数次相続と法定相続情報証明制度

2022年8月18日

1.数次相続

(1)数次相続とはなんだ?

数次相続とは、ある相続が開始した後に、その相続人であった人について、重ねて相続が発生することをいいます。

たとえば、被相続人Aさん、相続人B・C・D(いずれも子)という状況を考えてみます。

被相続人Aさんが令和3年に死亡して、その後、相続人Bさんが令和4年に亡くなったとします。

この状態を「Aさんの相続について、数次相続が発生している。」などと表現します。

(2)数次相続と遺産承継

数次相続が発生しているAさんの相続手続き(遺産承継手続き)について、遺産分割協議を実施する場合、つぎの人たちが遺産分割協議に参加する必要があります。

  • 相続人C
  • 相続人D
  • 相続人であったBの相続人

もし、Bさんの相続人が、配偶者E・子Fということならば、Aさんの遺産分割協議に参加するべき人は、C・D・E・Fの4名ということになります。

Aさんを基準として考えると、数次相続発生前と後で、相続人の内訳は次のように変化しています。

  • 数次相続発生前: 相続人3名(内訳:子3)
  • 数次相続発生後: 相続人4名(内訳:子2、孫1、亡子の配偶者1)

2.法定相続情報証明制度

(1)法定相続情報証明制度とは

法定相続情報証明制度とは、相続関係を表した図に、法務局がお墨付きを与えてくれる制度です。

おおまかな利用の流れはつぎのとおりです。

  • 法務局に戸籍謄本等の束を提出。
  • あわせて相続関係を一覧に表した図を提出する。
    (この図のことを「法定相続情報一覧図」という。)
  • 法務局がその一覧図を確認
  • 内容が正しければ、認証文を付した法定相続情報一覧図の写しを無料交付。

(2)法定相続情報証明制度のメリット

本来、相続登記(相続による不動産の名義変更)や預貯金の承継手続きを行う場合には、相続関係を証明するための戸籍の束を提出する必要があります。

法務局や銀行は、提出された戸籍の束を確認し、相続関係を把握することになります。

ところが、法定相続情報一覧図の写しを利用すれば、相続関係の確認は法務局がやってくれており、かつお墨付き(認証文)まで与えてくれているので、戸除籍謄本等の束を何度も出し直す必要がなくなるのです。

まとめるとこんなメリットがあります。

  • 相続手続きで、何度も戸籍の束を提出しなくても良くなる。
  • 戸籍の束から、相続に必要な情報だけが抜粋されるので、プライバシーが保護される。
  • (法務局や銀行など相続手続きの相手側にとっても)戸籍をチェックする手間が省けて助かる。

3.数次相続と法定相続情報証明制度

(1)数次相続と「法定相続情報証明制度の原則」

非常に便利な法定相続情報証明制度なのですが、こと数次相続においては、すこし不具合な点があります。

それは、法定相続情報証明制度においては「被相続人が死亡した際の相続関係を図にする」という原則です。

相続関係というのは、様々な理由によって、相続開始後に変化する可能性があります。

数次相続もそうですし、ほかにも「相続放棄」(家庭裁判所に対して相続資格を放棄する旨の申述をするもの)が代表例です。

法定相続情報証明制度は、あくまで戸籍の束から確認可能な「形式的な相続関係」を確認するための制度なので、数次相続も含めた関係図には対応していないのです。

(2)数次相続において法定相続情報証明制度を利用するには?

冒頭の例を、もう一度、取り上げてみましょう。

  • 被相続人Aさん、相続人B・C・D(いずれも子)である。
  • 被相続人Aさんが令和3年に死亡。その後、相続人Bさんが令和4年に死亡した。
  • Bさんの相続人は、配偶者E・子Fである。

この場合には、つぎのような形で、法定相続情報証明制度の申請を出す必要があります。

  1. 被相続人Aについて、相続人B・C・Dとする法定相続情報一覧図を提出する。
  2. 被相続人Bについて、相続人E・Fとする法定相続情報一覧図を提出する。

つまり2回、制度利用の申請を法務局に対して行うことになるのです。

なお、制度利用の申出ができる人は、法律上、つぎのように制限されています。

  • 被相続人の相続人
  • 上記相続人の地位を相続により継承した者

数次相続による相続人(上記例でいうE・F)は、「相続人の地位を相続により継承した者」に該当するので、被相続人Aについても、制度利用の申出をすることができます。

(3)法定相続情報一覧図を組み合わせて利用する?

