不動産登記の一括申請について

2023年9月1日

1.一括申請について考える前に

(1)1つの不動産ごとにわけて申請が大原則(一件一申請主義)

参照条文

不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)

(申請情報の作成及び提供)
第四条 
申請情報は、登記の目的及び登記原因に応じ、一の不動産ごとに作成して提供しなければならない。ただし、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるときその他法務省令で定めるときは、この限りでない。

申請情報は、次の要素ごとに作成されなければいけない。

  • 1つの不動産ごとに
  • 登記の目的ごとに
  • 登記原因ごとに

「不動産」「登記の目的」「登記原因」のうち、1つでも異なれば、申請情報をわけるのが原則である。
この原則を、一件一申請主義という。

(2)一物一権主義との関係?

一物一権主義とは、「物権の客体は、独立の物であることを要し、物の一部又は物の集団は原則として一の物権の客体とすることができない。」という原則。

一物一権主義は、次の2つの命題から成り立っている。

①物権の対象は、1個の物として独立していなければならない(1個の物の一部の上に物権は成立しない。)

②物権の対象は、1個の物として単一のものでなければならない(複数の物の上に1個の物件は成立しない。)

潮見 佳男 (著)『民法(全)』有斐閣 (2017/6/28)P.38

【参照】潮見 佳男 (著)『民法(全)』有斐閣 (2017/6/28)P.38より

物権の対象が明確になっていなければ、取引の安全を害することになるから、一物一権主義が要求される。

さらに、物権の複雑性が増加していく(抵当権のような占有を伴わない物権の誕生。)なかで、物権の状況を外部から正確に認識できるようにする制度が求められるようになる。
その仕組みが「公示制度」であるが、公示方法(編成方法)としては「物的編成主義」が一番合理的であるといえる(確認したいのは、ある物の物権の状況であるから、その物ごとに確認できるようにすべき。)。

参照条文

不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
(・・・)
五 登記記録 表示に関する登記又は権利に関する登記について、一筆の土地又は一個の建物ごとに第十二条の規定により作成される電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)をいう。
(・・・)

そして、1筆の土地又は1個の建物ごとに編成された登記記録について、変動が生じたことを申請するにあたっては、やはり、1筆の土地又は1個の建物ごとに申請するのが原則となるのだろう。

とはいえ、一件一申請主義については、法理論上の要請というよりは「別件の登記申請と一括して申請されると、申請処理が煩雑となったり、過誤が生じやすくなる。」という登記実務上の要請と説明されている。
【参考:鎌田 薫 (編集), 寺田 逸郎 (編集), 村松 秀樹 (編集)『新基本法コンメンタール 不動産登記法〔第2版〕』日本評論社 (2023/4/3)P.71】

(そのため、一括申請の可否について考えるときにも、理論的にというよりは、登記実務上の当否が判断の分かれ目になっているように思う。)

2.一件一申請主義の例外(一括申請)

(1)条文を再度確認

参照条文

不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)

(申請情報の作成及び提供)
第四条 
申請情報は、登記の目的及び登記原因に応じ、一の不動産ごとに作成して提供しなければならない。ただし、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるときその他法務省令で定めるときは、この限りでない。

登記令において一括申請が直接認められているのは、

  • 「同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産」について、
  • 「申請する登記の目的」が同一であり、
  • 「登記原因」と「登記原因日付」も同一

であるケースについて。

その他の類型については、不動産登記規則35条に定めが置かれている。

(2)一括申請を認める根拠

以上のようなケースであれば、2以上の不動産について一括して申請をすることができる。

これを認めるのは、以上のようなケースが、一括申請を認めたとしても「申請処理が煩雑となったり、過誤が生じやすくなる」ことはないと考えられているから。
(さらには、単一の売買契約で多数の不動産の所有権移転したケースにおいては、個々の不動産ごとに分別して申請を行うことは、不必要に申請件数を増加させ、登記の過誤を生じさせやすくなるとも考えられる。)

同じように「煩雑さ」「過誤」を生じさせにくいと考えられるケースが、不動産登記規則35条に列挙されている。

参照条文

不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)

(一の申請情報によって申請することができる場合)
第三十五条 
令第四条ただし書の法務省令で定めるときは、次に掲げるときとする。
(・・・)
八 同一の登記所の管轄区域内にある一又は二以上の不動産について申請する二以上の登記が、いずれも同一の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記であるとき。
九 同一の不動産について申請する二以上の権利に関する登記(前号の登記を除く。)の登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるとき。
十 同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記が、同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権(以下「担保権」と総称する。)に関する登記であって、登記の目的が同一であるとき。

権利に関する登記に関係しそうなものを抜粋すると以上のとおり。

8号は、つぎの条件を満たす場合(なお下記4に留意)

