤(正しくはB)であるが、現在は住所Bから住所Cに移転」
- 「共有者甲・乙が住所Aで登記されているが、共有者甲については錯誤(正しくはB)がある。ただし両名とも現在は住所Cに移転」
- 「不動産αは甲(住所A)の単独所有。不動産βは甲・乙(住所B)の共有。甲がA⇒B⇒Cと住所移転していた場合に、甲の住所のみについて現在住所Cに一括申請することの可否。」
- 「不動産αは甲(住所A)の単独所有。不動産βは甲・乙(住所B)の共有。甲・乙がA⇒B⇒Cと住所移転していた場合、甲・乙の住所について現在住所Cに一括申請することの可否。」
理論的に考える部分(中間省略の可否)と、登記経済及び事務簡素化の観点から「登記原因の同一性」が若干緩和されている部分が、絶妙に重なり合っている。
(丸暗記してしまったほうがラクなのだろうか)
(2)最後に
迷ったら分けよ!