相続土地国庫帰属制度(その1)

2023年2月22日

1.法務省サイトにおける情報

(1)関係法令

(2)制度概要

参考記事(外部リンク)

2.相続土地国庫帰属制度の概要を整理する

(1)目的

参照条文

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和三年法律第二十五号)

(目的)
第一条 
この法律は、社会経済情勢の変化に伴い所有者不明土地(相当な努力を払ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない土地をいう。)が増加していることに鑑み、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)(以下「相続等」という。)により土地の所有権又は共有持分を取得した者等がその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度を創設し、もって所有者不明土地の発生の抑制を図ることを目的とする。

(2)大まかな流れ

  1. 法務局に申請
    静岡県の場合には静岡地方法務局本局が、事前相談や申請先(郵送申請可)となる。
    支局・出張所では、承認申請の受付はされないので注意!(沼津からは遠い!!)
  2. 受付と関係省庁等への情報提供
  3. 書面調査(ここで却下となるものも)
  4. 実地調査
  5. 承認(ここで不承認となるものも)
  6. 負担金の納付
  7. 国庫に帰属

(3)考えるべきポイント

  • 相続等によって、土地の所有権又は共有持分を取得した者等
  • 施行前に相続した土地も対象
  • 「引き取ることができない土地」の要件が厳しい?

3.「引き取ることができない土地」

(1)却下事由

参照条文

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和三年法律第二十五号)

(承認申請の却下)
第四条 
法務大臣は、次に掲げる場合には、承認申請を却下しなければならない。
一 承認申請が申請の権限を有しない者の申請によるとき。
二 承認申請が第二条第三項又は前条【承認申請書等】の規定に違反するとき。
三 承認申請者が、正当な理由がないのに、第六条の規定による調査【実地調査】に応じないとき。
2 法務大臣は、前項の規定により承認申請を却下したときは、遅滞なく、法務省令で定めるところにより、その旨を承認申請者に通知しなければならない。

(承認申請)
第二条 
(・・・)
3 承認申請は、その土地が次の各号のいずれかに該当するものであるときは、することができない。
一 建物の存する土地
二 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
三 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
四 土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
五 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令(令和四年政令第三百十六号)

(承認申請をすることができない他人による使用が予定される土地)
第二条 
法第二条第三項第三号の政令で定める土地は、次に掲げる土地とする。
一 現に通路の用に供されている土地
二 墓地(墓地、埋葬等に関する法律(昭和二十三年法律第四十八号)第二条第五項に規定する墓地をいう。)内の土地
三 境内地(宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)第三条に規定する境内地をいう。)
四 現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地

墓地、埋葬等に関する法律(昭和二十三年法律第四十八号)
第二条 
(・・・)
5 この法律で「墓地」とは、墳墓を設けるために、墓地として都道府県知事(市又は特別区にあつては、市長又は区長。以下同じ。)の許可を受けた区域をいう。
(・・・)

宗教法人法(昭和二十六年法律第百二十六号)

(境内建物及び境内地の定義)
第三条 
この法律において「境内建物」とは、第一号に掲げるような宗教法人の前条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の建物及び工作物をいい、「境内地」とは、第二号から第七号までに掲げるような宗教法人の同条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地をいう。
一 本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所その他宗教法人の前条に規定する目的のために供される建物及び工作物(附属の建物及び工作物を含む。)
二 前号に掲げる建物又は工作物が存する一画の土地(立木竹その他建物及び工作物以外の定着物を含む。以下この条において同じ。)
三 参道として用いられる土地
四 宗教上の儀式行事を行うために用いられる土地(神せヽんヽ田、仏供田、修道耕牧地等を含む。)
五 庭園、山林その他尊厳又は風致を保持するために用いられる土地
六 歴史、古記等によつて密接な縁故がある土地
七 前各号に掲げる建物、工作物又は土地の災害を防止するために用いられる土地

却下事由において、とくに重要となるであろう法2条3項の各号を抜粋すると以下の通り。

  • 一 建物の存する土地
  • 二 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
  • 三 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地
  • 四 土壌汚染対策法(平成十四年法律第五十三号)第二条第一項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る。)により汚染されている土地
  • 五 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地

とりわけ悩ましいのは5号でしょうか?(形式的には判断しがたいケースが多い気がするという意味で。)
なお、土地家屋調査士さんは、申請書等の作成の代行が可能な士業からは外されている。

詳細は通達を確認するべし。

(2)不承認事由

参照条文

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和三年法律第二十五号)

