株式会社における株券不発行・発行について

1.株券発行に関する会社法の規定

(1)旧商法時代

参照条文

旧商法(明治32年3月9日法律第48号)

第二百二十七条 
会社ハ定款ヲ以テ株券ヲ発行セザル旨ヲ定ムルコトヲ得
2 (・・・)

原則として、株式会社は、株券を発行する会社であった。

定款で定めを置くことで「株券を発行しない会社」となることができた。

(2)会社法

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(株券を発行する旨の定款の定め)
第二百十四条 
株式会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨を定款で定めることができる。

会社法は、旧商法と異なり、原則として「株券を発行しない会社」となる。

定款で定めを置くことで「株券を発行する会社」となる。

2.株券発行会社だけど株券を発行しないこと

(1)旧商法

参照条文

旧商法(明治32年3月9日法律第48号)

第二百二十六条 
会社ハ成立後又ハ新株ノ払込期日以後遅滞ナク株券ヲ発行スルコトヲ要ス但シ株式ノ譲渡ニ付取締役会ノ承認ヲ要スル旨ノ定款ノ定アル場合ニ於テ株主ヨリ株券発行ノ請求ナキトキハ此ノ限ニ在ラズ
2 (・・・)

第二百二十六条ノ二 
株主ハ定款ニ別段ノ定アル場合ヲ除クノ外株券ノ所持ヲ欲セザル旨ヲ会社ニ申出ヅルコトヲ得此ノ場合ニ於テ既ニ発行セラレタル株券アルトキハ之ヲ会社ニ提出スルコトヲ要ス
2 前項ノ申出アリタルトキハ会社ハ遅滞ナク株券ヲ発行セザル旨ヲ株主名簿ニ記載又ハ記録スルコトヲ要ス
3 会社ガ前項ノ規定ニ依ル記載又ハ記録ヲ為シタルトキハ株券ノ発行ハ之ヲ為スコトヲ得ズ且第一項後段ノ規定ニ依リ会社ニ提出セラレタル株券ハ之ヲ無効トス
4 第一項ノ申出ヲ為シタル株主ハ何時ニテモ株券ノ発行ヲ請求スルコトヲ得此ノ場合ニ於テ同項後段ノ規定ニ依リ会社ニ提出セラレタル株券アルトキハ其ノ株券ニ係ル株券発行ニ要スル費用ハ株主ノ負担トス

旧商法226条は、株式の譲渡に制限のあった会社では、株主からの請求がない限り、株券を発行する必要はない旨を定める。

旧商法226条の2は、株主が株券の不所持の申し出をすることができる旨を定める。

(2)会社法

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(株券の発行)
第二百十五条 
株券発行会社は、株式を発行した日以後遅滞なく、当該株式に係る株券を発行しなければならない。
2 (・・・)
3 (・・・)
4 前三項の規定にかかわらず、公開会社でない株券発行会社は、株主から請求がある時までは、これらの規定の株券を発行しないことができる。

(株券不所持の申出)
第二百十七条 
株券発行会社の株主は、当該株券発行会社に対し、当該株主の有する株式に係る株券の所持を希望しない旨を申し出ることができる。
2 (・・・)
3 第一項の規定による申出を受けた株券発行会社は、遅滞なく、前項前段の株式に係る株券を発行しない旨を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。
4 (・・・)
5 (・・・)
6 第一項の規定による申出をした株主は、いつでも、株券発行会社に対し、第二項前段の株式に係る株券を発行することを請求することができる。この場合において、第二項後段の規定により提出された株券があるときは、株券の発行に要する費用は、当該株主の負担とする。

規定ぶりは、旧商法と同様。

非公開会社では、株主の請求があるまでは、株券発行会社においても株券を発行しなくても良い。

また、株主は、会社に対して株券不所持の申し出をすることができる。

3.株券発行と登記

(1)会社法における「株券発行と登記」

参照条文

(株式会社の設立の登記)
第九百十一条 
株式会社の設立の登記は、その本店の所在地において、次に掲げる日のいずれか遅い日から二週間以内にしなければならない。
(・・・)
2 (・・・)
3 第一項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店及び支店の所在場所
四 株式会社の存続期間又は解散の事由についての定款の定めがあるときは、その定め
五 資本金の額
六 発行可能株式総数
七 発行する株式の内容(種類株式発行会社にあっては、発行可能種類株式総数及び発行する各種類の株式の内容)
八 単元株式数についての定款の定めがあるときは、その単元株式数
九 発行済株式の総数並びにその種類及び種類ごとの数
十 株券発行会社であるときは、その旨
(・・・)

