財産分与による不動産登記

1.財産分与とは

(1)条文

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(財産分与)
第七百六十八条 
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

(2)整理

夫婦間の実質的な共有財産を、離婚に際して清算する。
(清算的な要素のみならず、扶養・慰謝料的な性格が含まれるケースもある。)

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(夫婦間における財産の帰属)
第七百六十二条 
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

除斥期間が設けられていることに留意(768条2項但書)。

2.財産分与の合意・調停・審判

(1)家事事件手続法の定め

参照条文

家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)

(審判事項)
第三十九条
家庭裁判所は、この編に定めるところにより、別表第一及び別表第二に掲げる事項並びに同編に定める事項について、審判をする。

別表第二

事項根拠となる法律の規定
婚姻等
財産の分与に関する処分民法第七百六十八条第二項(同法第七百四十九条及び第七百七十一条において準用する場合を含む。)
参照条文

家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)

(調停事項等)
第二百四十四条
家庭裁判所は、人事に関する訴訟事件その他家庭に関する事件(別表第一に掲げる事項についての事件を除く。)について調停を行うほか、この編の定めるところにより審判をする。

(2)登記する際の登記原因証明情報

いろいろなパターンが考えられる。
(合意書、公正証書、調停調書、審判書など。)

また、執行文の付与が必要なケースも(調停や審判において前提条件が付されているケース。)。

(3)登記原因日付

財産分与の成立は、離婚成立を前提としている。
そのため、離婚成立前(例:協議離婚届けの届け出前)に財産分与の合意が整ったとしても、財産分与の成立は離婚成立時となる。

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(婚姻の規定の準用)
第七百六十四条 
第七百三十八条、第七百三十九条及び第七百四十七条の規定は、協議上の離婚について準用する。

(婚姻の届出)
第七百三十九条 
婚姻は、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
2 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

これに関連して、財産分与の「予約」を原因とする仮登記(所有権移転請求権仮登記)は不可とされている(昭和57年1月16日民三第251号回答)。

3.調停調書による単独申請での登記

(1)単独申請

なお、裁判手続きを利用しない私人間での合意に基づき登記する場合には、原則通り共同申請となる。

参照条文

家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)

(審判の執行力)
第七十五条
金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずる審判は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。

(調停の成立及び効力)
第二百六十八条
調停において当事者間に合意が成立し、これを調書に記載したときは、調停が成立したものとし、その記載は、確定判決(別表第二に掲げる事項にあっては、確定した第三十九条の規定による審判)と同一の効力を有する。

というわけで、調停が成立あるいは審判が確定すると、その調停・審判は執行力のある債務名義と同一の効力をもつことに。

参照条文

民事執行法(昭和五十四年法律第四号)

(意思表示の擬制)
第百七十七条
意思表示をすべきことを債務者に命ずる判決その他の裁判が確定し、又は和解、認諾、調停若しくは労働審判に係る債務名義が成立したときは、債務者は、その確定又は成立の時に意思表示をしたものとみなす。ただし、債務者の意思表示が、債権者の証明すべき事実の到来に係るときは第二十七条第一項の規定により執行文が付与された時に、反対給付との引換え又は債務の履行その他の債務者の証明すべき事実のないことに係るときは次項又は第三項の規定により執行文が付与された時に意思表示をしたものとみなす。
2 債務者の意思表示が反対給付との引換えに係る場合においては、執行文は、債権者が反対給付又はその提供のあつたことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
3 債務者の意思表示が債務者の証明すべき事実のないことに係る場合において、執行文の付与の申立てがあつたときは、裁判所書記官は、債務者に対し一定の期間を定めてその事実を証明する文書を提出すべき旨を催告し、債務者がその期間内にその文書を提出しないときに限り、執行文を付与することができる。

そのため、単独での申請が可能となる。

参照条文

不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)

(判決による登記等)
第六十三条
第六十条、第六十五条又は第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
(・・・)

ただし、それらの調停調書・審判書においては「一定の登記手続きをする旨の意思表示が表示されていること」または「当事者の一方に一定の登記手続きをすべきことを命じた内容となっていること」が必要である。

また執行文については、つぎも参照。
登記研究526号192頁、登記研究764号99頁以下「【実務の視点】(34)」

(2)前提として必要となる登記

「判決による登記あるある」であるが、登記義務者の名変は省略できない。

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