1.夫婦同姓に関する判例
夫婦同姓を定める,民法750条について,その規定が憲法に反するのではないか,規定を改廃しない立法府に違法(なすべきことをしないという意味での違法)があるのではないかという主張に対する最高裁判所の判断が示されました。
(平成26(オ)1023損害賠償請求事件 平成27年12月16日最高裁判所大法廷判決)
非常に注目度が高く,私自身もこの事案に関する質問を何度か受けました。
自分の情報整理の意味も含めて,まとめてみました。
(判例の内容については,未到達です。。。)
あらためて民法750条および,これが反するとして列挙された憲法13条, 14条1項,24条1項及び2項を確認すると,次のとおりです。
2.条文
民法(明治二十九年四月二十七日法律第八十九号)
第七百五十条 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。
日本国憲法(昭和二十一年十一月三日憲法)
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
3.最高裁の判断と個別意見
(1)判断と意見の種類
最高裁判所の判断は次のとおりです。
「夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定は,憲法13条,14条1項,24条に違反しない」
今回の判例(最高裁判所の判断)には,裁判にあたった各裁判官の個別の意見がついています。
- 裁判官寺田逸郎の補足意見
- 裁判官櫻井龍子,同岡部喜 代子,同鬼丸かおる,同木内道祥の各意見
- 裁判官山浦善樹の反対意見
補足意見というのは,結論に至る理由付けを補足するもの。
意見というのは,結論は同じであるけれども,理由付けが異なるもの。
反対意見というのは,結論を異にするものです。
(2)各意見の内容
今回の判例は,民法750条の規定は,①憲法に違反しないし,②国家賠償法上の違法もない(国が,あらためるべき規定を改めていないという違法はない)という結論です。
これに対し,各意見は,①憲法には違反しているが,②国家賠償法上の違法はないというものです。
反対意見は,①憲法にも違反しているし,②国家賠償法上の違法もあるというものです。
そうしてみると,最高裁判所の裁判官は15名ですから,憲法に違反するか否かという論点だけを考えると,5人の裁判官が違憲であると判断したわけです。
判例中,興味深いなと思った箇所を,抜粋となりますが挙げておきます。
「裁判官寺田逸郎の補足意見」 から
法律関係のメニューに望ましい選択肢が用意されていないことの不当性を指摘し,現行制度の不備を強調するものであるが,このような主張について憲法適合性審査の中で裁判所が積極的な評価を与えることには,本質的な難しさがある。
現行民法における婚姻は,上記のとおり,相続関係(890条,900条 等),日常の生活において生ずる取引関係(761条)など,当事者相互の関係に とどまらない意義・効力を有するのであるが,男女間に認められる制度としての婚姻を特徴づけるのは,嫡出子の仕組み(772条以下)をおいてほかになく,この仕組みが婚姻制度の効力として有する意味は大きい 。
多岐にわたる条件の下での総合的な検討を念頭に置くとなると,諸条件につきよほど客観的に明らかといえる状況にある場合にはともかく,そうはいえない状況下においては,選択肢が設けられていないことの不合理を裁判の枠内で見いだすことは困難であり,むしろ,これを国民的議論,すなわち民主主義的なプロセスに委ねることによって合理的な仕組みの在り方を幅広く検討して決めるようにすることこそ,事の性格にふさわしい解決であるように思える。選択肢のありよ うが特定の少数者の習俗に係るというような,民主主義的プロセスによる公正な検討への期待を妨げるというべき事情も,ここでは見いだすに至らない。
「裁判官木内道祥の意見」 から
氏の変更は,本来的な個別認識の表象というべき氏名の中の氏のみの変更にとどまるとはいえ,職業ないし所属と氏,あるいは,居住地と氏による認識を前提とすると,変更の程度は半分にとどまらず,変更前の氏の人物とは別人と思われかねない。 人にとって,その存在の社会的な認識は守られるべき重要な利益であり,それが失われることは,重大な利益侵害である。
問題となる合理性とは,夫婦が同氏であることの合理性ではなく,夫婦同氏に例外を許さないことの合理性であり,立法裁量の合理性という場合,単に,夫婦同氏となることに合理性があるということだけでは足りず,夫婦同氏に例外を許さないことに合理性があるといえなければならない。