任意後見制度の改正(「民法(成年後見等関係)等の改正に関する要綱案」(令和8年1月27日決定)より)

1.要綱案より抜粋

(1)抜粋

任意後見契約についても、さまざまな変更が提案されている。
すべてに言及することはできないので、下記を抜粋し、確認していく。
(太字・下線は筆者によるもの)

第4 任意後見制度

4 任意後見開始の審判及び任意後見監督人の選任

(1) 任意後見開始の審判及び同審判の請求権者
任意後見契約法第4条第1項柱書の規律を次のように改めるものとする。
任意後見契約が登記されている場合において、精神上の理由により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、任意後見受任者、補助人、補助監督人又は任意後見開始の審判を請求することができる者として公正証書によって本人の指定した者の請求により、任意後見開始の審判をする。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

(2) 任意後見監督人の選任
任意後見監督人の選任について、次のような規律を設けるものとする。
① 家庭裁判所は、任意後見開始の審判をするときは、職権で、任意後見監督人を選任する。
② 任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族、任意後見人、補助人若しくは補助監督人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任する。
③ 任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、②に規定する者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができる。
家庭裁判所は、明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認めるときは、①及び②の規定にかかわらず、任意後見監督人を選任しないことができる

(3) 任意後見監督人の選任に当たっての考慮
任意後見監督人の選任に当たっての考慮について、次のような規律を設けるものとする。
任意後見監督人を選任するには、本人の意見(任意後見契約の締結の際に本人が公証人に対して任意後見監督人となる者についての希望を申述した場合には、その申述した内容を含む。)、本人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、任意後見監督人となる者の職業及び経歴並びに本人及び任意後見受任者又は任意後見人(これらの者が法人であるときは、その法人及びその代表者をいう。 以下(3)において同じ。)との利害関係の有無(任意後見監督人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と本人及び任意後見受任者又は任意後見人との利害関係の有無)その他一切の事情を考慮しなければならない。

(2)整理

現行の任意後見法における規律は以下のとおり。

参照条文

任意後見契約に関する法律(平成十一年法律第百五十号)

(定義)
第二条 
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号の定めるところによる。
一 任意後見契約 委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいう。
二 本人 任意後見契約の委任者をいう。
三 任意後見受任者 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任される前における任意後見契約の受任者をいう。
四 任意後見人 第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。

(任意後見監督人の選任)
第四条 
任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 本人が未成年者であるとき。
二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2 前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。
3 第一項の規定により本人以外の者の請求により任意後見監督人を選任するには、あらかじめ本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができないときは、この限りでない。
4 任意後見監督人が欠けた場合には、家庭裁判所は、本人、その親族若しくは任意後見人の請求により、又は職権で、任意後見監督人を選任する。
5 任意後見監督人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者の請求により、又は職権で、更に任意後見監督人を選任することができる。

というわけで、以下のとおり変更となる。

任意後見監督人を選任せず、任意後見契約の効力を生じさせることができる。
(この場合は、任意後見人を家庭裁判所が直接監督することになる。)
そのため、要綱案からは抜粋していないが「任意後見人」の定義が変更される。

現行第四条【任意後見監督人の選任】第一項の規定により任意後見監督人が選任された後における任意後見契約の受任者をいう。
要綱案任意後見開始の審判がされた後における任意後見契
約の受任者をいう。

また、任意後見開始の審判の申立権者に「任意後見開始の審判を請求することができる者として公正証書によって本人の指定した者」が追加される。
この「公正証書によって本人の指定した者」というのは、補助開始の審判の請求権者にも追加される。

さらに、任意後見監督人の選任にあたっては、本人の意見、本人の心身の状態、生活状況・財産状況なども考慮要素となる。
「本人の意見」のなかには、選任審判の際の意見のみならず「任意後見契約の締結の際に本人が公証人に対して任意後見監督人となる者についての希望を申述した場合」には、その申述内容を含む。

2.議論の流れ

(1)直接監督について当初は否定的?(部会資料26)

