同順位の抵当権抹消と一括申請

2023年7月15日

1.条文

(1)一括申請の基本

参照条文

不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)

(申請情報の作成及び提供)
第四条 
申請情報は、登記の目的及び登記原因に応じ、一の不動産ごとに作成して提供しなければならない。ただし、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるときその他法務省令で定めるときは、この限りでない。

原則は、つぎのとおり。

  • 登記の目的ごと
  • 登記原因ごと
  • 一の不動産ごと

原則的には、不動産ごとでも分ける必要があるというのは、あらためて押さえておきたい。

例外(一括申請が可能な場合)は、つぎのとおり。
これを一括申請の「基本形」と呼称する。

  1. 同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産に関する申請であること。
  2. かつ、登記の目的が同一であること。
  3. かつ、登記原因及びその日付が同一であること。

以上の1~3の要件を満たすのであれば、一括申請が可能。

「登記の目的」については、抽象的な意味合いで同一性をもてば良いものと考えられる。
(「所有権移転」と「A持分全部移転」は同一性あり。注:第三者の権利の登記がある場合。)

そう考えると「登記原因」の同一性をどう考えるかが難しいように思う。
上記条文でいう「登記原因が同一」というのは、つぎの要件を満たす必要があるとされる。
【参照:登記研究783号79頁【実務の視点】(49)P.113以下】

  • たんに「弁済」とか「解除」とか抽象的な意味合いでの一致では足りず、実体的な内容での同一性を有すること。
  • 登記申請上の当事者も一致すること。

前者については、同一の抵当権者・設定者間において複数の抵当権(被担保債権は異なる)が設定されていたケースにおいて、同一日付で弁済により被担保債権が消滅した場合の取扱いに関わる。
登記原因はいずれも「弁済」となるが、実体的には「異なる債務に対する弁済」であるとして区別されるのだろうか?債務者の違いは考慮しないのだろうか?

後者については、当然の前提とされているのか、「登記原因の同一性」から導かれるところなのか、どちらなのだろうか?(どちらかというと前者?)

個人的には、「登記原因が同一」という要件で、「登記原因となる法律行為等の同一性」と「関係する当事者の同一性」をバランスを取りながら見ていくような印象がある。

(2)不動産登記規則に定める例外

参照条文

不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)

(一の申請情報によって申請することができる場合)
第三十五条 
令第四条ただし書の法務省令で定めるときは、次に掲げるときとする。
(・・・)
八 同一の登記所の管轄区域内にある一又は二以上の不動産について申請する二以上の登記が、いずれも同一の登記名義人の氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記又は更正の登記であるとき。
九 同一の不動産について申請する二以上の権利に関する登記(前号の登記を除く。)の登記の目的並びに登記原因及びその日付が同一であるとき。
十 同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産について申請する登記が、同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権(以下「担保権」と総称する。)に関する登記であって、登記の目的が同一であるとき。

8号は、つぎの条件を満たす場合。

  1. 同一の登記所の管轄区域内にある一又は二以上の不動産に関する申請であること。
  2. かつ、いずれも同一の登記名義人の表示変更(又は更正)の登記であること。

9号は、つぎの条件を満たす場合。

  1. 権利に関する登記申請であること。
  2. かつ、同一の不動産について申請する二以上の権利に関する登記であること。
  3. かつ、登記の目的が同一であること。
  4. かつ、登記原因及びその日付が同一であること。

10号は、つぎの条件を満たす場合。

  1. 同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権に関する登記であること。
  2. かつ、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産に関する申請であること。
  3. かつ、登記の目的が同一であること。

(3)抵当権に関して整理

複数の抵当権設定登記の抹消について、整理すると、つぎのとおり。

まず第1に、基本形に該当すれば、当然一括申請が可能となる。

  1. 同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産に関する申請であること。
  2. かつ、登記の目的が同一であること。
  3. かつ、登記原因及びその日付が同一であること。

つづいて第2に、規則35条9号に該当するケースが考えられる。

  1. 権利に関する登記申請であること。
  2. かつ、同一の不動産について申請する二以上の権利に関する登記であること。
  3. かつ、登記の目的が同一であること。
  4. かつ、登記原因及びその日付が同一であること。

そして第3に、規則35条10号に該当するケースが考えられる。

  1. 同一の債権を担保する先取特権、質権又は抵当権に関する登記であること。
  2. かつ、同一の登記所の管轄区域内にある二以上の不動産に関する申請であること。
  3. かつ、登記の目的が同一であること。

2.ケースで考える

(1)設定者の異なる共同抵当権の一括抹消

A銀行は、Bの所有する甲不動産と、Cの所有する乙不動産について、抵当権(同一の被担保債権で債務者B)を設定した。

Bは、被担保債務について令和5年6月1日に全額弁済をし、これにより抵当権は令和5年6月1日弁済により消滅した。

整理するとつぎのとおり。

甲不動産の抵当権抹消乙不動産の抵当権抹消
権利者
義務者
登記の目的抵当権抹消抵当権抹消
登記の原因弁済弁済
登記原因日付令和5年6月1日令和5年6月1日
不動産

(2)先例・質疑応答

10号の適用となるケースである。

基本形では「当事者が同一ではなく、登記原因が異なる。」ということになるのだろうか。
登記原因は「いずれも同一の債権に対する弁済」であるから、OKであるように思う。
(登記原因が「解除」だったら、登記原因は異なると言われることには納得できる。)

(3)同一の不動産に設定された複数の抵当権の一括抹消

A銀行は、Bの所有する甲不動産について、1番抵当権(被担保債権の債務者α)・2番抵当権(被担保債権の債務者β)を設定した。

Bは、各債務について令和5年6月1日に全額弁済をし、これにより1番抵当権・2番抵当権は令和5年6月1日弁済により消滅した。

抵当権1・2の抹消登記申請を比較すると、つぎのとおり。

1番抵当権の抹消2番抵当権の抹消
権利者
義務者
登記の目的抵当権抹消抵当権抹消
登記の原因弁済弁済
登記原因日付令和5年6月1日令和5年6月1日
不動産

形式的にみると順位番号以外はすべてが一致する。
9号への該当が検討されるものとなる。

「登記の原因」の同一性については、異なる債務に関して「同日弁済」であるが、どうか?

(4)質疑応答

上記ケースに関連して、質疑応答が掲載されている
【登記研究401号162頁。結論として一括申請を肯定。】。

そこで引用されているのが次の先例である。

昭和42年7月22日民甲第2121号通達
第1の1の(3)の2

【要旨】
一個の不動産につき数個の抵当権抹消登記の申請を同一申請書でする場合、その登録免許税は1000円で足りる。

【参照:登記研究783号79頁【実務の視点】(49)P.115】

「登記の原因」の同一性について、どう考えるか。
「弁済」であるから形式的には一致するが、対象となる債権が異なる。一方で、当事者についてはバッチリ一致している。

3.まとめ

(1)同順位あ・いの抵当権抹消について

同一の債権者について、同順位で設定された(あ)(い)抵当権についても「登記原因及びその日付」が同一であるのならば、上記質疑応答に照らして考えてみれば当然に一括申請が可能であろう。

登記原因の同一性をどこまで考えるべきかが、スッキリしない。

(2)さいごに

迷ったら分けよ!

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