1.取締役の任期
2.取締役の選任懈怠
(1)権利義務取締役
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(役員等に欠員を生じた場合の措置)
第三百四十六条
役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
(・・・)
任期満了したものの、後任取締役が選任されず、法令・定款に定める取締役の員数が欠けてしまった。
そんなとき、任期満了した取締役は、権利義務取締役として引き続き取締役としての権利義務を有することに(権利義務取締役)。
(2)任期の経過と登記
任期満了したから「退任」ということで登記できるのではないかと思われるが、下記の判例がある。
最判昭和43年12月24日(民集第22巻13号3334頁)
【判決要旨】
株式会社の取締役または監査役の任期満了または辞任による退任により法律または定款に定める取締役または監査役の員数を欠くに至つた場合においては、右退任による変更登記は、あらたに選任された取締役または監査役の就職するまで許されない。
というわけで、法令・定款に定める員数を満たす状況になるまでは登記できない(注:死亡などの例外あり。)。
(3)権利義務取締役と退任年月日
法令・定款に定める員数を満たす状況になると、めでたく権利義務取締役の退任登記が可能となる。
当該権利義務取締役の退任日は、つぎのとおり。
昭和31年4月6日民甲第746号回答
【要旨】
任期の満了又は辞任によって取締役が退任したものの、その者が権利義務取締役となった。
その後、後任取締役が選任されて、当該選任に伴う登記申請がなされた場合において、前任取締役の退任日はどっち?(A説)任期の満了又は辞任の日
(B説)後任取締役就任の日A説だよ!
【任期満了日に関する先例:定時株主総会すら開催されていなかったら?】
昭和33年12月23日民甲第2655号回答
(注:任期規定は現行法による原則的定めとする)【要旨】
定款の定める期間内に定時株主総会が開催されなかった。
この場合の任期満了日は?(A説)定款の定めにかかわらず選任から2年を経過したとき。
(B説)定款所定の「定時株主総会が開かれるべきであった期間」の終了日。B説だよ!
昭和33年12月23日民甲第2655号回答の(二)に具体例が記載されているが、
(1)事業年度を11月末日、
(2)定時株主総会は毎決算期末日から2カ月以内に開催する、となっていたら、
「定時株主総会」が開催されていなかったのならば、任期満了日は1月末日となる。
3.登記申請
(1)登記すべき事項
とくに注記すべきことはない。
(2)添付書類
こちらは「退任を証する書面」に関する論点が妥当する。
任期満了の旨が、議事録上で明らかにされていればOKとされる。
昭和53年9月18日民四第5003号回答
(注:任期規定は現行法による原則的定めとする)【要旨】
取締役の改選にあたり、定時株主総会の議事録に任期満了の旨の記載があるときは、退任を証する書面として別に定款を添付する必要はない。
この先例については、登記研究474号137頁に解説が掲載されている。
ここでは「役員退任の事実を記載した総会議事録が添付されていれば、退任の事実を証する書面として十分であって、さらに定款の添付を必要としない」とされている。
他方で、ハンドブック4版P.427には「定時株主総会が定款所定の時期に開催されないことにより任期が満了したときは、定款が添付書面となり・・・」と記載されている。
(個人的には、この場合もやはり、上記先例とその解説をふまえるのならば、任期満了となった事由と満了日が記載されていれば定款添付は不要であるように思うがどうか。
定款を添付したところで、もっとも重要な「所定の期間内に定時株主総会が開催されなかったこと」は総会議事録に依拠するわけだし。)