監督人を選任せず任意後見人を家庭裁判所が直接監督することについては、当初、否定する形で要綱案の取りまとめが行われていた。

民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案では、つぎのように「甲案」「乙案」が提示されていた。

第5・1 任意後見制度における監督に関する検討事項、任意後見人の事務の監督の在り方

【甲案】
現行法の規律を維持するものとする。

【乙案】
任意後見監督人による監督を必須のものとせず、家庭裁判所の判断により、家庭裁判所が直接任意後見人の事務の監督をすることを認めるものとする。
(注)本人の任意後見人の事務の監督に対する意向を尊重することができるような制度の在り方に関して、そのような制度の内容、制度を実現する必要な環境整備の内容なども含めて検討すべきであるとの考え方について、引き続き、検討するものとする。

これを受け部会資料26では、甲案・乙案について検討がされている。
(議事録は、本稿作成時点で未掲載)

第1 任意後見制度における監督に関する検討事項
1 任意後見人の事務の監督の在り方
任意後見人の事務の監督の在り方について、現行法の規律を維持するものとの考え方のほか、家庭裁判所の判断によって家庭裁判所が直接任意後見人の事務の監督をすることを認める考え方や、任意後見監督人の監督の責任や監督の範囲を限定する考え方が出されていることを踏まえて、どのように考えるか。
(・・・)
【乙案】については、部会及びパブリック・コメントにおいて、家庭裁判所の体制的に難しいのではないかとの意見がみられた。(・・・)家庭裁判所が例外的に相当と認める場合に任意後見監督人を選任しないとした場合、例外的に相当ということの判断を家庭裁判所が本当にすることが可能か、将来的に持続可能な制度にならないのではないかとの意見もあった。
小括
(6) 以上を踏まえると、任意後見人の事務の監督については、監督の主体及び監督の具体的内容のいずれについても現行法の規律を維持すること【甲案】をとることが相当と も思われるが、 任意後見人の事務の監督の在り方について、どのように考えるか。

その後の部会資料29・部会資料31においては、「任意後見監督人による監督を必須のものとせず」との記載はなく、上記「甲案」を前提に検討が進んでいるように見える。

(2)部会資料32(第31回会議)、部会資料33-1(第32回会議)での転換!?

ところが部会資料32において、つぎのような記述が登場する。

P.6
第30回会議において、現行法の規律を維持することに賛成する意見があった。
他方で、任意後見人の事務の監督に対する負担が大きいと感じている者が多いことが任意後見制度が活用されていない理由となっており、一定の場面に限定した上で任意後見監督人を必須としない制度を設ける べきであるとの意見や、任意後見人側の事情に加え、本人の事情や家庭裁判所の監督体制、地域における支援状況等の事情を考慮した上で、限定した場面に限り、任意後見監督人を選任しないことを認めるのが相当であるとの意見があった。

これを受け、部会資料32のP.6以下で、「現行法の規律を維持する考え方」「家庭裁判所が任意後見監督人を選任しないことを選択できる規律を設ける考え方」のそれぞれについて整理がなされたうえで、次のように議論がまとめられている。

P.8

(2) 規律を設ける 許容性
現行の制度において、任意後見監督人によって、中立公平な立場にある裁判所においてすることができない手厚い助言及び指導を任意後見人に対して行わなくとも、家庭裁判所が任意後見人の事務の監督(間接的な監督)を適切に実施することができている事案も、限定的ではあると思われるが、存在するものと考えられる。(・・・)
また、任意後見監督人を選任していない場合を想定すると、本人保護の観点から職権によって任意後見人の解任を認める必要があるが、私的自治に対する介入として必要最小限の範囲の介入にとどまるとして許容されるとも考えられる。
(・・・)

結果として、部会資料33-1では、上記要綱案の抜粋に記載したような「任意後見監督人を選任しないことができる。」との記載が登場した。
いかんせん議事録がアップされていないので、どういった議論が交わされたかは現時点で不明である。

