1.同時履行の抗弁権
同時履行の抗弁権は、民法に規定されています。
第五百三十三条
双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
双務契約においては、契約当事者が互いに債権者であり債務者であるという関係に立ちます。
そのため、お互いのもつ債権が同時に履行されなければ、他方当事者のみが契約に沿った履行を受けられないこととなります。
2.弁済期と同時履行の抗弁権
もちろん、双務契約において、弁済期をもうけて互いの債権の履行時期に先後をつけることもあります。
上記条文において、「相手方の債務が弁済期にないときは」という文言の意味となります。
とはいえ現実に、同時履行を実現するのには工夫がいります。
(1)書籍の売買であれば・・・
たとえば、書籍の売買であれば、同時履行を実現することは容易でしょう。
実際に、皆さんも本屋で、お金を払って商品を受け取っていませんか(但し、ここでも厳密に言うと、先にお金を払って、本屋さんが代金を確認した後に引渡をしている店や、逆に先に購入した書籍を包装して客に手渡してから代金を受領する店など、ある種の先後関係があるのが一般です。)。
(2)不動産の売買の場合には・・・
他方、不動産の売買を考えると、同時履行を実現することは、困難です。多額の現金をやりとりする必要がありますし、不動産を本と同じように引き渡すのは難しいですよね。
そんな場合には、我々司法書士が、同時履行を実現するように売主・買主の間に立つこととなります。
まずは、買主・売主より所有権移転登記に必要な書類が整っていることを確認します。この確認をすることにより、いつでも登記を売主から買主に移転できることを担保(買主に対して)します。
そのうえで、買主から売主に代金支払いを実行してもらいます。
売主が買主から代金を受領したことをもって、所有権移転登記の申請を行います。
これにより同時履行を担保するのです。
(3)登記完了までの時間あるいは登記が完了しないリスク
ただし、この点についても、厳密に考えれば、登記完了(不動産の名義が売主から買主にかわること)前に代金決済は完了していることになりますから、多少の先後があることとなります。
さらに先後をなくしたいということであれば、代金決済を完了させることなく、売買代金を第三者に委託し、登記完了とともに売主に支払う仕組みを採用すべきこととなります。
これを不動産エスクローといい、いくつかの事業会社がサービス提供を行っています。