目次
1.範囲の変更と「担保すべき債権の範囲」
「担保すべき債権の範囲」を変更した場合には、変更の前後で「担保すべき債権の範囲」はどう影響を受けるのか?
2.担保すべき債権の範囲の変更
(1)条文
民法(明治二十九年法律第八十九号)
(根抵当権の被担保債権の範囲及び債務者の変更)
第三百九十八条の四
元本の確定前においては、根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更をすることができる。債務者の変更についても、同様とする。
2 前項の変更をするには、後順位の抵当権者その他の第三者の承諾を得ることを要しない。
3 第一項の変更について元本の確定前に登記をしなかったときは、その変更をしなかったものとみなす。
(2)確認
条文タイトルの「被担保債権」というのが気になるが、なんにせよ元本の確定前であれば、根抵当権の担保すべき債権の範囲を変更することができる。
変更にあたり、第三者の承諾は不要!
登記することが効力要件。
(3)変更の効果
変更により、つぎのとおりとなる。
変更前に既に発生していたものの、変更前の「担保すべき債権の範囲」に含まれていなかった債権についても、変更後の「担保すべき債権の範囲」に含まれるのであれば、被担保債権となりうる。
変更前の「担保すべき債権の範囲」に含まれていた債権であっても、変更後の「担保すべき債権の範囲」に含まれていなければ、被担保債権とはならない。
(元本確定時に、その時点における「担保すべき債権の範囲」に含まれるか否か。)
3.追加的変更・縮減的変更
(1)先例(縮減されることが形式的に明らかか否か?)
昭和46年10月4日民甲第3230号通達 第三
担保すべき債権の範囲の変更の登記は、根抵当権者が登記権利者、設定者が登記義務者となって申請する。
ただし、担保すべき債権の範囲が縮減されることが形式的に明らかな変更の登記については、この限りでない。
(2)確認
というわけで、担保すべき債権の範囲の変更の登記にあたっては、内容により登記権利者・義務者が入れ替わることになる。恐怖である。
登記権利者 | 登記義務者 | |
原則 | 根抵当権者 | 設定者 |
例外(縮減が形式的に明らか) | 設定者 | 根抵当権者 |
この点については、追っかけ通知がでている。
昭和46年12月27日民三第960号通知 第三
【要約】
縮減されることが形式的に明らかなケース
(1)「証書貸付取引、当座貸越取引」⇒「証書貸付取引」
(2)「銀行取引」⇒「手形貸付取引」
(3)「売買取引」⇒「電気製品売買取引」
縮減されることが形式的に明らとはいえないケース
(1)「証書貸付取引、当座貸越取引」⇒「銀行取引」
(3)特定の継続的取引契約の変更に対する対応
下記文献を参考のこと。
根抵当権者:甲、債務者:乙、設定者:丙、債権の範囲「年月日酒類供給契約」としていた。
当該供給契約においては、根抵当権設定当初は「A会社製造の日本酒」のみが供給対象であった。
ところが、根抵当権設定後において、当該供給契約を変更し「A会社製造の日本酒」に加えて「B会社製造のワイン」をも供給対象とした。
この場合に、「B会社製造のワイン」の供給に係る債権は被担保債権となりうるか?
こうした説例を見ると「商社取引」は債権の範囲としては不適格なのかなと思いつつも、結局のところ物上保証契約の内容の問題であるし、第三者にとっては関係ない(あずかり知らぬ事情)ようにも感じた。
【参考:小池信行・藤谷定勝/監修 不動産登記実務研究会/編著『Q&A 権利に関する登記の実務X 第4編 担保権に関する登記(四)』日本加除出版 (2012/8/1)P.43以下】
【 坪内秀一『根抵当権実務必携 Q&A』日本加除出版 (2020/5/29)P.293以下】
4.当事者に変更があったケースと「担保すべき債権の範囲」
別記事につづく(一般承継を除く根抵当権者・債務者の変更について)。