代表取締役が欠けたとき(代表権の付与?)

1.取締役2・代表取締役1の株式会社をモデルケースに

(1)モデルケース(取締役2・代表取締役1)

とある株式会社(取締役会設置会社ではない)。

取締役はA・Bの2名。
代表取締役はA、1名。

取締役の選定は、つぎのような定款規定に基づいて行った。

「当会社は、取締役5名以内を置く。」

「取締役を複数名置くときは、内1名を代表取締役とし、取締役の互選により定める。」

(2)代表取締役である取締役が辞任!

この前提において、取締役(代表取締役)であるAさんが辞任する場合、後任の代表取締役はどのように定めれば良いのだろうか?

2.代表権のはく奪?

(1)各自代表の場合、「代表する者を定める」場合

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(株式会社の代表)
第三百四十九条 
取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
2 前項本文の取締役が二人以上ある場合には、取締役は、各自、株式会社を代表する。
3 株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。
4 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

株式会社においては「各自代表」が原則である。

ただし、つぎの方法により代表取締役を定めることができ、その場合、代表取締役として定められた取締役以外の取締役は代表権を有しない。

  • 定款
  • 定款の定めに基づく取締役の互選
  • 株主総会の決議

上記の方法で代表取締役を定めることにより、代表取締役として定められた取締役以外の取締役は、原則的には与えられたはずの代表権をはく奪される。

(どうして349条3項の読み方として「定款の定めに基づく取締役の互選」又は「定款の定めに基づく株主総会の決議」にならないのだろうか?ならないのであれば「定款、株主総会の決議又は定款の定めに基づく取締役の互選」と規定すべきじゃないのか?)
(参考:登記研究156号53頁の質疑応答3355)

(2)代表権は復活しないのが原則?

そして、一度奪われた代表権は、定められた代表取締役がいなくなったとしても復活しない。
この場合には、改めて代表権を与えられる必要がある。

モデルケースにおいて、取締役Bは、原則的には有している代表権を349条1項により奪われた状態にある。
その後、代表取締役であったAが辞任し、他に代表取締役その他株式会社を代表する者がいなくなった場合であっても、Bの代表権は復活しない。
(参考:相澤 哲 (著), 郡谷 大輔 (著), 葉玉 匡美 (著)『論点解説 新・会社法―千問の道標』商事法務 (2006/6/1)P.309)

3.定款の定めによって「代表取締役を定める?」

(1)「取締役の互選」により代表取締役を定めるケースを前提?

結論だけ確認したいならハンドブック(ハンドブック4版P.393)。
詳細を確認したいなら登記研究646号117頁(神﨑先生の記事『商業登記の栞8』。とてもわかりやすい!)を参照のこと。

要するに、モデルケースのような定款規定(取締役が1名となることを許容。かつ、複数名の場合には取締役の互選により代表取締役を定める。)にあっては、代表取締役の辞任等により代表取締役でない取締役1名となってしまった場合には、残存する取締役が「定款の定めに従い代表取締役になる」というのである。
(「回復」するのではない。「改めてなる」のである。)

この場合の登記原因についてはつぎのとおり。

  • ハンドブック:代表権付与
  • 商業・法人登記500問:就任

なお
「ハンドブック」とは「松井 信憲 (著)『商業登記ハンドブック』商事法務; 第4版 (2021/7/30)」、
「商業・法人登記500問」とは「神﨑満治郎 (編集), 金子登志雄 (編集), 鈴木龍介 (編集)『商業・法人登記500問』テイハン (2023/7/7)」を指す。

(2)株主総会で代表取締役を定めていた場合には?

登記研究646号118頁を参照すべし。
要するに上記(1)のようにはならないということ。

理由付けはわからないけれど、旧有限会社法における考え方なのだろうか?

