相続放棄と管理義務(民法940条)

1.相続の放棄と相続財産の管理義務

(1)条文の確認

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条 
相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
2 第六百四十五条【受任者による報告】、第六百四十六条【受任者による受取物の引渡し等】並びに第六百五十条【受任者による費用等の償還請求等】第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

参照条文

令和3年の改正前民法(明治二十九年法律第八十九号)

(相続の放棄をした者による管理)
第九百四十条
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
2  第六百四十五条、第六百四十六条、第六百五十条第一項及び第二項並びに第九百十八条第二項及び第三項の規定は、前項の場合について準用する。

(2)整理

令和3年民法改正による変更がある。

改正前民法においては、相続放棄した者の管理継続義務の有無。
管理継続義務があるとして、その内容等が不明確であった。
(とりわけ不動産が相続財産であるケースでは、相続放棄後も管理責任を負うということになると、相続放棄をした者にとって過度な負担に。)

そのため、改正後940条のとおり、負担を負う者の範囲等を明確にした。

2.相続財産の管理義務の限定

(1)管理義務を負う者と義務の内容

ポイントは次の通り。

  • 相続放棄をした者が管理義務を負うのは「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有している場合」に限定。
  • 管理義務の対象となるのは「放棄の時に現に占有している相続財産」に限定。
  • 管理義務を負うのは、「相続人(相続放棄の結果として新たに相続人となった次順位相続人を含む)」又は「第九百五十二条【相続財産清算人】第一項の相続財産の清算人」に対して当該財産を引き渡すまでの間。
  • 管理義務の程度は「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって「保存」するというもの。

(2)相続財産に属する財産を現に占有

相続財産の管理に、これまで一切関与してこなかった者に対しても、管理責任を負わせるのは不適当であるから。

(3)管理義務の終期

管理義務は、つぎの行為によって終了する。

  • 相続人への引渡し
  • 相続財産清算人への引渡し

相続財産「管理人」への引渡しについては?
【参考:村松 秀樹 (著, 編集), 大谷 太 (著, 編集)『Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法』きんざい (2022/2/26)P.235(注)】

参照条文

(相続財産の保存)
第八百九十七条の二 
家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。
2 第二十七条【不在者財産管理人の職務】から第二十九条【不在者財産管理人の担保提供及び報酬】までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

(4)「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって「保存」

「自己の財産におけるのと同一の注意」というのは、善管注意義務よりも一段低い注意義務とされている。

そして「保存」であるから、財産の滅失・損壊を防ぎ、現状を維持することが求められているに過ぎない。

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