商業登記における取締役等選任の真実性の担保

2017年9月3日

商業登記における取締役等選任の真実性の担保

1.昭和39年商業登記規則

代表者選定にかかる取締役会議事録や代表取締役の就任承諾書について、真実性を担保する措置は取られていなかった。

→その後、第三者が取締役会議事録を偽造し、虚偽の代表取締役就任登記を行うことで会社を乗っ取る事件が多発。

2.昭和42年商業登記規則改正

代表取締役選定にかかる取締役会議事録に押印された印鑑について市町発行の印鑑証明書を添付すること。

→その後、他人の氏名を勝手に利用(特に有名人)して代表取締役の登記をする事件(会社に箔をつけるため?)や、虚無人を取締役として選任して会社設立登記をする事件(取締役の員数を満たすため?)が発覚。

3.昭和47年商業登記規則改正

会社代表機関という会社の登記における最重要事項について、虚無人の登記がなされることを防止するため、次のとおり改正。

  1. 株式会社の代表取締役の就任承諾書について、市町発行の印鑑証明書を添付すること。
  2. 有限会社の取締役の就任承諾書について、市町発行の印鑑証明書を添付すること。

「株式会社」と「有限会社」との比較で考えると理解しやすい。

4.平成27年商業登記規則改正(本人確認証明書の添付)

会社代表機関以外の取締役等についても、虚無人の登記がなされ悪用され得るとの指摘に対応(会社の違法行為に対して取締役等の責任追及を容易にできるようにする趣旨も?)。

取締役等が新たに就任するにあたっては、就任承諾書と本人確認証明書をもって当該取締役等の実在性を確認することに。

会社代表機関から更に範囲を広げて真実性向上に向けた措置をとることとなったが、一方で、会社への過度の負担とならないよう、つぎのような対応がとられた。

(1)再任の時には不要

再任取締役については、就任時に一度実在性が確認されているのだから、再度確認する必要はないとして添付不要(なお当該規定に新規就任時期に関する制限はない。)。

(2)別規程に基づいて印鑑証明書が添付されていれば不要

当該取締役について、代表取締役選定にかかる議事録等に押印した印鑑の証明として市町発行の印鑑証明書が添付されている場合には添付不要。 

5.本人確認証明書

条文を抜粋すると、本人確認証明書とは「取締役等が就任を承諾したことを証する書面に記載した氏名及び住所と同一の氏名及び住所が記載されている市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書(当該取締役等が原本と相違がない旨を記載した謄本を含む。)」とされている。

住民票の写し、戸籍の附票が代表例であるが、市町発行の印鑑証明書もこの要件を満たす。

また運転免許証についてもオモテウラ両面をコピーして当該取締役等が原本証明をすることで本人確認証明書となる。

なお、運転免許証等の身分証明書類については原本を提出して、商業登記規則49条2項により原本還付することも可能。
また、上記カッコ書きのとおりであるため住民票の写しのコピーをとって、そこに取締役等が原本証明をして本人確認証明書とすることも可能。

参照条文

商業登記規則(昭和三十九年三月十一日法務省令第二十三号)

第四十九条  
登記の申請人は、申請書に添付した書類の還付を請求することができる。
2  (・・・)
4  代理人によって第一項の請求をするには、申請書にその権限を証する書面を添付しなければならない。
5  (・・・)

参考文献:「平成27年改正商業登記規則等に基づく商業・法人登記事務の取扱いについて」佐藤真紀子(登記情報642・24頁~)

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