電子記録債権について(根抵当権における「債権の範囲」との関係)

1.法律

(1)条文

参照条文

電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)

(定義)
第二条 
この法律において「電子記録債権」とは、その発生又は譲渡についてこの法律の規定による電子記録(以下単に「電子記録」という。)を要件とする金銭債権をいう。
2 この法律において「電子債権記録機関」とは、第五十一条第一項の規定により主務大臣の指定を受けた株式会社をいう。
(・・・)
6 この法律において「電子記録名義人」とは、債権記録に電子記録債権の債権者又は質権者として記録されている者をいう。
7 この法律において「電子記録権利者」とは、電子記録をすることにより、電子記録上、直接に利益を受ける者をいい、間接に利益を受ける者を除く。
8 この法律において「電子記録義務者」とは、電子記録をすることにより、電子記録上、直接に不利益を受ける者をいい、間接に不利益を受ける者を除く。
9 この法律において「電子記録保証」とは、電子記録債権に係る債務を主たる債務とする保証であって、保証記録をしたものをいう。

(2)確認

電子記録債権とは、電子記録債権法の規定する要件を満たすことで「発生」や「譲渡」がなされる金銭債権のことをいう。

大雑把に言えば、電子化された約束手形(ただし、「分割」が可能だったり、記録可能な事項は下記条項のとおり豊富である。)。

参照条文

電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)

(発生記録)
第十六条 
発生記録においては、次に掲げる事項を記録しなければならない。
一 債務者が一定の金額を支払う旨
二 支払期日(確定日に限るものとし、分割払の方法により債務を支払う場合にあっては、各支払期日とする。)
三 債権者の氏名又は名称及び住所
四 債権者が二人以上ある場合において、その債権が不可分債権又は連帯債権であるときはその旨、可分債権であるときは債権者ごとの債権の金額
五 債務者の氏名又は名称及び住所
六 債務者が二人以上ある場合において、その債務が不可分債務又は連帯債務であるときはその旨、可分債務であるときは債務者ごとの債務の金額
七 記録番号(発生記録、分割記録又は記録機関変更記録をする際に一の債権記録ごとに付す番号をいう。以下同じ。)
八 電子記録の年月日
2 発生記録においては、次に掲げる事項を記録することができる。
一 第六十二条第一項に規定する口座間送金決済に関する契約に係る支払をするときは、その旨並びに債務者の預金又は貯金の口座(以下「債務者口座」という。)及び債権者の預金又は貯金の口座(以下「債権者口座」という。)
二 第六十四条に規定する契約に係る支払をするときは、その旨
三 前二号に規定するもののほか、支払方法についての定めをするときは、その定め(分割払の方法により債務を支払う場合にあっては、各支払期日ごとに支払うべき金額を含む。)
四 利息、遅延損害金又は違約金についての定めをするときは、その定め
五 期限の利益の喪失についての定めをするときは、その定め
六 相殺又は代物弁済についての定めをするときは、その定め
七 弁済の充当の指定についての定めをするときは、その定め
八 第十九条第一項(第三十八条において読み替えて準用する場合を含む。)の規定を適用しない旨の定めをするときは、その定め
九 債権者又は債務者が個人事業者であるときは、その旨
十 債務者が法人又は個人事業者(その旨の記録がされる者に限る。)である場合において、第二十条第一項(第三十八条において読み替えて準用する場合を含む。)の規定を適用しない旨の定めをするときは、その定め
十一 債務者が法人又は個人事業者(その旨の記録がされる者に限る。)であって前号に掲げる定めが記録されない場合において、債務者が債権者(譲渡記録における譲受人を含む。以下この項において同じ。)に対抗することができる抗弁についての定めをするときは、その定め
十二 譲渡記録、保証記録、質権設定記録、分割記録若しくは記録機関変更記録をすることができないこととし、又はこれらの電子記録について回数の制限その他の制限をする旨の定めをするときは、その定め
十三 債権者と債務者との間の通知の方法についての定めをするときは、その定め
十四 債権者と債務者との間の紛争の解決の方法についての定めをするときは、その定め
十五 電子債権記録機関が第七条第二項の規定により保証記録、質権設定記録、分割記録若しくは記録機関変更記録をしないこととし、又はこれらの電子記録若しくは譲渡記録について回数の制限その他の制限をしたときは、その定め
十六 前各号に掲げるもののほか、電子記録債権の内容となるものとして政令で定める事項
(・・・)