(承認)
第五条 
法務大臣は、承認申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない。
一 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
二 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地
三 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
四 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるもの
五 前各号に掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
2 前項の承認は、土地の一筆ごとに行うものとする。

相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令(令和四年政令第三百十六号)

(承認をすることができない土地)
第三条 
法第五条第一項第一号の政令で定める基準は、勾配(傾斜がある部分の上端と下端とを含む面の水平面に対する角度をいう。)が三十度以上であり、かつ、その高さ(傾斜がある部分の上端と下端との垂直距離をいう。)が五メートル以上であることとする。
2 法第五条第一項第四号の政令で定める土地は、次に掲げる土地とする。
一 民法(明治二十九年法律第八十九号)第二百十条第一項に規定する他の土地に囲まれて公道に通じない土地又は同条第二項に規定する事情のある土地であって、現に同条の規定による通行が妨げられているもの
二 前号に掲げるもののほか、所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地(その程度が軽微で土地の通常の管理又は処分を阻害しないと認められるものを除く。)
3 法第五条第一項第五号の政令で定める土地は、次に掲げる土地とする。
一 土砂の崩壊、地割れ、陥没、水又は汚液の漏出その他の土地の状況に起因する災害が発生し、又は発生するおそれがある土地であって、その災害により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体又は財産に被害が生じ、又は生ずるおそれがあり、その被害の拡大又は発生を防止するために当該土地の現状に変更を加える措置(軽微なものを除く。)を講ずる必要があるもの
二 鳥獣、病害虫その他の動物が生息する土地であって、当該動物により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがあるもの(その程度が軽微で土地の通常の管理又は処分を阻害しないと認められるものを除く。)
三 主に森林(森林法(昭和二十六年法律第二百四十九号)第二条第一項に規定する森林をいう。次条第一項第三号及び第六条第二項において同じ。)として利用されている土地のうち、その土地が存する市町村の区域に係る市町村森林整備計画(同法第十条の五第一項に規定する市町村森林整備計画をいう。)に定められた同条第二項第三号及び第四号に掲げる事項に適合していないことにより、当該事項に適合させるために追加的に造林、間伐又は保育を実施する必要があると認められるもの
四 法第十一条第一項の規定により所有権が国庫に帰属した後に法令の規定に基づく処分により国が通常の管理に要する費用以外の費用に係る金銭債務を負担することが確実と認められる土地
五 法令の規定に基づく処分により承認申請者が所有者として金銭債務を負担する土地であって、法第十一条第一項の規定により所有権が国庫に帰属したことに伴い国が法令の規定により当該金銭債務を承継することとなるもの

こちらも通達の読み込みが重要か?

(3)チェックシート

法務局での相談対応も開始するが、その相談の際に利用される「相続土地国庫帰属相談票」「相談したい土地の状況について(チェックシート)」が、司法書士として相談を受ける際にも有益と思われる。

上記の法務省HPにおいて確認できる。

さらに通達に掲載されている様式も参考になる。

  • 別記第6号様式(第9節の1関係)「(別紙)」
  • 別記第8号様式(第10節第2の9関係)「実地調査結果報告書」
  • 別記第10号様式(第10節第4の1関係)「審査結果報告書」

4.所感

現時点(2023/2/22)では、審査手数料が公開されていないが、その金額によっては、申請が殺到するように思う。
(審査手数料が5万円くらいだったら、とりあえず申請する人が多いんじゃないか?)
(あとから上げることはできそうだけど、下げるのは難しいから、最初の値決めが重要ではないか?)
(2023/3/30追記:審査手数料は1万4000円!!安い!!)

そうなると、「相続土地国庫帰属制度に関するQ&A」(Q12)において「制度開始からしばらくの間は、承認申請の受付後、半年~1年程度の期間が掛かるものと思われます。」と記載されているが、もっと時間を要することになる気がする。

法務局はもちろん、照会を受ける市町も、とりわけ件数が多くなりそうな中山間地をかかえる市町(ただでさえ人手不足!)では、なかなかな負担になりそう。

なので、適当な想像にはなるけれども、制度開始直後のポイントは2点あるように思った。

  • 審査手数料が、申請を希望する人に「高い」と思わせる水準になるかどうか。
  • 法2条3項5号の「境界が明らかでない」でどこまで却下するか。

「要件が厳しく国庫帰属されない」との指摘もあるが、「とりあえず申請してみよう!」となるかならないかが制度利用の分水嶺になると、素人ながら推測します。
制度利用が進むにつれて、「『ゴール(国庫帰属までの)ハードルが高い』<『審査手数料が高い』」と認識されるまでは、とりあえず申請する方が非常に多いんじゃないかと。

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