役員選任権付の種類株式について

1.条文

(1)会社法

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(異なる種類の株式)
第百八条 
株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、指名委員会等設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。
(・・・)
九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。次項第九号及び第百十二条第一項において同じ。)又は監査役を選任すること。
2 株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
(・・・)
九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること 次に掲げる事項
イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項

108条3項については言及しない。

法務省令で定める事項はつぎのとおり。

参照条文

会社法施行規則(平成十八年法務省令第十二号)

(種類株主総会における取締役又は監査役の選任)
第十九条 
法第百八条第二項第九号ニに規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役)を選任することができる場合にあっては、次に掲げる事項
イ 当該種類株主総会において社外取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である社外取締役又はそれ以外の社外取締役。イ及びロにおいて同じ。)を選任しなければならないこととするときは、その旨及び選任しなければならない社外取締役の数
ロ イの定めにより選任しなければならない社外取締役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する社外取締役の数
ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
二 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において監査役を選任することができる場合にあっては、次に掲げる事項
イ 当該種類株主総会において社外監査役を選任しなければならないこととするときは、その旨及び選任しなければならない社外監査役の数
ロ イの定めにより選任しなければならない社外監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する社外監査役の数
ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項

(2)整理

以下では「取締役」に絞って確認していく(「委員会設置会社」も当然無視!)。

要するに、選任できる取締役の「数」を明確にする必要がある。
(後記3(1)に注意!!)

さらに、他の種類株式と共同で選任することも可能である。この場合にも、選任するべき「数」を明確にする必要がある。

また、会社法112条についても留意が必要。
種類株主総会において取締役を選任すべき時に、当該種類株主総会での選任ができないときには、当該種類株式に関する規定がなかったことにされてしまう。
(取締役を選任できない状態が発生することを防止するため。)

参照条文

(取締役の選任等に関する種類株式の定款の定めの廃止の特則)
第百十二条 第百八条第二項第九号に掲げる事項(取締役に関するものに限る。)についての定款の定めは、この法律又は定款で定めた取締役の員数を欠いた場合において、そのために当該員数に足りる数の取締役を選任することができないときは、廃止されたものとみなす。
2 前項の規定は、第百八条第二項第九号に掲げる事項(監査役に関するものに限る。)についての定款の定めについて準用する。

2.種類株式の内容(定款記載例)

(1)条文から要件を整理

定めるべきことが多い。

発行可能種類株式総数

当該種類株主総会において取締役を選任すること及び選任する取締役の数

(全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは)当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役の数

(上記事項を変更する条件があるときは)その条件及びその条件が成就した場合における変更後の上記事項

(2)定款記載例(取締役の員数は5名。普通株式とA・B種類株式を発行。)

A種類株式の株主は、A種類株式の株主を構成員とする種類株主総会において、取締役1名を選任する。
B種類株式の株主は、B種類株式の株主を構成員とする種類株主総会において、取締役1名を選任する。
普通株式の株主とA種類株式の株主とB種類株式の株主は、共同で開催する種類株主総会において、取締役3名を選任する。

3.役員選任の方法

(1)普通株式との関係性

参照条文

(種類株主総会における取締役又は監査役の選任等)
第三百四十七条 
第百八条第一項第九号に掲げる事項(取締役(・・・)に関するものに限る。)についての定めがある種類の株式を発行している場合における第三百二十九条【選任】第一項、第三百三十二条【取締役の任期】第一項、第三百三十九条【解任】第一項、第三百四十一条【役員の選任及び解任の株主総会の決議】並びに第三百四十四条の二第一項及び第二項の規定の適用については、第三百二十九条第一項中「株主総会」とあるのは「株主総会(取締役(・・・)については、第百八条第二項第九号に定める事項についての定款の定めに従い、各種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会)」と、第三百三十二条第一項及び第三百三十九条第一項中「株主総会の決議」とあるのは「株主総会(第四十一条第一項の規定により又は第九十条第一項の種類創立総会若しくは第三百四十七条第一項の規定により読み替えて適用する第三百二十九条第一項の種類株主総会において選任された取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。以下この項において同じ。)については、当該取締役の選任に係る種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会(定款に別段の定めがある場合又は当該取締役の任期満了前に当該種類株主総会において議決権を行使することができる株主が存在しなくなった場合にあっては、株主総会))の決議」と、第三百四十一条中「第三百九条第一項」とあるのは「第三百九条第一項及び第三百二十四条」と、「株主総会」とあるのは「株主総会(第三百四十七条第一項の規定により読み替えて適用する第三百二十九条第一項及び第三百三十九条第一項の種類株主総会を含む。)」と、第三百四十四条の二第一項及び第二項中「株主総会」とあるのは「第三百四十七条第一項の規定により読み替えて適用する第三百二十九条第一項の種類株主総会」とする。
(・・・)

大変読みにくい条文である。

329条だけ溶け込ませてみるとつぎのとおり。

<通常>
第三百二十九条
役員(・・・)は、株主総会の決議によって選任する。

<種類株式あり>
第三百二十九条
役員(・・・)は、株主総会(取締役(・・・)については、第百八条第二項第九号に定める事項についての定款の定めに従い、各種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会)の決議によって選任する。

つまり選任権付株式が発行されると、選任は全て「種類株主総会」で実施されることに。

(2)定時株主総会との関係

役員の任期満了改選にあたっては、定時株主総会終了後(任期満了後)に、種類株主総会を開催して役員の選任をすることになる。
(理論上は、前後逆にするのも良いのか?)

(3)取締役の選任

通常の株主総会での選任は不可となる。

それぞれの種類株主総会(共同して開催される総会も含む)において、取締役を選任しなければならない。

そういう意味で「使い勝手が悪い」といわれるのだろうか??

4.拒否権付の種類株式との比較

(1)条文

参照条文

会社法(平成十七年法律第八十六号)

(異なる種類の株式)
第百八条 
株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、指名委員会等設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。
(・・・)
八 株主総会(・・・)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
(・・・)
2 株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
(・・・)
八 株主総会(・・・)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項
イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
(・・・)

拒否権付株式が発行された場合には、たとえば株主総会における決議要件が下記のとおり変化する。

参照条文

(種類株主総会の決議を必要とする旨の定めがある場合)
第三百二十三条 
種類株式発行会社において、ある種類の株式の内容として、株主総会(・・・)において決議すべき事項について、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする旨の定めがあるときは、当該事項は、その定款の定めに従い、株主総会、取締役会又は清算人会の決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。

(2)整理

以下、株主総会の決議のみを念頭に置いて、検討していく。
(取締役会決議に拒否権を付与することもできるが、それについては言及しない。)

まず、種類株式の内容として、次の事項を明確にしなければならない。

  • 発行可能株式総数
  • 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
  • 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件

そして、当該種類株式がある場合には、株主総会の決議に加えて、

当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要となる。

(3)種類株式の内容(定款記載例)

当会社の次の事項については、当会社の株主総会決議のほか、A種類株式の株主(以下「A種類株主」という。)による種類株主総会(以下「A種類株主総会」という。)の決議があることを必要とする。

  1. 取締役及び監査役の選任並びに解任
  2. 定款変更
  3. 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転および株式交付
  4. 会社法第467条(事業譲渡等の承認等)第1項第1号から第4号までに掲げる行為
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