遺贈による所有権移転登記の前提としての名変

1.遺贈による所有権移転登記

(1)申請方式に関する条文

参照条文

不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)

(共同申請)
第六十条 
権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。

(判決による登記等)
第六十三条 
第六十条(・・・)の規定にかかわらず、これらの規定により申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
2 相続又は法人の合併による権利の移転の登記は、登記権利者が単独で申請することができる。
3 遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による所有権の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、登記権利者が単独で申請することができる。

(2)整理

遺贈による所有権移転登記にあっては、つぎのように申請方式が区別される。

  • 原則的には共同申請。
  • 例外として、相続人に対する遺贈の場合には、単独申請。
    (そもそも、相続人に対する「遺贈」であるかどうかの解釈にも留意。)

2.遺贈者の氏名・住所が登記情報と相違するとき

(1)名変が必要

大原則を示した先例がこちら。

昭和43年5月7日民甲第1260号回答

【要旨】
登記名義人の氏名・住所について変更(又は錯誤)がある場合で、当該登記名義人の権利の移転の登記の際に、前提としてする登記名義人の表示変更(又は更正)の登記は省略することはできない。

この点につき、質疑応答において、遺贈については原則通り(省略不可)であることが確認されている。
【参照:登記研究380号81頁、401号160頁。】

(2)名変が不要?

ところで、今般改正により、相続人に対する遺贈にあっては単独申請も可となった。
そうなると、相続登記と同様に「被相続人の同一性を証する情報」を提供すれば名変不要となるのだろうか?

3.遺言執行者による名変登記の申請

(1)申請権限

上記2(1)で参照する質疑応答においては、申請権限があることが前提とされている。
(後続の所有権移転登記の申請権限があることを考えると当然か?)

(2)代理権限証明情報

家庭裁判所の審判によって選任されたケースでは、つぎのものが必要になる。

  1. 遺言書
  2. 遺言者の死亡を証する情報
  3. 選任審判書(これがあれば2は不要との見解あり)

昭和44年10月16日民甲第2204号回答

【要旨】
家庭裁判所により選任された遺言執行者の資格を証する書面としては、家庭裁判所の選任を証する書面(これによっては遺言の内容は不明との前提)のほか遺言書を要する。

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

(特定財産に関する遺言の執行)
第千十四条 
前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
(・・・)

関連記事