株券発行会社である場合には、その旨を登記する必要がある。

(2)会社法制定時の取扱い

参照条文

会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成十七年七月二十六日法律第八十七号)

(株式会社の定款の記載等に関する経過措置)
第七十六条  
(・・・)
4  旧株式会社又は第六十六条第一項後段に規定する株式会社の定款に株券を発行しない旨の定めがない場合における新株式会社の定款には、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定めがあるものとみなす。

(商業登記法の一部改正に伴う経過措置)
第百三十六条
(・・・)
12  登記官は、第六十六条第一項前段の規定により存続する株式会社について、職権で、その本店の所在地において、次に掲げる登記をしなければならない。
一  (・・・)
二  (・・・)
三  株券発行会社である旨の登記(当該株式会社について株券を発行しない旨の登記がある場合を除く。)

「定款に株券を発行しない旨の定めがない」のであれば、株券発行会社とみなされてしまう。

そして、株券発行会社である旨が、職権によって登記された。

(3)「株券を発行する旨の定款の定め」の設定の登記の手続き

「定款の定め」であるため、原始定款にその旨記載するか、事後に、定款変更の手続きを経て定款にその旨を定めることとなる。

よって登記申請における添付書類は次のとおりとなる。

  • 株主総会議事録
  • 株主リスト

登録免許税は3万円(24号(1)ツ)。

4.「株券を発行する旨の定款の定め」の廃止の登記

(1)原則的な手続き

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(株券を発行する旨の定款の定めの廃止)
第二百十八条 
株券発行会社は、その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとするときは、当該定款の変更の効力が生ずる日の二週間前までに、次に掲げる事項を公告し、かつ、株主及び登録株式質権者には、各別にこれを通知しなければならない。
一 その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する旨
二 定款の変更がその効力を生ずる日
三 前号の日において当該株式会社の株券は無効となる旨
2 株券発行会社の株式に係る株券は、前項第二号の日に無効となる。
3 第一項の規定にかかわらず、株式の全部について株券を発行していない株券発行会社がその株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとする場合には、同項第二号の日の二週間前までに、株主及び登録株式質権者に対し、同項第一号及び第二号に掲げる事項を通知すれば足りる
4 前項の規定による通知は、公告をもってこれに代えることができる。
5 第一項に規定する場合には、株式の質権者(登録株式質権者を除く。)は、同項第二号の日の前日までに、株券発行会社に対し、第百四十八条各号に掲げる事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。

株券を発行する旨の定款の定めの廃止する場合には、つぎの手続きをとるのが原則となる。

  • 定款の定めの廃止について、株主総会の特別決議。
  • 効力発生日の2週間前までに公告。
  • 効力発生日の2週間前までに、株主及び登録株式質権者に対して、各別に通知。

順序については「効力発生日までに全てが終わっていればOK」という会社法の原則通り。

公告及び通知すべき事項はつぎのとおり。

  1. その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類の株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する旨
  2. 定款の変更がその効力を生ずる日
  3. 前号の日において当該株式会社の株券は無効となる旨

廃止の登記における必要書類はつぎのとおり。

  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 公告をしたことを証する書面

登録免許税は3万円(24号(1)ツ)。

参照条文

商業登記法(昭和三十八年法律第百二十五号)

(株券を発行する旨の定款の定めの廃止による変更の登記)
第六十三条 
株券を発行する旨の定款の定めの廃止による変更の登記の申請書には、会社法第二百十八条第一項の規定による公告をしたことを証する書面又は株式の全部について株券を発行していないことを証する書面を添付しなければならない。

(2)株券が発行されていない会社の場合

上記会社法218条3項に関する処理。

株式の全部について株券を発行していない株券発行会社がその株式に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する定款の変更をしようとする場合には、同項第二号の日の二週間前までに、株主及び登録株式質権者に対し、同項第一号及び第二号に掲げる事項を通知すれば足りる。
すなわち公告不要。

この場合、上記商業登記法63条により、廃止の登記における必要書類はつぎのとおりとなる。

  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 株式の全部について株券を発行していないことを証する書面

「株式の全部について株券を発行していないことを証する書面」としては、株主名簿が該当する。

(3)「不所持の申し出」を利用する場合

実際に株券を発行している会社においても、不所持申し出を行ってもらい、現に株券を発行していない会社となることで、上記(2)の手続きをとることができる。