部会資料33-1を補足する部会資料33-2では、次のように説明がなされている。

P.26

前回の部会における 議論を踏まえ、後記第4の4記載のとおり、家庭裁判所において明らかに必要がないと認めるときには、例外的に任意後見監督人を選任しないことを認める制度を設けることとした。

部会資料33-1は「法制審議会民法(成年後見等関係)部会第32回会議(令和8年1月13日開催)」における資料である。
そのため、上記抜粋の「前回の部会」とは、第31回会議を指すと思われる。
くどいが、本稿作成時点で、議事録は掲載されていない。

P.29

2 任意後見監督人の選任
前回の部会における議論を踏まえ、 例外的に任意後見監督人を選任しないことができる制度を設けることとした。任意後見監督人が欠けている場合に、家庭裁判所が請求又は職権で任意後見監督人を選任することとしている。なお、任意後見開始の審判の際ではなく、事後的に任意後見監督人を選任する場合も、家庭裁判所は任意後見監督人を選任できるものと解することとしている。 当初任意後見監督人を選任しておらず、後から任意後見監督人を選任することも可能である。そして、任意後見監督人が選任されていない場合において、任意後見人と本人の間に利益相反がある場合も想定されうるが、このような場合には、「明らかに任意後見監督人による監督の必要がない」 に該当しないとして、任意後見監督人を選任することによって、対応することとなる 。 そのため、本人と任意後見人の間に利益相反があるかは、「明らかに任意後見監督人による監督の必要がない」かを判断する上での考慮要素の一つとなると思われる。

3.感想

「明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認めるとき」とは、どのような場合であるのか。
部会資料32には、つぎのような記述がある。

P.9

(3) 限定的な場面に関するものであること
前記のとおり、基本的には、任意後見監督人によって任意後見人の事務を監督することが、 任意後見人の事務の監督の在り方として望ましいといえると考えられることを踏まえると、原則として、任意後見監督人を選任することが必要であり、任意後見監督人による 任意後見人の事務の監督をすることが原則であると考えら れる 。
そこで、任意後見受任者が成年後見制度に精通した弁護士等の専門職である場合など明らかに任意後見監督人による監督の必要性がないと認められる場合に限定して、任意後見人の事務の監督について、家庭裁判所が例外的に任意後見監督人を選任しないことを選択できるようにすることが考えられる。

「任意後見受任者が成年後見制度に精通した弁護士等の専門職である場合」が「明らかに任意後見監督人による監督の必要性がないと認められる場合」の例として挙げられている(財産状況等までは踏み込まないのか?)。
選任件数的には「司法書士」のほうが多いのだけれど、制度理解の程度を見られるということか?
社協など、そこらの専門職よりも大量に任意後見を受任している団体の扱いはどうか?

また、「本人の意見(任意後見契約の締結の際に本人が公証人に対して任意後見監督人となる者についての希望を申述した場合・・・)」として「任意後見監督人の選任を希望しない」旨の申述が可能か。
可能として、その点は「明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認めるとき」の判断にあたり考慮されるのか。

また任意後見人による財産管理がスタートした後に、財産状況を整理することで「明らかに任意後見監督人による監督の必要がないと認めるとき」に転じうることもあるのではないか。
要綱案においては、「解任」につき、つぎのような規律を提案している。

7 任意後見人の解任等

(1)任意後見開始の審判の障害事由
任意後見契約法第4条第1項第3号ハの規律を次のように改めるものとする。
不正な行為その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

(2)任意後見人の解任
任意後見契約法第8条の規律を次のように、改めるものとする。
任意後見人が不正な行為をしたとき、又は任意後見人がその任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でないときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族、補助人、補助監督人若しくは検察官の請求により、又は職権で、任意後見人を解任することができる。

現行法における任意後見監督人の辞任・解任に関する規律は、つぎのとおり。

参照条文

任意後見契約に関する法律(平成十一年法律第百五十号)

(任意後見監督人の選任)
第四条 
任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 本人が未成年者であるとき。
二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

(任意後見人の解任)
第八条 
任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができる。

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