債権者主義と債務者主義

2015年11月10日

1.債権者主義と債務者主義

債権者主義とは何か、債務者主義とは何かという質問を頂きました。

債権者主義、債務者主義のいずれも「危険負担」における考え方のことです。

(1)危険負担とは

「危険負担」とは、双務契約(売買が代表例)において債務者の責めに帰すべき事由によらず債務(目的物を引き渡す債務)が履行できなくなった場合に、それと対価的関係にある反対債務(売買代金債務)も消滅するか否かという問題です。

(2)原則としての債務者主義

さきにまとめをしておくと、

原則として「債務者主義」(反対債務も消滅)、例外(特定物にかかる契約)として「債権者主義」(反対債務は消滅せず)となります。

2.双務契約と危険負担

(1)売買の例

双務契約においては、契約当事者のそれぞれが債権者であり債務者となります。

売買を例にとれば、買主は、売買代金を支払う債務者であり、売買目的物の引渡を受ける債権者です。

一方、売主は、売買代金を受け取る債権者であり、売買目的物を引き渡す債務者です。

ここで、売買目的物の建物が、買主への引き渡し前に、落雷により焼失(債務者に過失ない事由により消滅)した場合、売買目的物を引き渡す債務は、履行不能により消滅します。

一方で、売買目的物を引き渡す債務と対価関係にある売買代金支払い債務は消滅せず、この意味で目的物の焼失(消滅)の負担は債権者に帰せられます。これが債権者主義です(民法534条1項)。

(2)特定物の引渡し

債権者主義は双務契約が特定物の引渡にかかるものである場合に適用されます。これは、特定物の所有権は契約成立とともに買主(債権者)に移転しており、そうである以上、買主は所有者として目的物滅失の負担を甘受しなければならないという考え方に起因しています。

従って、双務契約において、特定物ではなく、たとえば役務提供(講師をする契約など)が契約目的となっている場合に、債務者の責めに寄らず役務提供が不可となった場合、反対債務である講師料支払債務は一緒に消滅し、債務者(講師)は講師料をもらえなくなります(債務者主義。民法536条1項)。