解散した法人の担保権抹消(令和5年4月1日施行)【その1】

2022年9月24日

1.解散した法人の担保権抹消(改正不登法70条の2)について

(1)改正の趣旨【いわゆる休眠登記の抹消手続きを簡略化!】

不動産の公示機能を高めるといった目的から、形骸化したまま残存する登記(いわゆる休眠登記)の抹消手続きを簡略化するための法改正。

休眠登記の抹消手続きを簡略化する改正としては、つぎのような改正が実施。

  • 買戻し特約に関する登記の抹消手続きの簡易化
  • 存続期間の定めが登記されている権利に関する登記の抹消手続きの簡易化
  • 解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続きの簡易化

この記事では、3点目の「解散した法人の担保権に関する登記の抹消手続きの簡易化」について、条文上で確認できる事項をチェックしていく。

なお上記改正に関して、令和5年3月28日民二第538号通達(以下「538号通達」という。)が発出されている。

(2)不動産登記法における規定

参照条文

不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)

(解散した法人の担保権に関する登記の抹消)
第七十条の二 
登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき法人が解散し、前条第二項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しないためその法人と共同して先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請することができない場合において、被担保債権の弁済期から三十年を経過し、かつ、その法人の解散の日から三十年を経過したときは、第六十条の規定にかかわらず、単独で当該登記の抹消を申請することができる。

(3)要件の確認

  1. 共同して登記(先取特権、質権又は抵当権に関するもの)の抹消の申請をすべき法人が解散
  2. 70条2項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しない
  3. 被担保債権の弁済期から三十年を経過
  4. 法人の解散の日から三十年を経過

上記1・2のために共同申請ができず、対象登記について上記3・4の条件を満たす場合に、単独申請が可能となる。

なお「共同して登記の抹消の申請をすべき法人」については、以下の記事を参照。
【参照記事:「共同して登記の抹消の申請をすべき者」とは?】

また「共同して登記の抹消の申請をすべき法人の清算人が死亡」していたことが判明した場合についても「清算人の所在が判明しない」場合に含まれる。

「根抵当権・根質権」については、以下の記事を参照。
【参照記事:民法と不動産登記法における「物権」の種類と根抵当権の位置づけ】

2.要件を掘り下げて確認

(1)みなし解散の場合には?

「解散」については、みなし解散等も含まれる。

【参考:村松 秀樹 (著, 編集), 大谷 太 (著, 編集)『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』きんざい (2022/2/26)P.313(注1)】

本規定は「法人としての実質を喪失し、登記手続きへの協力を得ることが困難となっている場面」を想定しているから。

(2)添付すべき書類は不動産登記令に規定

参照条文

不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)

別表(第三条、第七条関係)

登記申請情報添付情報
二十六権利に関する登記の抹消(三十七の項及び七十の項の登記を除く。)(・・・)
ホ 法第七十条の二の規定により登記権利者が単独で先取特権、質権又は抵当権に関する登記の抹消を申請するときは、次に掲げる情報
(1) 被担保債権の弁済期を証する情報
(2) 共同して登記の抹消の申請をすべき法人の解散の日を証する情報
(3) 法第七十条第二項に規定する方法により調査を行ってもなお(2)の法人の清算人の所在が判明しないことを証する情報
(・・・)

あらためて整理すると、つぎの情報を提供する必要があるということに。

  1. 被担保債権の弁済期を証する情報
  2. 共同して登記の抹消の申請をすべき法人の解散の日を証する情報
  3. 法第七十条第二項に規定する方法により調査を行ってもなお上記2の法人の清算人の所在が判明しないことを証する情報

上記1については、次号で確認する。

上記2については、当該法人の登記事項証明書などを添付することになる。

上記3については、別記事にて確認する。

(3)被担保債権の弁済期を証する情報

538号通達においては、具体的に次のようなものが該当すると列挙されている。

  • 金銭消費貸借契約証書
  • 弁済猶予証書
  • 債権の弁済期の記載がある不動産の閉鎖登記簿謄本等

さらに登記研究908号21頁(注5)において昭和63年7月1日民三第3499号依命通知が参照可能とされている。

当該通達の要旨は次のとおり。

【要旨】

(1)閉鎖登記簿を確認することで弁済期が確認できる場合
当該閉鎖登記簿が債権の弁済期を証する書面となる。
(なお、割賦弁済の定めがあるときには、最終の割賦金の支払時期が弁済期となる。)

(2)最初から「債権の弁済期」の記載がない登記の場合【注意!】
債権の成立の日を債権の弁済期とする。
なお、債権の成立の日が記載されていない場合には、担保権の設定の日を債権の弁済期とする。

(3)根抵当権又は根質権の登記の場合
元本確定の日を、被担保債権の弁済期とする。

  • 「元本の確定の登記があるとき」又は「登記記録上、元本確定が明らかであるとき。」
    記録上で確認できる元本確定の日
  • それ以外の場合
    根抵当権等の設定の日から3年を経過した日(民法398条の19第1項)
昭和63年7月1日民三第3499号依命通知

昭和39年の不動産登記法改正により「弁済期」に関する記載はなくなっているので、まずは日付で分別ができる。

注意が必要なのが上記【要旨】(2)について。
改正不登法70条の2について解説している登記研究908号の記事では消極であるように読める。(同号21頁(注5)(2)②を参照)
同様の記述が、法制審議会民法・不動産登記法部会第7回会議(令和元年9月24日開催)の部会資料12「不動産登記制度の見直し(3)」P.6(注1)に記載されている。

一方で、根抵当権の場合には「3年を経過した日」(民法398条の19第1項)でOKとするのか?

