「株主総会への報告の省略」と「株主総会の決議の省略」

1.報告の省略

(1)条文

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(株主総会への報告の省略)
第三百二十条 
取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知した場合において、当該事項を株主総会に報告することを要しないことにつき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該事項の株主総会への報告があったものとみなす。

(2)まとめ

  1. 取締役が株主の全員に対して株主総会に報告すべき事項を通知する。
  2. 「当該事項を株主総会に報告することを要しないこと」について、株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をする。
  3. 当該事項の株主総会への報告があったものとみなされる。

「報告すべき事項を通知」⇒「報告を要しないことについて同意」⇒「報告があったものとみなされる」というのが条文の言葉の使い方。

「報告の省略」というのは条文のタイトル。
『報告』という行為はされていないけれど、報告したという事実はあったものとはみなされるのだから、報告は省略されていないのではないか?

2.決議の省略

(1)条文

参照条文

(株主総会の決議の省略)
第三百十九条 
取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
2 株式会社は、前項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた日から十年間、同項の書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならない。
3 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
一 前項の書面の閲覧又は謄写の請求
二 前項の電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
4 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、第二項の書面又は電磁的記録について前項各号に掲げる請求をすることができる。
5 第一項の規定により定時株主総会の目的である事項のすべてについての提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた場合には、その時に当該定時株主総会が終結したものとみなす。

(2)まとめ

  1. 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案
  2. 当該提案につき株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示
    (「株主」とは、当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)
  3. 当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされる。

株主も提案が可能。

「株主総会の目的である事項について提案」⇒「株主の全員が同意」⇒「決議があったものとみなされる」という流れ。

こちらも「決議の省略」というのは条文タイトル。

3.議事録の作成

(1)条文

参照条文

会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)

(議事録)
第七十二条 
(・・・)
4 次の各号に掲げる場合には、株主総会の議事録は、当該各号に定める事項を内容とするものとする。
一 法第三百十九条第一項の規定により株主総会の決議があったものとみなされた場合 次に掲げる事項
イ 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
ロ イの事項の提案をした者の氏名又は名称
ハ 株主総会の決議があったものとみなされた日
ニ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
二 法第三百二十条の規定により株主総会への報告があったものとみなされた場合 次に掲げる事項
イ 株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
ロ 株主総会への報告があったものとみなされた日
ハ 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

(2)みなし決議

つぎにかかげる事項を、株主総会の議事録の内容とすること。

  • 株主総会の決議があったものとみなされた事項の内容
  • イの事項の提案をした者の氏名又は名称
  • 株主総会の決議があったものとみなされた日
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

(3)みなし報告

つぎにかかげる事項を、株主総会の議事録の内容とすること。

  • 株主総会への報告があったものとみなされた事項の内容
  • 株主総会への報告があったものとみなされた日
  • 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

4.定時株主総会としての報告の省略と決議の省略

(1)計算書類等の定時株主総会への提出等

参照条文

(計算書類等の定時株主総会への提出等)
第四百三十八条 
次の各号に掲げる株式会社においては、取締役は、当該各号に定める計算書類及び事業報告を定時株主総会に提出し、又は提供しなければならない。
一 第四百三十六条第一項に規定する監査役設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第四百三十六条第一項の監査を受けた計算書類及び事業報告
二 会計監査人設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第四百三十六条第二項の監査を受けた計算書類及び事業報告
三 取締役会設置会社 第四百三十六条第三項の承認を受けた計算書類及び事業報告
四 前三号に掲げるもの以外の株式会社 第四百三十五条第二項の計算書類及び事業報告
2 前項の規定により提出され、又は提供された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければならない
3 取締役は、第一項の規定により提出され、又は提供された事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならない。

(会計監査人設置会社の特則)
第四百三十九条 
会計監査人設置会社については、第四百三十六条第三項の承認を受けた計算書類が法令及び定款に従い株式会社の財産及び損益の状況を正しく表示しているものとして法務省令で定める要件に該当する場合には、前条第二項の規定は、適用しない。この場合においては、取締役は、当該計算書類の内容を定時株主総会に報告しなければならない。

(2)報告と決議をセットで省略

参考となる書式として「会社法書式集」P23以下。
セットでの書式例が掲載されている。

条文上は、319条1項(決議省略)⇒320条(報告省略)となるのが、なんとなく据わりが悪い。