目次
1.登記すべき事項の確認
(1)不動産登記
不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)
(権利に関する登記の登記事項)
第五十九条
権利に関する登記の登記事項は、次のとおりとする。
一 登記の目的
二 申請の受付の年月日及び受付番号
三 登記原因及びその日付
四 登記に係る権利の権利者の氏名又は名称及び住所並びに登記名義人が二人以上であるときは当該権利の登記名義人ごとの持分
(・・・)
不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)
(申請情報)
第三条
登記の申請をする場合に登記所に提供しなければならない法第十八条の申請情報の内容は、次に掲げる事項とする。
一 申請人の氏名又は名称及び住所
(・・・)
というわけで、
個人については「氏名及び住所」、法人においては「名称及び住所」が登記事項となる。
法人についても「住所」とされているが、これは「本店又は事務所の所在場所」を指すものと考えらる。
(参照:小池 信行 (監修), 藤谷 定勝 (監修), 不動産登記実務研究会 (著)『Q&A 権利に関する登記の実務 II 第1編 総論(下)』日本加除出版 (2007/3/1)P.22)
(2)商業法人登記
株式会社の場合
会社法(平成十七年法律第八十六号)
(株式会社の設立の登記)
第九百十一条
(・・・)
3 第一項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店及び支店の所在場所
(・・・)
一般社団法人の場合
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成十八年法律第四十八号)
(一般社団法人の設立の登記)
第三百一条
(・・・)
2 前項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 目的
二 名称
三 主たる事務所及び従たる事務所の所在場所
(・・・)
組合等登記令(医療法人や社会福祉法人などが対象)の場合
組合等登記令(昭和三十九年政令第二十九号)
(設立の登記)
第二条
(・・・)
2 前項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
一 目的及び業務
二 名称
三 事務所の所在場所
(・・・)
2.住所とは、本店・事務所とは
(1)住所について
住民基本台帳法(昭和四十二年法律第八十一号)
(住民の住所に関する法令の規定の解釈)
第四条
住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第十条第一項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない。
地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)
第十条
市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。
② 住民は、法律の定めるところにより、その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。
住所の記載については、住民基本台帳事務処理要領から参照したかったが、公開されているものを確認できなかったため、大阪市の同要領より引用。
「大阪市住民基本台帳事務処理要領」より抜粋
住所の表示は、「大阪市住居表示実施基準に基づき」(例)「△△1 丁目 2 番 3 号」、住居表示の特例が実施されている一棟の建物(団地設計建物等)については、(例)「△△4 丁目 5 番 6-101 号」)と記載する。6 は棟番号を表記。
https://www.city.osaka.lg.jp/shimin/cmsfiles/contents/0000250/250767/youryou200401.pdf 230918確認
河川敷等、地番が付されていない場合には、「○○号先」「○○番地先」と表示する。
団地・アパート等は、住居表示の特例が実施されている場合を除き、団地名・マンション名等および、室番号を記載する。
間借人等、複数世帯で別個に世帯を構成する場合は、「何某方」まで記載する。
こうしてみると、マンション名・部屋番号も一体として「住所」を表示していると考えられる。
(2)本店所在場所・事務所所在場所について
大正13年12月17日民事第1194号回答
【要約】
法人の定款に記載すべき事務所は、その所在を最小行政区画によって表示すればOK。
定款に記載すべき本店(または事務所)の所在記載として、町名(〇〇町二丁目)・街区符合(〇番)・住居番号(〇号)まで表示する必要はない。
定款に記載しなかった場合の所在場所の決定については、業務執行の意思決定機関により決定される。
(例:取締役会非設置会社においては、取締役の過半数の決定。)
所在場所については「番地まで特定して表示すること」を要する。
(参照:筧 康生 (編集), 神﨑 満治郎 (編集), 土手 敏行 (編集)『詳解商業登記』きんざい; 全訂第3版 (2022/2/3)P.619)
ビル名や部屋番号の記載については、ハンドブックP.18に記載あり。
(その他、同一商号・同一本店に関する質疑応答ではあるが、登記研究720号205号も参考となる。)
(手元に旧版しかないが、「神﨑満治郎 (著), 金子 登志雄 (著), 鈴木 龍介 (著)『商業・法人登記360問』テイハン (2018/5/12)P.359以下」もナルホド!という記述)
3.道府県名省略の可否
(1)不動産登記において
管轄法局からの事務連絡においては、つぎの点が「申請書に記入して欲しい事項」として列挙されている。
- 政令指定都市の場合には、道府県名を省略。
- 県名と市名が同一の場合には、府県名を省略。
- 東京都区部については「東京都」を記載。
1点目については、どこが政令指定都市なのか判別しにくいのだが、個人の場合には「住民票」の記載が道府県名を省略して記載されていることで確認できる(ように思う。住民基本台帳事務処理要領では本取扱いを「できる」と規定。)。
2点目については、どうしてなのだろうか?
- 高知県高知市
- 長野県長野市
- 青森県青森市 など
3点目については、そもそも省略する気持ちにならないかも。
(なお、東京都においては政令指定都市は、存在しない(令和5年8月時点))
参考までに総務省HPにおける政令指定都市一覧。
マンション名等の表示に関しては、つぎの先例が存在する。
昭和40年12月25日民甲第3710号通達
【要旨】
住民票の住所欄中に「市営住宅〇号」等の記載がある場合には、「市営住宅〇号」等を住所として記載することは差し支えない。
そのように登記がなされたうえで、たとえば後続の申請で提出された印鑑証明書の住所欄に「市営住宅〇号」の記載がなかった場合においても、住所の更正登記は不要である。
上記通達の解説(登記研究220号61頁以下)においては「登記事務の取扱上は住所の表示としては、番地までを記載すれば足りるとして取り扱ってきた」とされている。
(2)商業法人登記において
昭和32年12月24日民甲第2419号通達
【要約】
本店、事務所又は役員の住所等については、「地方自治法252条の19第1項の指定都市」及び「都道府県名と同一名称の市」を除いては、都道府県名をも記載するものが相当
ただし、このように記載がなされていない場合においても、そのことのみをもって却下すべきではなく、この場合には申請書に記載のとおりに記録するほかない。
商業法人登記にあっては、先例によって省略可能な範囲が示されている。
ただし「却下事由」には該当しない点がモヤモヤ。
4.感想
あたりまえに処理していることについても、根拠をたどっていくと新たな発見があると感じた。