1.モデルケース
甲土地を単独所有しているAが死亡。
Aの相続人は、配偶者であるBと、子Cの2名。
Aについて遺産分割未了の状態で、Bが死亡した。
(Bの相続人は、子Cの1名だけであった。)
Cが甲土地について、A相続による所有権移転登記をすることができるのか?
(Cにおいて、A相続人としての資格と、A相続人Bの相続人としての資格が併存すると考え、この2つの資格の間において協議する。その結果、A相続において、Cが単独取得したこととなり、AからCに対して相続による所有権移転登記をおこなうことができる。)
2.一人遺産分割は不可!(平成28年3月2日民二第153号回答)
(1)裁判例
東京高裁平成26年9月30日判決・東京地裁平成26年3月13日判決により不可とされている。
これらの高裁判決を踏まえて、掲題の回答がだされたものと思われる。
上記モデルケースにおいては、AとBが死亡して、その相続人がC1名となった状態においては「遺産分割」をする余地はないとされた。
(「既に自己に帰属している遺産を、あらためて自己に帰属させる旨の意思表示を観念する余地はない」という指摘がされている。なるほど。)
結果として、登記申請の場面においては後述(3)のように2段階に分けて申請をすることに。
(2)回答についての解説
しっかりとした解説は、登記研究820号115ページ以下を参照。
要するに、「BC間での遺産分割協議がおこなわれていたか」で場合を分けて考えよということ。
- 分割協議がされていた
- 協議書を作成していた
⇒当該協議書を提出。印鑑提出不可の場合には末尾関連記事を参照。 - 協議書を作成していなかった
⇒「協議証明書」なる文書をC単独で作成する。上記登記研究を参照。
- 協議書を作成していた
- 分割協議がされていなかった
⇒協議不可となるため法定相続に従った登記をする。後記(3)へ
(3)登記申請の仕方
モデルケースにおいては、つぎのように2段階に分けて、登記申請を行う。
- (第1次相続について)亡BおよびCへの所有権移転登記申請。
- (第2次相続について)亡B持分について、Cへの持分全部移転登記申請。
3.その他
(1)登録免許税
第1次相続に関する登記においては、亡Bの持分については、租税特別措置法84条の2の3第1項により登録免許税は免税となる。
租税特別措置法(昭和三十二年法律第二十六号)
(相続に係る所有権の移転登記等の免税)
第八十四条の二の三
個人が相続(相続人に対する遺贈を含む。以下この条において同じ。)により土地の所有権を取得した場合において、当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したときは、平成三十年四月一日から令和七年三月三十一日までの間に当該個人を当該土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない。
2 個人が、所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の施行の日から令和七年三月三十一日までの間に、土地について所有権の保存の登記(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第二条第十号に規定する表題部所有者の相続人が受けるものに限る。)又は相続による所有権の移転の登記を受ける場合において、これらの登記に係る登録免許税法第十条第一項の課税標準たる不動産の価額が百万円以下であるときは、これらの登記については、登録免許税を課さない。
なお、租税特別措置法84条の2の3第2項(課税標準たる不動産の価額が100万円以下の場合には免税)との関係については、後記の関連記事を参照。
(2)雑感
理論的ではあるが、複雑である。
上記参考文献のP.121文末の「なお~」が、趣深い。