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(根抵当権の元本の確定請求)
第三百九十八条の十九 
根抵当権設定者は、根抵当権の設定の時から三年を経過したときは、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時から二週間を経過することによって確定する。
2 根抵当権者は、いつでも、担保すべき元本の確定を請求することができる。この場合において、担保すべき元本は、その請求の時に確定する。
3 前二項の規定は、担保すべき元本の確定すべき期日の定めがあるときは、適用しない。

(4)法人の閉鎖登記簿が廃棄されているケースでは?

上記(3)の部会資料12「不動産登記制度の見直し(3)」を読んでいたら、次のような記述を見つけた。

なお,商業・法人登記簿に当該法人について記録がなく,かつ,閉鎖登記簿が廃棄されているため,その存在を確認することができないようなケースが実際にはあり得るが,閉鎖登記簿が存在しない理由としては,保存期間が経過して閉鎖登記簿が廃棄されたケースが想定されるところ,解散の登記をした後10年を経過したときは登記記録を閉鎖することができ(商業登記規則第81条第1項第1号,一般社団法人等登記規則第3条),閉鎖登記簿の保存期間は閉鎖した日から20年間(商業登記規則第34条第4項第2号,一般社団法人等登記規則第3条)とされている。このことからすれば,閉鎖登記簿が存在しないということは解散した日から30年を経過している蓋然性は極めて高いということができるから,閉鎖登記簿が存在しないケースについても,解散した日自体を確認することはできないものの,解散した日から30年を経過しているケースと同様に取り扱うことになるものと考えられる

後続の議論をすべて確認しているわけではないので、後続の議論において打ち消された記述なのかもしれないが、一応ご紹介する。
(前述の登記研究908号の記事では言及されていない!)
「民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)等の改正に関する中間試案の補足説明」では言及がなされている。p.209(注2))

なお、不動産登記法70条4項後段「供託による抹消」と不動産登記法70条の2による抹消は、それぞれ別個の規定であるから、申請者によっていずれを選択してもOKとされている。

参照条文

不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)

(除権決定による登記の抹消等)
第七十条 
登記権利者は、共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が知れないためその者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第九十九条に規定する公示催告の申立てをすることができる。
(・・・)
4 第一項に規定する場合において、登記権利者が先取特権、質権又は抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるものを提供したときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる。同項に規定する場合において、被担保債権の弁済期から二十年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときも、同様とする。

不動産登記法70条4項後段では、つぎの要件が必要

  1. 共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が知れないためその者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができない
  2. 被担保債権の弁済期から二十年を経過
  3. 二十年を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭を供託

(5)登記原因や前提登記の要否

登記原因は「不動産登記法第70条の2の規定による抹消」となり、登記原因日付は不要となる。

登記義務者の名称及び住所に変更があった場合や一般承継があった場合については、登記研究908号23頁を参照のこと。

3.「前条第二項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しない」とは

不動産登記法72条の2のおいては「前条第二項に規定する方法により調査を行ってもなおその法人の清算人の所在が判明しない」が要求されている。

「前条第二項」というのは、つぎの規定をいう。

参照条文

(除権決定による登記の抹消等)
第七十条 
(・・・)
2 前項の登記が地上権、永小作権、質権、賃借権若しくは採石権に関する登記又は買戻しの特約に関する登記であり、かつ、登記された存続期間又は買戻しの期間が満了している場合において、相当の調査が行われたと認められるものとして法務省令で定める方法により調査を行ってもなお共同して登記の抹消の申請をすべき者の所在が判明しないときは、その者の所在が知れないものとみなして、同項の規定を適用する。
(・・・)

というわけで不動産登記規則を確認することになるのだが、非常に長く読みにくい条文であるため、記事をわけることとした。

詳細は、別記事「解散した法人の担保権抹消(令和5年4月1日施行)【その2】」を参照のこと。

関連記事
解散した法人の担保権抹消(令和5年4月1日施行)【その2】
1.解散した法人の担保権抹消(改正不登法70条の2)について (1)改正概要を確認する 前記事(解散した法人の担保権抹消(令和5年4月1日施行)【その1】)にお…
「共同して登記の抹消の申請をすべき者」とは?
1.不動産登記法の改正 (1)改正前70条 参照条文 (登記義務者の所在が知れない場合の登記の抹消)第七十条  登記権利者は、登記義務者の所在が知れないため登記…