目次
1.当事者の変動と「担保すべき債権の範囲」
つぎのようなケースで「担保すべき債権の範囲」はどう影響を受けるのか?
- 根抵当権者の変更(全部譲渡のみ)
- 債務者の変更
以上を、つぎの記事で簡単に確認した。
【参考記事:根抵当権の「債権の範囲」について(その4)】
以下では、つぎの事項について簡単に確認していきたい。
- 相続による根抵当権者の変更
- 相続による債務者の変更
- 合併による根抵当権者の変更
- 合併による債務者の変更
続きから順番に確認していく。
2.相続による根抵当権者の変更
(1)条文
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(根抵当権者又は債務者の相続)
第三百九十八条の八
元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債権のほか、相続人と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に取得する債権を担保する。
2 元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務のほか、根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務を担保する。
3 第三百九十八条の四第二項の規定は、前二項の合意をする場合について準用する。
4 第一項及び第二項の合意について相続の開始後六箇月以内に登記をしないときは、担保すべき元本は、相続開始の時に確定したものとみなす。
(根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更)
第三百九十八条の四
元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても、同様とする。
2 前項の変更をするには、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。
3 第一項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす。
根抵当権者のほうは「担保すべき債権の範囲」との関係では、あまり深堀する意味がないかもしれないけれども。
(2)確認
元本の確定前に根抵当権者について相続が開始したときは、なにもしないと「担保すべき元本は、相続開始の時に確定」する。
確定させないためには、つぎの行為が必要。
- 相続人と根抵当権設定者との合意により「指定根抵当権者」を定める。
- 合意に基づいた変更登記を、相続の開始後6カ月以内に行う。
こうすると、根抵当権は、つぎの債権を担保することになる。
- 根抵当権者(被相続人)と債務者との間において、相続開始の時に存する債権。
- 指定根抵当権者(相続人)と債務者との間において、相続開始後に取得する債権。
ここでは、指定根抵当権者について担保される範囲が「相続開始後」となっている点に留意。
相続開始前に発生していた指定根抵当権者と債務者との債権を担保したい場合には、範囲の変更が必要となってくる。
(2のおまけ)相続による根抵当権の移転の変更登記について
不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)
(根抵当権当事者の相続に関する合意の登記の制限)
第九十二条
民法第三百九十八条の八第一項又は第二項の合意の登記は、当該相続による根抵当権の移転又は債務者の変更の登記をした後でなければ、することができない。
前提となる根抵当権移転の変更登記については、つぎの先例がある。
昭和46年10月4日民甲第3230号通達
【要旨】
1.相続による根抵当権の移転の登記については、相続放棄をした者など添付書面により根抵当権を相続しないことが明らかな者については申請人とならない。
2.相続による根抵当権の移転の登記については、申請書に持分の記載は不要。
具体例に沿った解説は、「小池 信行 (監修), 藤谷 定勝 (監修), 不動産登記実務研究会 (著)『Q&A 権利に関する登記の実務 X』日本加除出版 (2012/8/1)P.291以下」が詳しい。
(3)変更に対する対応
根抵当権者:A(相続人B・C・D)
債務者:X(兼設定者)
担保すべき債権の範囲:売買取引
まずは、相続による移転登記を申請しなければならない。
パターンとしては3つか?
【1】
相続人B・C・Dが、遺産分割前に、とりあえず3名で移転登記。
(遺産分割協議の結果、根抵当権に関する権利を3名が共有して相続することになった。)
【2】
相続人B・C・Dが、遺産分割前に、とりあえず3名で移転登記。
(遺産分割の結果、たとえばB・Cが根抵当権に関する権利を相続することとなった。)
(この場合、遺産分割に基づく移転登記が必要?)
(参考:上記『『Q&A 権利に関する登記の実務 X』P.302以下)
【3】
相続人B・C・Dが遺産分割協議を行い、たとえばB・Cが根抵当権に関する権利を相続することとなった場合、その結果に即して移転登記。
【パターン3】の場合
まずは、「年月日相続」により根抵当権者をB・Cとする。
付記N号の移転登記により「根抵当権者B・C」が登記される。
ここから、B・C・Xの合意により「指定根抵当権者」を定める。
仮に、Bが指定根抵当権者になったとすると、
【パターン3】の場合
「年月日合意」により指定根抵当権者をBとする。
付記N+1号の変更登記により「根抵当権者B」が登記される。
あらためて担保される債権を確認すると、つぎのとおり。
- 根抵当権者(被相続人)と債務者との間において、相続開始の時に存する債権。
- 指定根抵当権者(相続人)と債務者との間において、相続開始後に取得する債権。
前者についてはB又はCが関係しており、後者についてはBが関係している。
指定根抵当権者の合意によっても、Cが根抵当権者であることには変わりはない。
そのために、変更がなされても付記N号の「根抵当権者B・C」は抹消されない。
3.相続による債務者の変更
本項につき別記事につづく(未公表)。