根抵当権の「債権の範囲」について(その4)

2023年6月12日

1.当事者の変動と「担保すべき債権の範囲」

つぎのようなケースで「担保すべき債権の範囲」はどう影響を受けるのか?

  • 根抵当権者の変更(全部譲渡のみ)
  • 債務者の変更
  • 相続による根抵当権者の変更
  • 相続による債務者の変更
  • 合併による根抵当権者の変更
  • 合併による債務者の変更

順番に確認していく。
(「分割」についてはあきらめた)

2.根抵当権者の変更(全部譲渡のみ)

(1)条文

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(根抵当権の譲渡)
第三百九十八条の十二 
元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権を譲り渡すことができる。
2 根抵当権者は、その根抵当権を二個の根抵当権に分割して、その一方を前項の規定により譲り渡すことができる。この場合において、その根抵当権を目的とする権利は、譲り渡した根抵当権について消滅する。
3 前項の規定による譲渡をするには、その根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾を得なければならない。

1項が「全部譲渡」について。

2項が「分割譲渡」について。
(本稿では分割譲渡については言及できず。また398条の13における「一部譲渡」にも言及できず!)

いずれについても、根抵当権設定者の承諾が必要となる。

(2)担保される債権の範囲を確認すべし

根抵当権の全部譲渡を受けた人(譲受人)が債務者に対して有する債権のうち、根抵当権の「担保すべき債権の範囲」に含まれる債権が、被担保債権となる。

根抵当権の全部譲渡を受けた時点で、既に発生している債権についても、「担保すべき債権の範囲」に含まれるのであれば被担保債権となりうる。

定められた「担保すべき債権の範囲」では不十分なのであれば、「担保すべき債権の範囲」を変更して対応する。

(3)「範囲の変更」に対する対応

根抵当権者 A
債務者   B(兼設定者)
担保すべき債権の範囲 売買取引

令和5年6月1日付にて、AはCに根抵当権を全部譲渡した。
同時に、AのBに対する売買代金債権を、AからCに債権譲渡した。

この場合、CがAから譲り受けた売買代金債権は、全部譲渡を受けた根抵当権では担保されない。
当該売買代金債権を担保するためには、CとBは、たとえば次のように特定債権を「担保すべき債権の範囲」に含めることにする。

CとBは、債権の範囲を次のように変更した。

担保すべき債権の範囲
(1)売買取引
(2)年月日債権譲渡(譲渡人A)にかかる債権

※カッコの番号は便宜付したもので登記はされない。

3.債務者の変更

(1)条文

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更)
第三百九十八条の四 
元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても、同様とする。
2 前項の変更をするには、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。
3 第一項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす。

債務者の変更については「・・・同様とする。」ということで、「担保すべき債権の範囲の変更」に準じた取扱いになっている。

債務者の変更にあたっては、第三者の承諾を得ることを要しない。

参照条文

(根抵当権の被担保債権の譲渡等)
第三百九十八条の七 
(・・・)
2 元本の確定前に債務の引受けがあったときは、根抵当権者は、引受人の債務について、その根抵当権を行使することができない。
3 元本の確定前に免責的債務引受があった場合における債権者は、第四百七十二条の四第一項の規定にかかわらず、根抵当権を引受人が負担する債務に移すことができない
4 元本の確定前に債権者の交替による更改があった場合における更改前の債権者は、第五百十八条第一項の規定にかかわらず、根抵当権を更改後の債務に移すことができない。元本の確定前に債務者の交替による更改があった場合における債権者も、同様とする。

(免責的債務引受による担保の移転)
第四百七十二条の四 
債権者は、第四百七十二条【免責的債務引受の要件及び効果】第一項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
2 前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。
3 前二項の規定は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。
4 前項の場合において、同項において準用する第一項の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。
5 前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。

(更改後の債務への担保の移転)
第五百十八条 
債権者(債権者の交替による更改にあっては、更改前の債権者)は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
2 前項の質権又は抵当権の移転は、あらかじめ又は同時に更改の相手方(債権者の交替による更改にあっては、債務者)に対してする意思表示によってしなければならない。

398条の7によって、免責的債務引受における担保移転、更改における担保移転に制限が加えられている点に注意!

(2)担保される債権の範囲を確認すべし

債務者を交代的に変更した場合には、変更前の債務者と根抵当権者との間の債権は担保されなくなる。

変更後の債務者と根抵当権者との間の債権で、「担保すべき債権の範囲」に含まれている債権が、被担保債権となりうる。

この場合において、債権の発生時期は問題とならず、変更後に発生した債権はもちろん変更前に発生していた債権についても、「担保すべき債権の範囲」に含まれている債権は被担保債権となりうる。

(3)変更に対する対応

根抵当権者 A
債務者   B(兼設定者)
担保すべき債権の範囲 売買取引

令和5年6月1日付にて、A及びBは、根抵当権の債務者をBからCに変更した。
同時に、AのBに対する売買代金債権を、CはBより免責的に債務引受をした。

この場合、CがBから債務引受けをした売買代金債務は、債務者変更後の根抵当権では担保されない。
当該売買代金債務を担保するためには、AとB(=設定者)は、たとえば次のように特定債権を「担保すべき債権の範囲」に含めることにする。

CとBは、債権の範囲を次のように変更した。

担保すべき債権の範囲
(1)売買取引
(2)年月日債務引受(旧債務者B)にかかる債権

※カッコの番号は便宜付したもので登記はされない。

併存的債務引受の場合も「債務者」という表記でOKなのだろうか?
(参照:登記研究787号『【実務の視点】』(53)P.127以下)

4.相続や合併による変更

本来であれば、もうすこし前項までの内容を網羅的に整理したかったが力不足。

本項につき別記事につづく>>【根抵当権の「債権の範囲」について(その5)

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