2.電子債権記録機関とは

(1)条文

参照条文

電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)

(定義)
第二条 
(・・・)
2 この法律において「電子債権記録機関」とは、第五十一条第一項の規定により主務大臣の指定を受けた株式会社をいう。
(・・・)

(電子債権記録業を営む者の指定)
第五十一条 
主務大臣は、次に掲げる要件を備える者を、その申請により、第五十六条に規定する業務(以下「電子債権記録業」という。)を営む者として、指定することができる。
(・・・)
2 主務大臣は、前項の指定をしたときは、その指定した電子債権記録機関の商号及び本店の所在地を官報で公示しなければならない。

(主務大臣及び主務省令)
第九十一条 
この法律において、主務大臣は法務大臣及び内閣総理大臣とし、主務省令は法務省令・内閣府令とする。

(権限の委任)
第九十二条 
内閣総理大臣は、この法律の規定による権限(政令で定めるものを除く。)を金融庁長官に委任する。
2 金融庁長官は、政令で定めるところにより、前項の規定により委任された権限の一部を財務局長又は財務支局長に委任することができる。

(2)電子債権記録機関の指定

電子債権記録機関の指定は金融庁により行われており、指定された株式会社の一覧を下記にて確認することができる。

参考記事(外部リンク)

「金融会社」の項目において「電子債権記録機関(令和3年9月8日現在)」が掲載されている。

指定されているのは5社で、つぎのとおり。

  • 日本電子債権機構株式会社(三菱UFJファクターの100%子会社)
  • SMBC電子債権記録株式会社(三井住友銀行の100%子会社)
  • みずほ電子債権記録株式会社(みずほ銀行の100%子会社)
  • 株式会社全銀電子債権ネットワーク(一般社団法人全国銀行協会の100%子会社)
  • Tranzax電子債権株式会社(Tranzax株式会社の100%子会社)
参考記事(外部リンク)

3.登記(根抵当権における「債権の範囲」)

(1)先例

平成24年4月27日民二第1106号通知

【要旨】
被担保債権の範囲を「銀行取引 手形債権 小切手債権 電子記録債権」とする根抵当権の設定の登記の申請は受理することができる。

(2)どうして論点になっていたのか?

結局のところ、後述の「根抵当権における債権の範囲」に関係するところだが、要するに民法398条の2第3項や398条の3第2項に相当する規定がないのに「電子記録債権」を根抵当権の被担保債権とすることができるのか否かということ。

ただし、この論点については平成29年の民法改正により明文化され解消されている。

4.根抵当権における「債権の範囲」

(1)条文

参照条文

民法(明治二十九年法律第八十九号)

(根抵当権)
第三百九十八条の二 
抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。
2 前項の規定による抵当権(以下「根抵当権」という。)の担保すべき不特定の債権の範囲は、債務者との特定の継続的取引契約によって生ずるものその他債務者との一定の種類の取引によって生ずるものに限定して、定めなければならない。
3 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権(電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。次条第二項において同じ。)は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。

(2)意義

根抵当権の被担保債権の範囲は、つぎのように「限定」されていなければならない。

  • 債務者との一定の種類の取引によって生ずるもの
  • 特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権
  • 手形上若しくは小切手上の請求権
  • 電子記録債権

根抵当権は「包括根抵当権」ではないといわれる所以。

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