目次
1.共同訴訟とは
(1)共同訴訟とは
一つの民事訴訟手続きにおいて複数の者が原告又は被告となっている場合をいう。
『有斐閣法律用語辞典』P.236【共同訴訟】
民事訴訟においては、サシ(1対1)の「個別訴訟」が原則である。
対立当事者による自立的訴訟追行(処分権主義・弁論主義)は、対立する2当事者を念頭においている。
とはいえ、紛争の種類は様々で、多数当事者が関与する紛争も少なくない。
多数当事者による紛争について、当該当事者をそのまま訴訟当事者として同一の訴訟手続きにおいて同時に審判することで、「審理の重複を避ける」「統一的な紛争解決」というメリットがある。
一方で「統一的な紛争解決」という目標達成を優先すると、個々人の訴訟追行の自由を制限せざるを得ない(集団的に訴訟を進めていかなければ、グチャグチャになってしまう。)。
(2)共同訴訟の類型?
共同訴訟はつぎのように類型化できるとされている。
- 通常共同訴訟
民事訴訟法(平成八年法律第百九号)
(共同訴訟の要件)
第三十八条
訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは、その数人は、共同訴訟人として訴え、又は訴えられることができる。訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときも、同様とする。
(共同訴訟人の地位)
第三十九条
共同訴訟人の一人の訴訟行為、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為及び共同訴訟人の一人について生じた事項は、他の共同訴訟人に影響を及ぼさない。
- 必要的共同訴訟
民事訴訟法(平成八年法律第百九号)
(必要的共同訴訟)
第四十条
訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合には、その一人の訴訟行為は、全員の利益においてのみその効力を生ずる。
2 前項に規定する場合には、共同訴訟人の一人に対する相手方の訴訟行為は、全員に対してその効力を生ずる。
(・・・)
- 固有必要的共同訴訟と類似必要的共同訴訟
【固有必要的共同訴訟】
利害関係人全員が当事者とならなければ当事者適格を欠き、訴えが不適法として却下される【類似必要的共同訴訟】
『民事訴訟法講義案(三訂版)』p.300~より抜粋
各自が単独で当事者適格を有するものの、数人の者が当事者となり共同訴訟となった場合には、法律上統一的な審判が要求される
(3)必要的共同訴訟となると
- 審理の併合
- 証拠共通・主張共通
- 訴訟進行の統一
- 訴訟共同の強制(固有必要的共同訴訟に限る)
これらによって「重複を避け」「統一的な紛争解決」を図ることができる。
一方で、個々人の自立的訴訟追行の自由を制限することとなるし、1対1の単純な訴訟とは異なる訴訟進行上の配慮も必要となってくる。
2.登記申請手続きと共同訴訟
(1)相続により登記申請義務が一般承継されているケース
不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)
(一般承継人による申請)
第六十二条
登記権利者、登記義務者又は登記名義人が権利に関する登記の申請人となることができる場合において、当該登記権利者、登記義務者又は登記名義人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人は、当該権利に関する登記を申請することができる。
Aは自己所有の不動産をXに売却した。
当該売買に基づく所有権移転登記を申請する前に、Aが死亡した。
Aの相続人は、B・C・Dの3名である。
A・X間の売買によりなすべき所有権移転登記申請は、Xを登記権利者、Aを登記義務者とすべきであった。
(2)全員を一緒の訴える必要はない
最判昭和36年12月15日は、つぎのとおり判事
被上告人の本訴において請求するところは、上告人が相続によつて承継した前記Dの所有権移転登記義務の履行である。かくのごとき債務は、いわゆる不可分債務であるから、たとえ上告人主張のごとく、上告人の外に共同相続人が存在するとしても、被上告人は上告人一人に対して右登記義務の履行を請求し得るものであつて、所論のごとく必要的共同訴訟の関係に立つものではない
