1.条文
会社法(平成十七年七月二十六日法律第八十六号)
第三百三十二条
取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
2 前項の規定は、公開会社でない株式会社(・・・)において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
(・・・)
以下、基本的に公開会社でない株式会社で、定款の規定により任期5年とされている株式会社を想定。
2.取締役ごとの個別任期
定款上は任期5年とされている会社で、特定の取締役について、選任決議の際にその任期を1年とすることも可能(例:1年後に会社を退職する予定の人を、あらかじめ1年任期で取締役に選任したい。)(ハンドブック3版P383参照)。
ただし、登記申請の際には、任期満了である旨を確認できなければならないので、たとえば定時株主総会議事録に確認的に「取締役Aは任期満了により退任~」と記載すべき。記載がない場合には、選任時の株主総会議事録(任期を明記したもの)が必要になるはず(これが定時総会でなければ、プラス定款?)。
昭和53年9月18日民四5003回答
株式会社の取締役および監査役の任期が、定款の規定によって定時株主総会の終結をもつて満了する場合、当該定時株主総会の議事録に「本株主総会の終結をもつて取締役および監査役の任期が満了するので改選・・・」との記載があるときは、任期を証する書面として、別に定款を添付する必要はない。
(このほかハンドブック3版P419参照)
3.定款で任期を伸長
平成18年3月31日民商782通達
第2部 株式会社
第3 機関
3 取締役及び代表取締役
(1)取締役及び代表取締役に関する改正
ウ 任期
(ウ) 任期に係る定款の変更
定款を変更して取締役の任期を短縮した場合には、現任の取締役の任期も短縮され、定款の変更時において既に変更後の任期が満了しているときは、当該取締役は退任することとなる(昭和35年8月16日民事四第146号回答参照)。
また、定款を変更して取締役の任期を伸長した場合には、現任の取締役の任期も、特別の事情がない限り伸長される(昭和30年9月12日民事甲第1886号回答参照)。
したがって、現任取締役の任期満了後に、定款変更後の任期に従う新任取締役を選任する場合には、その旨を議事録上で明示しなければならない(定款変更の効力発生のタイミング等)。
4.定款で任期を短縮
先例は上記のとおり。したがって、原則として現任取締役にも任期短縮の効力が及ぶ。
(1)終結時に任期満了
任期5年の会社が、選任3年後の定時株主総会において、任期を3年に変更したら、当該株主総会が終結する際に任期満了。従って、後任取締役を選任せねばならない。
(2)変更時に任期満了
任期5年の会社が、選任3年後の定時株主総会において、任期を2年に変更したら、当該定款変更の効力発生時に、「任期満了により」退任することとなる(ハンドブック3版P384参照)。
(3)附則での対応
上記の場合において、現任取締役について、任期を従前のままとしたい場合には定款の附則等で対応(商業・法人登記300問P179)。現任取締役が任期満了で退任した時点で附則を削除か。
→効力発生時点で附則を自動削除。IRを確認すると豊富に文例が確認できる。
5.おまけ
定款による取締役の任期の短縮は実質的に解任と同様の効果をもつ(とくに変更の時点で、変更後の任期が満了している場合。)。
そうなると次の条文に留意。
会社法
第三百三十九条
2 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
裁判例(東地裁平成27年6月29日判決。判時2274号113頁。以下部分的に抜粋。)
(1)取締役の任期途中において、その任期を短縮する旨の定款変更がなされた場合、その変更後の定款は在任中の取締役に対して当然に適用されると解することが相当であり、その変更後の任期によれば、すでに取締役の任期が満了している者については、上記定款変更の効力発生時において取締役から当然に退任する
(2)取締役の任期途中に任期を短縮する旨の定款変更がなされて本来の任期前に取締役から退任させられ、その後、取締役として再任されることがなかった者についても(・・・)会社が当該取締役を再任しなかったことについて正当な理由がある場合を除き、会社に対し、会社法三三九条二項の類推適用により、再任されなかったことによって生じた損害の賠償を請求することができる
ちなみに会社法339条2項の「正当な理由」については、会社側に立証責任があり、「そりがあわない」などの理由が認められるものではないので注意。
そうした点からも、そもそも論となるが、安易に取締役任期を10年とすることは避けるべし。