目次
1.条文
(1)債権の範囲
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(根抵当権)
第三百九十八条の二
抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
2 前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。
3 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権、手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。次条第二項において同じ。)は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。
(2)確認
根抵当権において「担保すべき債権」とすることができるのは、つぎのとおり。
- 債務者との特定の継続的取引契約によって生ずる債権
- 債務者との一定の種類の取引によって生ずる債権
- 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権
- 手形上若しくは小切手上の請求権
- 電子記録債権
以上のほかにも、昭和46年10月4日民甲第3230号通達(以下「基本通達」という。)の第2の一の5において「担保すべき債権の範囲に属しない特定債権」も併せて担保すべき債権に含めることができるとされている。
(疑問:これだけを債権の範囲に記載して根抵当権設定登記として登記できるのだろうか?解釈上は不可?)
以下は、基本通達に基づいて、それぞれの内容を確認していく。
なお、例によって質疑応答については各文献を参照すること。
また「感想」は心情の吐露にすぎない。
そして、ここから先繰り返し、次の文献を参照する(当ブログよりも10000倍役立つ。)。
【小池信行・藤谷定勝/監修 不動産登記実務研究会/編著『Q&A 権利に関する登記の実務IX 第4編 担保権に関する登記(三)』日本加除出版 (2012/8/1)】
とりわけ同書P.230以下。
2.「債務者との特定の継続的取引契約によって生ずる債権」とは
(1)基本通達より
第二 一 (一)
・・・当該契約の成立年月日及びその名称を記載する。
(例)
年月日当座貸越契約
年月日手形割引契約
・・・
(2)感想
昭和46年民法改正以前の根抵当権の登記に関して言及される「基本契約」というのは、これにあたるのだろうか?
以下、質疑応答も含めた詳細については、以下の文献が、とてもとても参考となる。
【 坪内秀一『根抵当権実務必携 Q&A』日本加除出版 (2020/5/29)P.45以下】
3.「債務者との一定の種類の取引によって生ずる債権」とは
(1)基本通達より
第二 一 (二)
・・・客観的に担保すべき債権の範囲を画する基準として、その内容を第三者が認識できるようその取引の種類を記載する。
(例)
売買取引、・・・、手形貸付取引、・・・、銀行取引、保証委託取引
(2)感想
客観的に説明できるのか?
ほんとうに「一定の種類の取引として認められない」として却下するのだろうか?
なんで「銀行取引」はOKで「商社取引」はダメなのか?
昭和46年12月27日民三第960号民三課長依命通知
【要約】
相互銀行取引、信用金庫取引、信用組合取引 はOKだよ。
商取引、根抵当取引、商社取引、農業協同組合取引 はダメだよ。
(一定の種類の取引を限定したものとして認めがたいものであるから)
なお、銀行取引については以下の文献に理由が示されていたが・・・
【小池信行・藤谷定勝/監修 不動産登記実務研究会/編著『Q&A 権利に関する登記の実務IX 第4編 担保権に関する登記(三)』日本加除出版 (2012/8/1)P.114以下、P.221以下参照】
4.「特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権」とは
(1)基本通達より
第二 一 (三)
・・・その債権発生の原因を特定するに足りる事項を記載する。
(例)
甲工場の排液による損害賠償債権
乙工場からの清酒移出による酒税債権
(2)感想
上記2・3については「取引によって発生する債権」として担保すべき債権に含めうるものだが、本項以下4・5・6については「取引外の債権」として担保すべき債権に含めうるものとなる。
ふむふむといった感じである。
なお、「養育料給付債権」「医療費給付債権」の当否も含め、以下が参考となる。
登研787号120頁以下(【実務の視点】(53))
5.「手形上若しくは小切手上の請求権」とは
(1)基本通達より
第二 一 (四)
・・・単に「手形債権」又は「小切手債権」と記載する。
(2)感想
これを含める趣旨は「廻り手形」を債権の範囲に含めるためとされる。
継続的な手形割引取引は、上記2・3においてカバーできるが、第三者から「根抵当権における債務者」が発行した手形を受け取った場合には、上記2・3においてカバーできない。
同様のことは、次項の「電子記録債権」についてもいえる。
これら5・6については、下記条文にも留意。
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(根抵当権の被担保債権の範囲)
第三百九十八条の三
(・・・)
2 債務者との取引によらないで取得する手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権を根抵当権の担保すべき債権とした場合において、次に掲げる事由があったときは、その前に取得したものについてのみ、その根抵当権を行使することができる。ただし、その後に取得したものであっても、その事由を知らないで取得したものについては、これを行使することを妨げない。
一 債務者の支払の停止
二 債務者についての破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始又は特別清算開始の申立て
三 抵当不動産に対する競売の申立て又は滞納処分による差押え
6.「電子記録債権」とは
こちらについては、別記事を参照のこと。
なお、電子記録債権の明文化は
【参照記事:電子記録債権について(根抵当権における「債権の範囲」との関係)】
7.「担保すべき債権の範囲に属しない特定債権」とは
(1)基本通達より
第二 一 (五)
・・・当該債権を特定するに足りる事項をも記載する。
(例)
年月日貸付金
年月日売買代金
(2)感想
これだけを債権の範囲に記載して根抵当権設定登記として登記できるかについて以下の文献を参照。
【小池信行・藤谷定勝/監修 不動産登記実務研究会/編著『Q&A 権利に関する登記の実務IX 第4編 担保権に関する登記(三)』日本加除出版 (2012/8/1)P.123参照】
また「特定の債権のみに変更する登記申請の可否」について登研481・134頁を参照。
8.範囲に変更があったケースと「担保すべき債権の範囲」
別記事につづく(未公表)