参照条文

【廃止】有限会社法(昭和13年法律第74号)

第二十七条
取締役ハ会社ヲ代表ス
2 取締役数人アルトキハ各自会社ヲ代表ス
3 前項ノ規定ハ定款若ハ社員総会ノ決議ヲ以テ会社ヲ代表スベキ取締役ヲ定メ、数人ノ取締役ガ共同シテ会社ヲ代表スベキコトヲ定メ又ハ定款ノ規定ニ基キ取締役ノ互選ヲ以テ会社ヲ代表スベキ取締役ヲ定ムルコトヲ妨ゲズ

4.私見

(1)おことわり

以下は素人考えをまとめたものにすぎない。

(2)原則の確認

あらためて会社法349条の定めるところを確認する。

  • 各自代表が原則である。
  • 定款・「定款の定めに基づく取締役の互選」・「株主総会の決議」により代表取締役(と代表権を奪われた取締役)を定めることができる。
  • 代表権を奪われた取締役の代表権は、代表取締役がいなくなっても復活しない。

(3)「取締役の互選」による場合

この場合、取締役を選任する株主総会においては、つぎのように取締役を選任していると考えられる。

  • 取締役を選任したよ(代表権ははく奪された状態だよ)。
  • 選任した取締役は、全員が代表取締役になる可能性をもっているよ。
  • 誰を代表取締役にするかは取締役の互選で決めてね。

いちおうは、全ての取締役について「代表取締役になりうる」ということが重要なのかもしれない。
この点が、上記3(1)の考え方を許容する前提になるのではないか。

また「代表取締役」は「株主総会において選任された取締役」としての地位と「取締役の互選により選定された代表取締役」としての地位を併せもつことになる。
そのため、代表取締役の地位のみを任意に辞任することができる。

(4)「株主総会決議」による場合

この場合、取締役を選任する株主総会においては、つぎのように取締役を選任していると考えられる。

  • 取締役を選任したよ(代表権はある状態だよ)。
  • ここから更に、代表取締役と「代表権を奪われた取締役」を定めるよ。

そして「代表権を奪われた取締役」について、代表権を回復させたいのであれば、あらためて株主総会を開かなければならないというのが、上記3(2)の考え方の前提となっているように思う。

また、株主総会は「代表取締役として定められた取締役」と「代表権を奪われた取締役」を選任していることにになる。
これをもって、代表取締役においては「取締役の地位と代表取締役の地位が未分化」とされ、当該代表取締役が代表取締役の地位のみを辞任する場合には、株主総会の承認が必要とされる。

(5)「取締役が複数の場合、〇〇により代表取締役を定める。」の場合

「〇〇」には、「取締役の互選」または「株主総会」が入ることになる。

この「取締役が複数の場合、〇〇により代表取締役を定める。」という規定の場合には、「取締役が1名であれば、その者が代表取締役になる」という意味に解釈するのが自然だと考える。
「1名の場合でも〇〇により代表取締役を定めるんだ!」というのであれば、シンプルに「〇〇により代表取締役を定める。」とすべきだろう。

よって、「〇〇」が「取締役の互選」だろうが「株主総会」だろうが、1名になったら定款規定により残存する1名の取締役が代表取締役になるのではないか?

「取締役の互選」の場合、株主総会による取締役選任の時点で、各取締役は「全員が代表取締役になる可能性をもっている」者として選任されている。
取締役が1名になれば、その者が取締役になるというのも自然であろう。
(そもそも1名では互選できないので、互選規定において「取締役複数」というのは当然の前提か。)

(6)「取締役が複数の場合、株主総会により代表取締役を定める。」の場合

上記3(2)のように「株主総会」において代表取締役を定めた場合には、株主総会で選定しなおす必要があるとされている。

「株主総会の決議」の場合、株主総会による取締役選任の時点で、代表取締役以外の取締役は「代表権を奪われた取締役」とされてしまう。
その状態を変更するには、あらためて株主総会の決議が必要となるということなのだろうか?

しかしながら、それでも定款規定において「複数の場合には」としているのであれば、「1名の場合には、その者が代表取締役となる。」という株主総会の判断が既になされている(その判断が定款に反映されている)といえるのではないか?

残存する取締役が代表取締役になることに不都合があるのなら、つぎのような対応をとればよいのでは?

  • 取締役を追加選任して、その株主総会において追加選任した取締役を代表取締役と選定する。
  • そもそも定款の規定を「(取締役が複数の場合という前提を設けず)株主総会により代表取締役を定める。」と変更する。

「定款の定めに従い代表取締役になる」という考え方をとるときに、代表取締役の選定機関が「取締役の互選」か「株主総会による決議」かによって結論が変わるという点に納得できない。

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