遺言執行者に関する改正と特定財産承継遺言について

2020年5月5日

1.遺言執行者の権限

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)
第千十四条(特定財産に関する遺言の執行)
前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第千十一条(相続財産の目録の作成)
遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

第千十二条(遺言執行者の権利義務)
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

第千十三条(遺言の執行の妨害行為の禁止)
遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

2.相続による権利承継も対抗関係に

参照条文

第八百九十九条の二(共同相続における権利の承継の対抗要件)
相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

3.特定財産承継遺言のケースでも遺言執行者から相続登記申請が可能に

(1)遺言執行者からの「相続登記」

遺言執行者も、1014条2項から、対抗要件を備えるために必要な行為をすることが可能に。
特定財産が不動産であれば、相続人に代わって相続登記申請を行うこともできる。

参考記事(外部リンク)

従来、判例は原則的に否定。最判平成11年12月16日


ただし、1014条4項による「遺言で別段の意思を示したとき」に該当するケースと、後述の附則に留意。

(2)登記名義人の意思確認(?)

登記実務上悩ましいと(個人的に)思うのは、登記名義人の意思確認の要否について。
特定財産承継遺言により遺言執行者が登記申請するケースでは、登記名義人が関与しないので、その者が、万が一、登記名義人となることを良しとしない場合に、どうか。
(共同相続登記を相続人の1名のみの委任で申請するケースまではいかないが、類似のプレッシャーを感じる。識別情報は全て、遺言執行者に渡す。。)

一方で、対抗関係になっていることを考えると、ちまちま本人の意思確認をしている時間的余裕もないともいえるし。。確認したところで、登記申請はしてくれるななんて言われても、拒否の理由によっては、遺言執行者の依頼を断れないだろうし。。。

(3)相続人からの登記申請も可

なお、特定財産承継遺言により遺産を承継する相続人が、自ら登記申請を行うことは可能とされる(遺言執行の妨害にはあたらないから。)。

4.復任権について

参照条文

第千十六条(遺言執行者の復任権)
遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。

法定代理人同様の要件で、復代理が認められる。
この点については、公正証書遺言であれば、復任権が与えられているのが通例だろうから、あまり関係ないか。

5.経過措置について

参照条文

附則(平成三〇年七月一三日法律第七二号)
第八条
新民法第千七条第二項及び第千十二条の規定は、施行日前に開始した相続に関し、施行日以後に遺言執行者となる者にも、適用する。
2 新民法第千十四条第二項から第四項までの規定は、施行日前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については、適用しない。
3 施行日前にされた遺言に係る遺言執行者の復任権については、新民法第千十六条の規定にかかわらず、なお従前の例による。

(1)2項について

施行日前(令和1年7月1日)にされた遺言については、旧法の規定が適用される。遺言者としては、遺言作成時の法規を前提に、遺言を作成するであろうとの理由。
従い、相続開始日基準ではないので、非常に非常に注意が必要!!(補正ではなくて取下げ?!)
対抗要件の規定(899条の2第1項)については、原則的な「相続開始日」基準であるので、なお注意(まごついている暇はない!)。ちなみに、本稿とは関係ないが、899条の2第2項は「通知した日」基準。

(2)3項について

こちらも「遺言作成時」基準。