昭和36年12月15日最高裁判所第二小法廷判決(民集第15巻11号2865頁)
「不可分債務」である以上、相続人一人に対して登記義務の履行を請求できるから、必要的共同訴訟ではないといっている。
(この他にも判例としては、最判昭和44年4月17日(民集第23巻4号785頁)がある。)
なお「不可分債務」は法律用語として次のように定義されている。
数人の債務者が同一の不可分給付を目的として負う義務。各債務者は、全部の給付義務を負うが、債務者の一人がその債務を履行したときは、総債務者の債務が消滅する。(・・・)
『有斐閣法律用語辞典』P.993【不可分債務】より抜粋
(3)登記申請の方法(全員が義務者になる必要がある)
Aの死亡により、登記義務はB・C・Dに不可分的に承継されたことになるが、登記申請の場面ではB・C・D全員が登記義務者となる必要がある。
(昭和27年8月23日民甲第74号回答)
【要旨】
甲が乙に売渡たる不動産の所有移転登記をしないあいだに死亡したので、乙が甲の相続人と共に申請を為さんとするも相続人3名のうち1名が登記手続きに応じない。
そんなときには、他の2名の相続人と共に登記申請をしても良いでしょうか?⇒ダメ。相続人全員が登記義務者として申請をすべし。
昭和27年8月23日民甲第74号回答
3.必要的共同訴訟ではないが登記申請は全員で
(1)判決による申請と共同申請のミックス
というわけで、相続により登記申請義務が一般承継されているケースにおいては、訴訟手続き上は必要的共同訴訟ではないため個別的に訴えを提起することが可能(理論上は)。
一方で、登記申請においては上記先例により「共同相続人全員が登記義務者」となることが要請されている。
そのため、つぎのような質疑応答(登記研究195号74頁)がでてくる。
【要旨】
相続開始前に売渡した被相続人名義の不動産につき、相続人甲・乙のうち、甲には当該売買を原因とする所有権移転登記手続きをせよとの判決がある。
乙には、当該売買を原因とする所有権移転登記に任意に応じる意思がある。買主のためにする所有権移転登記申請を1件ですることが可能か?
登記研究195号74頁【4001】
(2)複数の判決による申請
上記が可能であるならば(結論は原典を確認いただきたい)、理論的には、甲・乙それぞれに別々の訴訟を提起して勝訴し、2つの判決をもって買主が単独で登記申請をすることも可能と考えられる。
(3)一括申請の要件
上記(1)のケースでも(2)のケースでも、そもそも一括申請が可能かとの疑問が生じる。
この点については、登記原因が同一として認めてよいとされている。
(参照記事:不動産登記の一括申請について)
(参照記事:共有者の住所変更(更正)登記と一括申請)
先例としては、上記参照記事で参照している「昭和35年5月18日民甲第1186号回答」や「昭和37年1月23日民甲第112号通達」がある。
ただし判決による登記申請においては、登記原因や登記原因日付の記載に注意が必要。
(参照記事:判決による抵当権抹消登記申請について)
(4)相続を証する情報の提供について
さらに、不動産登記法62条に基づく申請にあたっては「相続を証する情報」の提供が必要である。
仮に、判決による場合で、かつ訴訟が必要的共同訴訟となるのであれば、当該判決をもって「相続を証する情報」に代えることも当然に認められるように思う。
しかしながら、残念ながら必要的共同訴訟とはされておらず、買主が任意に複数いる相続人のうちの1名を選択して訴訟提起することも可能となっている。
したがって、別途「相続を証する情報」の提供が必要とされる。
ただし、判決理由中で相続人全員が訴訟当事者であることが認定されている場合には、判決を以て「相続を証する情報」とすることができるとされている。
(平成11年6月22日民三第1259号回答)
【要旨】
確定判決の理由中において甲の相続人は当該相続人らのみである旨の認定がされている場合は、当該確定判決の正本の写しを相続を証する書面として取り扱って差し支えないものと考えます。
平成11年6月22日民三第1259号回答
【参考文献】
法令用語研究会 (編集)『有斐閣法律用語辞典』有斐閣; 第5版 (2020/12/23)
裁判所職員総合研修所 (監修)『民事訴訟法講義案(三訂版)』司法協会 (2016/7/1)