このように、数次相続において法定相続情報証明制度を利用する場合には、亡くなった方ごとに別々の一覧図を用意する必要があります。

そして、別々に発行を受けた一覧図を組み合わせることで、数次相続における相続人を把握することができるのです。

では、実際に遺産承継手続きを利用するときには、それで問題が無いのでしょうか?
「被相続人Aの一覧図に記載されているBと、被相続人Bの一覧図に記載されているBが、同一人物が一緒か確認できない!」なんてことを言われる恐れはないのでしょうか?

すくなくとも2枚の法定相続情報一覧図において、Bの氏名・生年月日は一致しています。
(住所も記載していれば、その住所が一致している可能性もあります。)

基本的に、銀行等は、手続き対象者の同一性を「氏名・生年月日」で判断しているものと思われます。
そのため、組合せでの承継手続きも、多くの場合受け入れてもらえるものと思われます。
(実際、いくつかの銀行で組み合わせ利用をしたことがありますが、問題なく承継手続きを完了させることができました。)

4.戸籍が重複している場合には?

法定相続情報証明制度の申出に際しては、当然ながら、相続関係を証明する戸籍の束を提出する必要があります。

それでは、数次相続のケースでは、それぞれの被相続人について戸籍の束を用意する必要があるのでしょうか?
重複するものについては、2通用意する必要があるのでしょうか?

この点については、必要がないとされています。
ただし、公表されている文献では確認できなかったので、実際に利用する際には、法務局窓口に確認するようにしましょう。
(非公表ではありますが、日本司法書士会連合会が会員である司法書士向けに発出している「法定相続情報証明制度に関するQ&A」に記載がありました。司法書士会員の方は日司連ネットで確認が可能です。公表文献の見逃しがあったら、申し訳ございません。)

5.管轄が相違している場合には?

(1)法定相続情報証明制度における「管轄」

法定相続情報証明制度においては、制度利用の申出をすることができる法務局が、つぎのように限定されています。

  • 被相続人の死亡時の本籍地
  • 被相続人の最後の住所地
  • 申出人の住所地
  • 被相続人名義の不動産の所在地

なお、郵送による申出も可能なので、管轄が遠い場合でも、それほど問題はないでしょう。
ただし、数次相続の場合、ちょっと面倒なことになることもあります。

冒頭の事例をもとに、考えてみます。

  • 被相続人Aについて、相続人Eが法定相続情報一覧図を提出する。
    被相続人Aに関する管轄は、静岡地方法務局沼津支局となる。
    相続人Eに関する管轄は、静岡地方法務局富士支局となる。
  • 被相続人Bについて、相続人E・Fとする法定相続情報一覧図を提出する。
    被相続人Bに関する管轄は、静岡地方法務局下田支局となる。
    相続人Eに関する管轄は、静岡地方法務局富士支局となる。

仮に、管轄支局が上記のとおりだったとします。
もちろん、静岡地方法務局富士支局(申出人の住所地)に申出をすれば良いのですが、代理人司法書士が事務所を置く沼津市の法務局(静岡地方法務局沼津支局)に提出することはできないのでしょうか?
(補正になった時には、やはり沼津のほうが・・・。)

(2)数次相続における特例?

この点についても、先にご紹介した「法定相続情報証明制度に関するQ&A」(日本司法書士会連合会)に記載がありました。
非公開情報なので、結論だけのご紹介となりますが、便宜同一の法務局に申出をすることが可とされているようです。

繰り返しになりますが、公表されている文献では確認できなかったので、実際に利用する際には、法務局窓口に確認するようにしましょう。

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