  1. 同一の登記所の管轄区域内にある一又は二以上の不動産に関する申請であること。
  2. かつ、いずれも同一の登記名義人の表示変更(又は更正)の登記であること。

9号は、つぎの条件を満たす場合。

  1. 権利に関する登記申請であること。
  2. かつ、同一の不動産について申請する二以上の権利に関する登記であること。
  3. かつ、登記の目的が同一であること。
  4. かつ、登記原因及びその日付が同一であること。

10号は、つぎの条件を満たす場合。

  1. 同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権に関する登記であること。
  2. かつ、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産に関する申請であること。
  3. かつ、登記の目的が同一であること。

3.登記実務上で認められている一括申請

(1)法令以外で一括申請を認めるケース

以上が法令により一括申請を認められた類型であるが、それ以外にも登記実務上、一括申請が認められているケースがある。

一件一申請主義が「申請処理が煩雑となったり、過誤が生じやすくなる」ことを防止するための原則であるから、そうした懸念が生じないというのならば、法令上の位置づけはともかくとして(?!)、広く一括申請を認めても良いのではないかとも思う。

とはいえ不動産登記令・不動産登記規則に定めが置かれている以上、これに反すれば申請却下!!
先例はともかく、質疑応答の取扱いには、十分に注意しなければならない。

以下では、ほんの一部であるが、先例や質疑応答を参照したい。
(なお質疑応答については、結論は出典元にて確認すること。)

(2)先例

昭和35年5月18日民甲第1186号回答

【要旨】

(照会)
数人の共有に係る不動産を第三者に移転する場合、または数人の共有者のうちの一人が共有者数人の持分を取得した場合の登記申請も、旧不動産登記法46条の規定により同一申請で登記をすることができるか?

(回答)
登記原因が同一である限りOK
【当事者が異なることは当然の前提として】

参照条文

(旧)不動産登記法(明治32年法律第24号)

第四十六条
同一ノ登記所ノ管轄内ニ在ル数個ノ不動産ニ関スル登記ヲ申請スル場合ニ於テハ登記原因及ヒ登記ノ目的カ同一ナルトキニ限リ同一ノ申請書ヲ以テ登記ヲ申請スルコトヲ得

共有不動産の場合には、1つの不動産に関する登記申請ではあるが、当事者が異なる(登記原因が異なる?)ので問題となる。

先例は、上記のとおり、一括申請を認めている。

ただし、第三者の権利に関する登記がなされている持分の移転については、別個の申請によるべきとされる(参照:昭和37年1月23日民甲第112号通達)。
一括申請により、第三者の権利に関する登記の効力が及ぶ範囲が不明確になることを防止するためである。

(3)質疑応答(登記研究)

ことの発端である。

質疑応答ではないが、「登記研究564号67頁『【登記簿】 抵当権と根抵当権の抹消の一括申請』」。

なお、こちらも参照。
【小池 信行 (監修), 藤谷 定勝 (監修), 不動産登記実務研究会 (著)『Q&A 権利に関する登記の実務 II 第1編 総論(下)』日本加除出版 (2007/3/1)P.53以下】

4.登記名義人表示変更更正について

(1)かなり自由?

不動産登記規則35条を見ると、登記名義人表示変更更正登記については、同一の登記名義人に関するものである限り、非常に広く認められているように読める。

参照条文

不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)

(一の申請情報によって申請することができる場合)
第三十五条 
令第四条ただし書の法務省令で定めるときは、次に掲げるときとする。
(・・・)
八 同一の登記所の管轄区域内にある一又は二以上の不動産について申請する二以上の登記が、いずれも同一の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記であるとき。
(・・・)

上記8号を分解すると、つぎのとおり。

  1. 同一の登記所の管轄区域内にある一又は二以上の不動産に関する申請であること。
  2. かつ、いずれも同一の登記名義人の表示変更(又は更正)の登記であること。

なんだって一括申請できるのではないかと錯覚させる。

(2)「登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一」が要件

ところが、下記の文献には要旨次のような記述が。

「規則35条8号により、氏名住所の変更更正登記については「登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一」が要件とされていないように読めるが、登記実務上は平成16年の不動産登記法改正前の取扱いが踏襲されており、「登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一」である場合に限り一括申請が認められている。」

【参考文献】不動産登記実務研究会 (著), 藤谷 定勝 (監修), 小池 信行(監修)『Q&A 権利に関する登記の実務XⅢ』日本加除出版 (2014/11/1)P.41

一括申請については、理論的に考えるよりも、一括申請を認めることで「申請処理が煩雑となったり、過誤が生じやすくなる」事態を招来しないことが重要。
そうしてみると、なんとなく納得がいくような行かないような。

どうして、こうした規定ぶりになったのだろうか?

5.最後に

迷ったら分けよ。

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